第331話 王女殿下、薄れゆく前世と輝ける今生に思いを馳せながら、主城門を突破する
(第一王女視点)
第一王女は、薄れゆく前世と輝ける今生に思いを馳せながら、主城門を突破します。
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セラム聖国の聖都ケレンに続き、オドウェイン帝国の帝都ベーラートの帝城に降り立ったわたしたち。
今生でメリユ様やハードリー様たちと運命的な再会を果たせたということ自体、驚喜せずにはいられないことだったけれど、まさか、このわたしがメリユ様と共に特使として、このような大国を訪れるようなことになるだなんて、衝撃的過ぎて、未だに現実感がないのよね。
「本当に不思議ね」
前世で(ハードリー様=リーラ様と一緒に)メリユ様と過ごした日々はとても穏やかなものだったの。
いいえ、メリユ様のおかげでその穏やかな日々を手に入れたと言った方が良いのでしょうね。
聖教の、教会側の方々は随分騒いでいらっしゃったようだけれど、少なくとも、わたしたちの生活は平穏そのものと言って良かったはず。
(そう、突如メリユ様とお別れすることになるまでは、ね)
それがまさか、今生では、この歳にして、このような活躍をすることになってしまうだなんて。
メルカとしてのわたしは、また徐々に薄まっていっているようなのだけれど、学院にも入学していない(まだ子供と言って良い)わたしがお兄様以上に外交の場に立ってしまっているだなんて、誇らしく思わずにはいられない。
前世でも、今生でも、女性として、わたしはもっと自分にしかできないことをやり遂げて、わたし自身の存在を世に示したいと思っていたように思うの。
メグウィンとしてのわたしだって、政略結婚以外のわたしが存在した証を残したいと思っていたのだわ。
「ふふ」
メリユ様は、ミスラク王国の危機を察して表舞台に出てこられ、わたしと再会したのだけれど、そのとき、わたしがミスラク王国の第一王女として生まれ変わっていたのは、はたして偶然だろうか?
そして、ハードリー様=リーラ様だって、ハラウェイン伯爵令嬢に生まれ変わり、オドウェイン帝国の工作の被害に遭っておられたのだって、本当に偶然なのだろうか?
いいえ、きっと全ては運命だったのよ。
メグウィンとしてのわたしが第一王女として力を(ぎりぎり)振るえるだけの立場と、知力と、齢と重ねたこの今、メリユ様はわたしの前でお力を使われ、わたしはメリユ様こそがミスラク王国を救われる方だと確信した。
その流れは、神によって仕組まれていたものだったのでは? と思えるくらいに全てがうまく進んだのよね。
それは、ハードリー様だってそう。
ハラウェイン伯爵家の危機に現れたメリユ様に、同じようなことをお考えになられているはず。
それでも、ここまで瞠目せずにはいられないことの連続になるだなんて思いもしなかったわ。
『鳥船』でエルゲーナ=世界最強の軍事国家であるオドウェイン帝国の帝城に乗り付け、皇帝陛下との謁見に臨もうとしているとか、半年前のわたしは信じられたかしら?
無理ね。
学院の卒業後に、友好的なセラム聖国に訪問するくらいはあり得ると思ってはいたでしょうけれど、オドウェイン帝国の帝都ベーラートを訪れる可能性なんて微塵も考えていなかったもの。
「メリユ様」
わたしを先導するように白きお翼を広げられ、聖なる光球を周囲に放たれながら、空を舞われるメリユ様。
そのお背中を見ているだけで、わたしは目頭が熱くなってくるのを感じてしまう。
わたしたちが帝国の儀仗兵や近衛騎士たちから畏敬の念をもって、儀仗を受けられているのはメリユ様のおかげで言って良いのよ。
オドウェイン帝国からすれば、セラム聖国やミスラク王国の軍事力など格下であり、儀仗も威圧するように行われるものだったろうと思うもの。
そう、傲慢になり、エルゲーナ=世界の全てを手に入れようと動き出したオドウェイン帝国の前に立ち塞がれたのがメリユ様。
メリユ様がいらっしゃらなければ、セラム聖国もミスラク王国も存続できなかったことでしょう。
きっと、サラマ様やルーラ様たちとの出会いも、神によって仕組まれていたことのはずと思える。
そんな運命の輪の中にいるわたしたちは、これから一体どんなものを目にすることになるのだろう?
わたしは胸の高鳴りを周囲に悟られないよう、一瞬左手を胸元に宛がって、自分を落ち着かせようとしたのだった。
アリッサと共にいたらしい女近衛騎士の案内で、わたしたちは主城門をくぐろうとして、その城門の落とし格子が二重に下されたままになっているのに気付くの。
本来であれば、特使の視界に入るまでに上げておかなければならないところだろう。
国賓が接近しているというのに上がる気配も見せないとは不敬も甚だしい。
女近衛騎士も慌てた様子を見せ、走っていくが、どうにもきな臭い。
あまりの状況に付いてきたアリッサも主城門の方に走っていくのが見える。
まあ、元は立派だったに違いない大庭園すら衝撃波によって荒れ果てたご様子であるから、特使への儀仗についても意見が分かれていたのかもしれない。
そう、メリユ様にバリアを張っていただいてはいるけれど、襲撃についても(やはり)警戒すべきなのだろう。
そう思っていたときだったわ。
「放てーっ!」
主城門の上から突如として姿を現した弓兵たちが矢を放ち出したのよ。
それも、使徒様のお姿のメリユ様に対して!
キン、キン、キン
とバリアに当たって跳ね返され、下に落ちていく矢の多いこと。
メリユ様に加えて、こちらにはサラマ様だっているのだから、セラム聖国だけでなく聖教に対しても敵対の意思を示したと見られてもおかしくはないでしょう?
絶対に安全と分かってはいても、あまりの暴挙に怒りが込み上げてくるのを感じたわ。
「と、投石開始ーっ」
投石まですると言うの!?
主城門の外側、その下からは見えないよう、隠していたらしい投石機が動作する音がバリア越しにも聞こえる。
微動だにされないメリユ様は、お翼を時折動かされながら、腕を広げられる。
大きな石が空気を切る音がすると共に、コォンとバリアに弾かれ、巨石が砕け散る音が周囲に響いた。
まるで見えない壁に阻まれ、巨石すらも軽々と弾き返すバリアは、はたして主城門の敵兵にはどのように見えたのかしら?
「このまま押し通ります。
アリッサさん、近衛騎士の方とすぐに避難を」
メリユ様が声を張って、主城門の傍にいたアリッサたちに避難を呼びかけられる。
今いる場所は矢や投石からは安全なのだろうけれど、メリユ様がお力を振るわれるとなれば、主城門の傍の方が危険だ。
アリッサは、女近衛騎士の手を握ると、全力で主城門から離れていく。
そして、二人が安全圏まで退避したのを確認されたメリユ様は、再びお翼を(何度か)羽ばたかれると落とし格子の下りた主城門へと向かわれるのだ。
今までと同じ速さでまっすぐに進まれるメリユ様。
バリアが当たると思った次の瞬間、落とし格子が悲鳴のごとき音を立てると同時に中央から押し曲げられ、更に主城門の石アーチにもバリアが当たったのだろう、アーチに一気に亀裂が入って前面から砕けていくと、バリアの形に押し退けられるように破壊が始まり、主城門の上から兵たちが逃げ出していくのが分かる。
「な、なっ、何という……」
近衛騎士団長が言葉を失う。
『鳥船』に比べれば、かわいいものだと思うけれど……やはりお翼はあれど、『人』の形をしたメリユ様が軽々と主城門を突破されていくのは、現実と思えない光景だった。
それでも、バリアに対して絶対的な信頼をよせているわたしたちは、メリユ様に続き、特使の隊列を維持したまま、土煙に襲われることもなく進んでいくのだ。
わたしたちの真上で砕け、左右に分かれるように崩れ落ちていく主城門。
冷静に、表情を変えてはいけないと思いつつも、あまりの高揚感に頬が火照っていってしまうのが分かる。
世界最強の軍事国家の主城門ですら、メリユ様を止めることはできないという現実に、特使の誰もが奮い立ったことだろう。
そう、オドウェイン帝国の皇帝陛下ですら、今やメリユ様には首を垂れなければならない立場にあるだなんて考えると、可笑しくてならなかった。
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主城門、強引に突破されたようでございますね。
お城、大丈夫でしょうか?




