60話 遥のお願い事(1)
体調も徐々に回復して、またいつもの生活をこなす毎日を送っていた。
遥はと言うと、前期のテストも終わり8月半ばから夏休みに入ったとのメールが、僕の昼休憩のご飯時に届いた。
『ねぇ、片瀬さん。お願いしたい事があるんですけど、聞いていいですか?』
「どうしたの、改まって?」
お箸で挟んだ玉子焼きを口にほおばった所で、いつもの感じと違う遥のメールに、僕は次の言葉を待っていた。
『4回生になれば、取らなければならない履修科目も殆ど無くなって、夏休みなると周りの友達は実家に帰ったり、バイトしたり、就職活動したりしてるんですよね。でも私は、今こんなんだから、面接も無理で・・・』
声が出ないと面接だけでなく、仮に採用されたとしても、電話応対も接客も筆談では出来ないだろうし。こればっかりは、気長に治るのを待たないと。変に焦ると尚更ストレスになるだろうし。
『それで、考えたんです。何か出来る事ないかなって』
「うん」
『それで、片瀬さんが仕事に行ってる間・・・」
彼女はそこまで話すと、次の言葉を言う迄が少し空白の時間があったので、玉子焼きが入った口の中に、更に振り掛けご飯をひと口入れた。
何か言いたい事を躊躇してるのかな、遥は。そう思い、僕はその後の言葉の続きをうながした。
「仕事に行ってる間?」
遥は僕の問い掛けに意を決したのか、その後の言葉を話し掛けてきた。
『お掃除したり、料理を作ったりして待ってて良いですか?勿論、夏休み中ずっとじゃなくて、数日だけでもいいんで」
へぇ~、料理作ってくれるんだ、嬉しいなぁ。数日もか~。うん?数日!?
えっ~~~~!!!!
口の中に入っていたご飯を、ペットボトルに入っているお茶で流し込もうと口に含んだ時、あまりに唐突な彼女の要望に咳込んでしまい、「ぶふっ~」と、口の中の物を少し吹き出してしまった。
勿論、周りにいた職員からは「おい~、マジかよ~」と、何とも冷やかな眼差しで見られた事は言うまでもない。




