第346話 王女殿下、神罰のくだされた帝城を発つまでの動きを見守る
(第一王女視点)
第一王女は、神罰のくだされたオドウェイン帝国の帝城を特使が発つまでの動きを見守ります。
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テーナ第二皇女殿下を慰められていらっしゃるメリユ様。
それは『使徒様に慰撫される修道女』とでも題される宗教画のような美しい光景だったわ。
実際は、ご神罰をくだされたオドウェイン帝国皇帝陛下の娘でいらっしゃるテーナ第二皇女殿下が挽回の機会を活かせなかったことに悔やまれ、悲しまれているのをメリユ様が慰めていらっしゃるのだけれど。
本当に、この世界=エルゲーナで最も権勢を誇ったオドウェイン帝国がこのようになるだなんて、誰が想像できたことだろう。
わたしは……『鳥船』だけでも十分、ご神威を示され、戦を諦めさせられると思っていた。
しかし、実際には、驕り高ぶられた帝室、高位貴族の方々は『現実』を受け入れられなかったのね。
オドウェイン帝国の大司教猊下のお示しになられた『全ては幻影だ』というまやかしに縋り、帝国の危機に気が付くことができなかった。
その結果、皇帝陛下は『神隠し』に遭われ、帝室、高位貴族、聖職者の方々もその多くが物言わぬ像へと変えられてしまった。
おそらく、今の天におわせられる神は、彼らに慈悲をかけられることはないだろう。
ご神命のままに、全てが執行されれば、オドウェイン帝国はこのまま滅びを迎えることになるのだと思う。
ええ、本当に信じられないわ。
王城でオドウェイン帝国の不穏な動きを聞いていたときは、ミスラク王国の終焉すら覚悟していたというのに、今やご神罰のご執行を見守る立場にいて……そして、メリユ様を信じ、支える側にいるだなんてね。
「メリユ様、『神隠し』に遭われたお方は、どれほどで神の御元に召されるのでございましょう?」
「そうでございますね。
お身体を動かされなければ、三日ほどで召されるかと存じますが、一日でも渇きは辛いものになるかと存じますわ」
「なるほど、罪を犯したことを悔やみ、神に懺悔し続けたとしても、三日程度で召されてしまわれるのでございますね」
確かに全く水が飲むことが叶わない状況というのは、考えただけでも苦しいものだと思うわ。
特使の一員として『鳥船』から下降してから、わたしは(状況が状況だけに)まだ一度も水を口にしていないのだけれど、それでもそろそろ辛いと感じているのだから。
本来であれば、この謁見の間で上質なお茶をいただけるところだと思うけれど、バリアを張っている以上、そういう訳にもいかない。
事前の協議では、ご神罰のご執行に至った場合、一度『鳥船』に戻り、休息をとることになっているのだけれど、事態が最悪の状況にまで至ってしまったせいで、長引いてしまっているのよね。
「お父様、父は三日で身罷られる……と」
「ええ、タダ、あのように動かれていらっしゃる場合、水分が足りなくなるのも早くなり、より早く天に召されることになるかと存じますわ」
「皇帝へーか、あんなにうろうろされている、いますから、喉渇きそうです」
メルー様のお言葉の通りであれば、皇帝陛下は、動揺され動き回られているということなのだろう。
まあ、それはそうだろうと思う。
ご自身のお身体が透け、誰にも見てもらえず、聞いてももらえない中、『渇きと飢えの中で天に召される』とお聞きになって落ち着いていられる訳がないだろう。
あれほど落ち着きを払われていた皇帝陛下も、所詮は『人の子』
いざ天に召されるそのときが迫ってきたとなれば、そのようになるのも仕方のないことなのだろうと思うわ。
「メリユ様、わたくしが父の罪を肩代わりすることは叶いませんでしょうか?」
「テーナ、お前は何を言って!?」
そして、メリユ様のお翼に包まれていらっしゃるテーナ第二皇女殿下が手を合わせられ、祈るようにそう告げられる。
本当にテーナ第二皇女殿下は出来たお方だと思う。
ええ、テーナ第二皇女殿下は、帝室の存続よりも、帝国の民に大きな影響が及ばないよう、治世の安定を望まれた上でそのお言葉を発せられたのだと分かるのだもの。
オドウェイン帝国の歴代皇帝陛下に、女帝はいらっしゃらないはずだけれど、もしかすると……と思ってしまうわ。
もちろん、ご本人は皇位継承権を放棄すると表明されていらっしゃるのだけれど……もし帝国を存続させるのであれば、彼女のようなお方が皇位を継ぐべきなのではないかしら?
「なりませんわ、テーナ様」
「やはり、神は父をお赦しになられませんでしょうか?」
「テーナ、お前は『神隠し』のご神罰を肩代わりするなど、正気で言っているのか!?」
やんわりと否定されるメリユ様に、今になって慌てていらっしゃるアレム第二皇子殿下。
ああ見えて、兄として妹のテーナ第二皇女殿下のことを大切に思われていらっしゃるのね。
「アレムお兄様、わたくしは本気ですわ。
わたくしが三日後に命散らすことになりましても、お父様の治世を終わらせられるよりかは……」
「馬鹿なことを言うな! テーナ、お前はまだ若い!
陛下……父上が神よりそれだけの『ご神罰』をくだされたというなら、それまでだったということなのだ。
お前が肩代わりするようなものではない!」
メリユ様がお翼を広げられ、テーナ第二皇女殿下への抱擁(?)を解かれると、アレム第二皇子殿下が彼女を抱き留めに行かれる。
わたしもお兄様とはまあまあ仲の良い方だと思うけれど、帝室でもこのような兄妹愛があるものなのね。
その光景を微笑ましく思いながら、わたしはメリユ様のお傍に行き、その耳元に囁くの。
「それで、メリユ様はどれほどのご慈悲を振る舞われるおつもりなのでしょう?」
他のお方には聞かれてはいけないこと。
それは分かっているのだけれど、訊かずにはおられなかったわ。
「そうですわね。
陛下がご自身の命運が尽きたと思われた頃合いには……皆様にお戻りいだたくくらいでしょうか?」
「もう、お姉様ったら、お優しいのですから」
わたし=メグウィンが姉同然に慕い、わたし=メルカが愛した貴女のことなのだもの。
当然のように分かっていたわ。
ファウレーナ姉様(そう言えば、前世でもお姉様ように思っていたのよね)はそういうお方なのだから!
「それでは、皆様、『鳥船』へ帰還いたしましょう」
サラマ様のお言葉に、皆が頷かれる。
メリユ様が特使の中でもっともお偉いのは確かだけれど、元々聖国、王国の特使として、その責任を担われていらっしゃるのはサラマ様なのだから、ここはサラマ様のご決断に従うところなの。
「ぉ、お待ちを!
このままでは、我が帝国は……帝城は!」
「ティスジイック宰相閣下、今の帝城は特使をもてなすことすらできませんでしょう?
そもそも特使の目的は、神よりご警告をお伝えし、最悪の場合にはくだされる『ご神罰』のご執行を見守るのみでございます」
それはそう。
通常の外交特使であれば、謁見を終えたあと、祝宴があり、翌日も歓迎の式典や武芸の披露などが続くことだろう。
しかし、今の帝城はお食事の準備すらもままならない状況で、わたしたちが一晩泊まることすらまともにできないことだろう。
「そんな……もはや帝城は、この夜一晩を越せるかどうかも」
そう、今の帝城は、迎賓どころか、今残っている帝国の者たちすらまともに過ごすことができない状況になっているのよね。
現実が見えているらしい宰相閣下はバリアに張り付き、震える声で必死に訴えかけてこられるのだけれど、サラマ様は冷徹に応対される。
当然のことだと思う。
そもそも、最終的に慈悲が振る舞われるとしても、彼らには一度神がどこまでお怒りになられているかをしっかりとその身に刻んでいただく必要があるのだから。
「宰相閣下、この非常時、エリガポ公爵家が協力いたします」
「貴女は……エリガポ公爵家第三令嬢の……」
「メリユ様、姫様、わたしもこちらに残ることにします」
そこに割って入ってきたのはアリッサとエリガポ公爵家のご令嬢(?)
迎賓のときから、アリッサの傍におられたお方ね。
ええ……アリッサも帝城に残るというの!?
「アリッサ、貴女……」
「こちらのベルベラお嬢様が心配でして。
はは、大丈夫ですよ、これでも野戦訓練で慣れていますから」
「はあ、そういう問題ではないでしょう……」
本当に仕方がないわね。
けれど、もしかすると、未来のオドウェイン帝国にはなくてはならないお方になるのかもしれないとわたしは直感的にそう思って、アリッサを許すことにしたの。
はあ……それにしても、目上の、それも帝国の公爵家令嬢を『ベルベラお嬢様』だなんて、また悪い癖が出たのね。
わたしは呆れたように笑いながら、アリッサに頷いてあげたのよ。
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少々ペースが鈍っておりまして申し訳ございませんが、もう少し落ち着きましたら、週2更新(ストック含めたもの)に戻せればと考えております。
新年度も何卒よろしくお願い申し上げます!!
それにしましても、アリッサさんとベルベラお嬢様も、なかなか良い関係になってきているようでございますね!




