120話 夢の中で(6)
あれは・・・長谷川さんに、相原!?どうしてここに・・・。
「何してんね~ん、はよ、戻ってこんか~い」
「早く目を開けないと、長谷川さんにぶたれますよ~」
あの2人、なに必死に叫んでるんだろう?
もう~、これから麻衣と一緒に・・・うん?一緒に!?あれ?一緒にどこ行くんだっけ?・・・。
頭を押さえながら思い出そうとするが、徐々に今までの記憶が音も無く崩れ去っていく。
もう一度、叫んでいる2人に目を向けてみる。
あれ?あの2人は、え~と・・・誰だっけ?
そして、もう1人。2人の後ろにいて見えにくかったけれど、さっき困っている様に見えた20歳くらいの女の子の姿もあった。
彼女は両手を胸の辺りで握りしめ、何かを訴えているみたいだったが、その子の声は聞こえなかった。
何だろ?どこかで見た様な・・・。
そんな時、川の辺りから小さな光が舞い上がった。
うん?蛍!?
薄れゆく記憶の中で、彼女と初めてキスをした時の光景が、走馬灯のように頭に浮かんできた。
確か、あの仕草は・・・あっ、そうだ!!思い出した。
すると、不安そうな声で麻衣が僕の名前を呼んだ。
「悠?」
「ごめん、麻衣・・・僕はまだ、まだそっちに行けそうにないよ」
僕の言葉に彼女は、少し時間をおいてから、「そっか~」と溜息まじりでひと言ぼそっと答えた。
顔を上げて一瞬空を見上げた麻衣は、「あ~ぁ、ざぁ~んねん」と開き直った感じでそう言うと、もう一度僕の方を見つめた。
「そうね、そうみたいね。淋しいけれどその方が良いわよね。悠にはまだ、こっちに来るのは早すぎるものね」
「麻衣」と、僕は静かに答えた。
「もうこれ以上心配させないでよね、悠」
彼女は少し頬を膨らませた。
「そんな顔するなよ、可愛い顔が台無しだよ」
「ほんとにもう、誰のせいよ」と、呆れた様子で彼女は答えた。
「ごめん、ごめん」
「でも、悠に一時でも逢えて・・・良かった」
「うん、僕もだよ。麻衣とは・・・麻衣とは、いつでも会えるから」
「何言ってるのよ。悠には、待っててくれている人が、ちゃ〜んと居てるでしょ」
「麻衣・・・」
「早く次の道を歩みなさい!!」
麻衣は目に涙を浮かべてはいたが、僕の方を真っ直ぐに見つめ、頬笑みを見せてくれた。
しかし、時間が経過と共に麻衣の姿は次第に透き通っていく。
えっ!!麻衣、体が・・・。
僕は咄嗟に麻衣の体を抱き締めようと腕を伸ばしたけれど、僕の両手は無情にも彼女の体をすり抜けていった。
それでも僕は諦めずに、透き通った彼女の体を抱き締め、心の底から声を大にして叫んだ。
「麻衣~~~!!」
「ありがとう、悠」
彼女が微かな声で僕の名前を呼んでくれたのを最後に、麻衣は僕の前から完全に姿を消してしまった。
僕は両膝を着き、さっきまで僕の両腕にいた麻衣の温もりを感じながら、その場で佇んでいた。
さよなら、麻衣・・・。




