59話 2人の約束
「さぁ~て、遠藤さんとも話しが出来たし、明日も仕事でしごかれるし、そろそろお邪魔虫は帰りますかね」
静かに立ち上がる亜季に、遥は話し掛けた。
『もう少しゆっくりしていかないんですか?』
「うん、私も夜勤明けだしね。それに、片瀬さんが起きて、まだ私がいてたらうるさいし」
亜季は、寝ている僕を見て、「ベェ~」と小さく舌を出した。
「じゃあ、ご飯よろしく~。またね~、遥さん」
亜季は、遥を残してそそくさと部屋から出て行った。
2人きりになって、家の中は「すぅーすぅー」と、片瀬の寝息だけが聞こえていた。
遥は、片瀬の額に手をそっと当ててみる。
うん、熱が下がってそう。
気持ち良さそうに寝ている片瀬の頬を遥は、人差指でそっと2度押してみた。
何で教えてくれなかったんですか。教えてくれたら家まで行ったのに。
心の中で遥は、片瀬に話し掛けた。
片瀬さん、この前河川敷で私に言ってくれたじゃないですか。お互い助け合っていかなければならないし、私とそう言う関係でいたいって。声は出なくても、私の事、もっと信頼して下さいよ。
すると、片瀬はゴソゴソっと寝がえりをうつと、薄っすらと目を開けた。
「うん、遥?どうしてここに、大学は?」
手にしてたスマホに、遥は素早く文字を入力した。
『おはようございます、片瀬さん。大学の講義は急遽休講になりました』
「へぇ~、そうなんだ。あれ、亜季ちゃんは?」
『片瀬さんが起きてまだ私がいてたら、早く帰れって言われるから、言われる前に帰りま~すって。後、今日の事は、ランチで許すって言ってましたよ(笑)』
僕は、布団からゆっくりと起き上がって、体温計で熱を測ってみる。
「37度か。ふぅ~、だいぶ下がった」
『良かったですね、熱が下がって』
僕は、「うん」と頷いた。
遥は少し真剣な顔つきで、僕の目を真っ直ぐに見てきた。
「うん、何?遥」
『片瀬さん、何かあれば言って下さいね』と、遥は少し頬を膨らませた。
「うん、ごめんごめん。変な心配を掛けさしてしまって」
遥は僕に、右手の小指を差し出してきた。
「うん」と、僕は首を傾げた。
『約束。1人で抱え込まないって』
「はい」と、僕は反省を込めて、遥に右手の小指を差し出し、お互い指切りを交わした。
腕を伸ばし背伸びをした僕は、「遥、お腹すいたぁ~」と、ちょっと甘えながら催促してみた。
『はいはい、分かりましたよ~。おっきな甘えん坊さん』
少し頼られた事に嬉しくなった遥は、僕にニコッと頬笑みを浮かべてから、キッチンの方に軽やかな足取りで歩いて行った。




