116話 夢の中で(2)
廊下に出てみると、パチパチパチッと、急に激しく窓を打ち付ける雨音が聞こえてきた。
「あっ、雨だ」と、僕は呟いて、外の様子を窺って見た。
雨の中、駆け足で走って行く人もいれば、諦めて傘も差さずに俯きながら歩いている人もいる。
「ねぇ、悠」
「うん?」
「若しかして、こんな日に傘を持って来なかったって言うんじゃないでしょうね?」
麻衣の質問に僕は、ドキッとしながらも、彼女に右手の人差指を向けて素直に、「正解!!」と答えた。
「あっきれた~。今日は、午後から降水確率が80パーセントだったのよ」
「へぇ、そうなんだ」
「もう、寝言は寝てから言うものよ」
「そうなんだよなぁ、何だかさっきからまだ寝ている気分」
「こんな日に傘を持ち歩かないのって、悠ぐらいなものね」
「うん」と、生返事で答えてから、もう一度外の景色を眺めた。
雨か・・・。
すると突然、「片瀬、寝過ぎや!!」と、大きな声で言われた瞬間、バシッと僕は背中を強く叩かれた。少し前屈みの体勢になりながらも、その場から走り去って行く、体格の良い男性の後ろ姿が目に入った。
な、何だぁ?
その直後に、「早く起きろ~!!」と、別の声が聞こえた時には時すでに遅く、さっき叩かれた同じ場所をまたしても叩かれた。
何だよもう。今度は小柄な女の子かよ。
2人の顔をはっきりと見る事は出来なかったけれど、ケラケラと笑いながら廊下を走り去って行った。
「大丈夫、悠!?」と、心配そうに麻衣が様子を窺ってくる。
僕は、叩かれた背中を何とか手を伸ばして擦りながら麻衣に聞いてみた。
「なぁ麻衣。あんな奴ら、この学部に居たっけ?」
「さぁ~ね~、見た事ないけど。でも、何だか楽しそうな連中ね」
ふん、寝過ぎで悪かったなぁ。こちとら苦学生で、夜もバイトをして生活費を稼いでるんだい。
それから僕等は、再び食堂に行くべく歩き出した。廊下を左に曲がって階段を降りようとした時、2階に上がって来た1人の女性とすれ違った。
あれ?何だか懐かしい感じのする匂いだ。
そう思って立ち止まり、後ろを振り返っては見たものの、その女性の姿はもうなかった。
あんな子、この学部に居たかなぁ?
「もう~、悠。いつまで待たせるのよ」と、階段の踊り場から僕の事を呼ぶ麻衣の声で我に返った。
「あっ、ごめん、ごめん。直ぐ行くよ」
さっきの女性、どこかで見た事があるような気がするんだけどなぁ。
僕はもう1度後ろを振り向きながら、足を1歩前に踏み出した途端、麻衣の叫ぶ声が聞こえてきた。
「悠、危ない!!」
えっ!?
そう思った時には階段を踏み外し、僕の体は前のめりになって宙に浮いていた。
階段に叩きつけられる寸前、咄嗟にぎゅっと目を閉じた。
「悠~・・・」と、僕の名前を呼ぶ麻衣の声を微かに感じながら、最後には暗闇の中に消えて行った。




