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ただ、君だけをみつめて  作者: 新木 そら
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120/136

120話  夢の中で(6)



 あれは・・・長谷川さんに、相原!?どうしてここに・・・。


「何してんね~ん、はよ、戻ってこんか~い」


「早く目を開けないと、長谷川さんにぶたれますよ~」


 あの2人、なに必死に叫んでるんだろう?


 もう~、これから麻衣と一緒に・・・うん?一緒に!?あれ?一緒にどこ行くんだっけ?・・・。


 頭を押さえながら思い出そうとするが、徐々に今までの記憶が音も無く崩れ去っていく。


 もう一度、叫んでいる2人に目を向けてみる。


 あれ?あの2人は、え~と・・・誰だっけ?


 そして、もう1人。2人の後ろにいて見えにくかったけれど、さっき困っている様に見えた20歳くらいの女の子の姿もあった。


 彼女は両手を胸の辺りで握りしめ、何かを訴えているみたいだったが、その子の声は聞こえなかった。


 何だろ?どこかで見た様な・・・。


 そんな時、川の辺りから小さな光が舞い上がった。


 うん?蛍!?


 薄れゆく記憶の中で、彼女と初めてキスをした時の光景が、走馬灯のように頭に浮かんできた。


 確か、あの仕草は・・・あっ、そうだ!!思い出した。


 すると、不安そうな声で麻衣が僕の名前を呼んだ。


「悠?」


「ごめん、麻衣・・・僕はまだ、まだそっちに行けそうにないよ」


 僕の言葉に彼女は、少し時間をおいてから、「そっか~」と溜息まじりでひと言ぼそっと答えた。


 顔を上げて一瞬空を見上げた麻衣は、「あ~ぁ、ざぁ~んねん」と開き直った感じでそう言うと、もう一度僕の方を見つめた。


「そうね、そうみたいね。淋しいけれどその方が良いわよね。悠にはまだ、こっちに来るのは早すぎるものね」


「麻衣」と、僕は静かに答えた。


「もうこれ以上心配させないでよね、悠」


 彼女は少し頬を膨らませた。


「そんな顔するなよ、可愛い顔が台無しだよ」


「ほんとにもう、誰のせいよ」と、呆れた様子で彼女は答えた。


「ごめん、ごめん」


「でも、悠に一時でも逢えて・・・良かった」


「うん、僕もだよ。麻衣とは・・・麻衣とは、いつでも会えるから」


「何言ってるのよ。悠には、待っててくれている人が、ちゃ〜んと居てるでしょ」


「麻衣・・・」


「早く次の道を歩みなさい!!」


 麻衣は目に涙を浮かべてはいたが、僕の方を真っ直ぐに見つめ、頬笑みを見せてくれた。


 しかし、時間が経過と共に麻衣の姿は次第に透き通っていく。


 えっ!!麻衣、体が・・・。


 僕は咄嗟に麻衣の体を抱き締めようと腕を伸ばしたけれど、僕の両手は無情にも彼女の体をすり抜けていった。


 それでも僕は諦めずに、透き通った彼女の体を抱き締め、心の底から声を大にして叫んだ。


「麻衣~~~!!」


「ありがとう、悠」


 彼女が微かな声で僕の名前を呼んでくれたのを最後に、麻衣は僕の前から完全に姿を消してしまった。


 僕は両膝を着き、さっきまで僕の両腕にいた麻衣の温もりを感じながら、その場で佇んでいた。


 さよなら、麻衣・・・。







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