109話 病院にて(1)
突然、救急救命室に連絡が入ってきた。
「28歳の男性、車と接触後、地面に頭を強打したもよう。現在、意識不明。そちらの病院で受け入れをお願い出来ますか?」
また、救急隊員からの連絡か。
「はい、直ちに搬送して下さい」と、当直の医師が判断を下した。
はぁ、今晩も忙しくなりそう。と亜季は深い溜息を吐いた。
連絡があってから30分も経たないうちに、救急車が救急救命室の入り口に到着した。
「男性は心拍数等は正常なものの、現在も意識不明です」
患者を降ろしながら救急隊員が医師達に告げる。
「よし、運ぶぞ」と、当直医の掛け声に合わせて、亜季は、「はい」と返事をした。
その後、救急車の中から明らかに救急隊員とは違う、私服姿の女の人がゆっくりと降りて来た。
亜季は、自然とそちらに目を向けた。ふさぎ込んでいるみたいだけど、どことなく見覚えがある。
あれ!?遥、ちゃん?
嫌な予感がした亜季は、咄嗟に運び込まれた患者の表情を窺って見る。すると・・・。
えっ!?片瀬さん?何で・・・。
そう思った途端、急に体が強張ってしまい、その場で立ち尽くしてしまった。
「高科!!ぼさっとすんな」
その怒鳴り声で我に返り、急いでその後を追いかけて行った。
一通りの処置と検査を済ませた片瀬さんを、病室に運ぶため別の看護士に依頼をした。
「すみません。こちらの患者さんを6階の602号室に運んで下さい」
移動式のベッドで運び出されていく片瀬を、亜季は黙って見送った。
何で車になんか当てられるかな?ほんっと~にもう。こんなんじゃ、お姉ちゃんもおちおち天国でじっとしてらんないわよね。いつか化けて出て来るな、これは。
救急救命室の後片付けをしながら、亜季はふとパソコンのキーを叩く音の方に目を向けて見た。そこには片瀬の容態をパソコンに打ち込んでいる当直医の姿があった。
「先生、さっきは済みませんでした」
「あ~、もう済んだ事だ」
亜季の方を振り向かずに、パソコンの画面に目を向けたまま答えた。
「それで先生、どうですか、患者の容態は?知り合いなんです片瀬さんと」
「詳しくは明日だな」
「明日?」
「そう。明日のMRI」
「MRI?レントゲンじゃ駄目なんですか?」
「念には念をだ」
「念、ですか?」
「そうだ。それに彼の場合、まだ意識が戻ってきてないしな」
パソコンに入力をし終えたその医師は、亜季の方を向き直り、そのまま話しを続けた。
「まぁ、知り合いが突然運び込まれると心配になる気持ちも分からんでもないがな。でも、どうせまた直ぐに別の患者が運び込まれて来るだろうから、次は頼んだよ」
そう言い残すと、医師はゆっくりとした足取りで治療室から出て行った。
早く片付けて、ちょっとだけ様子を見に行っちゃおうかな。
それから亜季は、いつもの様に段取り良く仕事を1つずつこなしていった。




