112話 遥と亜季、再び(1)
事故が起きてから次の日、亜季との約束で夕方の16時に病院の入り口で待ち合わせをしていた遥は、目的地に辿り着くと、左腕に着けていた腕時計にちらっと目を向けた。
予定より10分早く着いた。そう思い辺りを見回して見る。
朝は外来患者でいつも多いのに、さすがにこの時間だと入り口は静かだなぁ。
ふと空を見上げて見ると、今にも雨が急に振って来そうな灰色の雲が空を覆っていた。
何だか嫌な雲。
病院の入り口の前で1人佇みながら空の様子を窺っていた遥の背後から、「ウィーン」という自動ドアが開く音が聞こえた。
何気に音のする方へ振り返って見ると、昨日の看護士姿とはうって変って、紺のデニムのジーンズに黒のフードが付いたトレーナーを着て、その上から更に、ダウンベストを重ね着してる亜季がそこに立っていた。
「やっぱりそうだ。病院の中から入り口の方を見たら、外に遥ちゃんぽい横顔が見えたんで、若しかしたらって思ってこっちに来てみたんだけど」
「いつ来たんですか?」
「私もちょっと前に着たとこよ」
「早いんですね」
「そう?でもまぁ、ぎりぎりで行くと何だか気持ちが落ち着かないって言うか、焦っちゃうでしょ。やっぱりゆとり持って来ないとね」
「そうですね」と、遥は相づちを打った。
「それより中の喫茶店に行かない?」
遥は、「はい」と言って頷いた。
入り口を抜けると直ぐ右手に喫茶店が目に入った。
店内に足を一歩踏み入れると、フロアーの真ん中に熱帯魚の水槽が有り、それを取り囲む様にテーブルが並んでいる。そこには、患者や面会に来られた人達が座っており、カウンターのテーブルには、コンセントを挿す所も有ってか、ノートパソコンを使って何かを打ち込んでいる医学生や、若しくは片手に本を持って読んいる人等がテーブルを占拠していた。
何だろ。病院の中なのに落ち着くって言うか、賑やかって言うか。
「もう先に席を取ってあるの。所で、え〜と、遥ちゃんは、コーヒーで良いのかな?」
「はい、え〜と、じゃあ私は、モカにしようかな」と、遥が答えたのを聞いて、亜季は自分の分と遥の分も精算した。
「あっ、私払いますよ」
「いいの、いいの、気にしないで。だって私が誘ったんだから」
「すみません。じゃあ、お言葉に甘えて」
それから2人はコーヒーを持って椅子に腰掛け、ひと息ついた。
「私、ここの喫茶店好きなんだ。たまに夜勤の日に少し早く来て、本でも読んでリラックスしてから仕事場に行くの」
「へぇ〜、そうなんですか。でもなんか分かる気がします。私も最初ここの喫茶店を見た時、何だか病院に来た気がしませんでしたよ」
「でしょ」
2人は意見が合うと、お互い微笑んで和やかな雰囲気になった。
それから亜季は、コーヒーをひと口口に含んでから話しの内容を切り替えた。




