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ただ、君だけをみつめて  作者: 新木 そら
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116/136

116話  夢の中で(2)



 廊下に出てみると、パチパチパチッと、急に激しく窓を打ち付ける雨音が聞こえてきた。


「あっ、雨だ」と、僕は呟いて、外の様子を窺って見た。


 雨の中、駆け足で走って行く人もいれば、諦めて傘も差さずに俯きながら歩いている人もいる。


「ねぇ、悠」


「うん?」


「若しかして、こんな日に傘を持って来なかったって言うんじゃないでしょうね?」


 麻衣の質問に僕は、ドキッとしながらも、彼女に右手の人差指を向けて素直に、「正解!!」と答えた。


「あっきれた~。今日は、午後から降水確率が80パーセントだったのよ」


「へぇ、そうなんだ」


「もう、寝言は寝てから言うものよ」


「そうなんだよなぁ、何だかさっきからまだ寝ている気分」


「こんな日に傘を持ち歩かないのって、悠ぐらいなものね」


「うん」と、生返事で答えてから、もう一度外の景色を眺めた。


 雨か・・・。


 すると突然、「片瀬、寝過ぎや!!」と、大きな声で言われた瞬間、バシッと僕は背中を強く叩かれた。少し前屈みの体勢になりながらも、その場から走り去って行く、体格の良い男性の後ろ姿が目に入った。


 な、何だぁ?


 その直後に、「早く起きろ~!!」と、別の声が聞こえた時には時すでに遅く、さっき叩かれた同じ場所をまたしても叩かれた。


 何だよもう。今度は小柄な女の子かよ。


 2人の顔をはっきりと見る事は出来なかったけれど、ケラケラと笑いながら廊下を走り去って行った。


「大丈夫、悠!?」と、心配そうに麻衣が様子を窺ってくる。


 僕は、叩かれた背中を何とか手を伸ばして擦りながら麻衣に聞いてみた。


「なぁ麻衣。あんな奴ら、この学部に居たっけ?」


「さぁ~ね~、見た事ないけど。でも、何だか楽しそうな連中ね」


 ふん、寝過ぎで悪かったなぁ。こちとら苦学生で、夜もバイトをして生活費を稼いでるんだい。


 それから僕等は、再び食堂に行くべく歩き出した。廊下を左に曲がって階段を降りようとした時、2階に上がって来た1人の女性とすれ違った。


 あれ?何だか懐かしい感じのする匂いだ。


 そう思って立ち止まり、後ろを振り返っては見たものの、その女性の姿はもうなかった。


 あんな子、この学部に居たかなぁ?


「もう~、悠。いつまで待たせるのよ」と、階段の踊り場から僕の事を呼ぶ麻衣の声で我に返った。


「あっ、ごめん、ごめん。直ぐ行くよ」


 さっきの女性、どこかで見た事があるような気がするんだけどなぁ。

 

 僕はもう1度後ろを振り向きながら、足を1歩前に踏み出した途端、麻衣の叫ぶ声が聞こえてきた。


「悠、危ない!!」


 えっ!?


 そう思った時には階段を踏み外し、僕の体は前のめりになって宙に浮いていた。


 階段に叩きつけられる寸前、咄嗟にぎゅっと目を閉じた。


「悠~・・・」と、僕の名前を呼ぶ麻衣の声を微かに感じながら、最後には暗闇の中に消えて行った。

 


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