107話 相原の涙
持っていた洗濯物をパサッとその場に落とし、慌てて玄関まで駆け寄る。
「ごめん、相原」と、ひと言言って彼女の側を通り過ぎ、そして、玄関で佇んでいる長谷川さんにも、「すみません」と目を合わせる事無く、遥が駆け出して行った後を直ぐさま追いかけて行った。
僕の姿が見えなくなると、長谷川は相原の方見るなり真顔で話し掛けた。
「ちょっと刺激が強過ぎたんじゃねぇのか~?」
「良いんですよ、このくらいやった方が」
「そっか~?」
「その方がお互い失いたくないんだって気付くでしょ」
「まぁ、分からんでもないけど。でも、遥ちゃんにはちょっとなぁ」
相原はまた、バスタオルで頭を拭きながら、もう1人の自分に問い掛けるように囁いた。
「この程度で上手くいかないんだったら、私が本当に取っちゃうんだから」
「えっ、今何か言ったか?」
「何でもないですよ~だ。それより長谷川さん、そんな所でいつまでも突っ立ってないで、さぁさぁ、上がって、上がって」
「上がってって言うけどやなぁ、先ず下、履かんかいなぁ。目のやりどころに困るわ」
「そう言いつつ、何ジッと見ているんですか〜、変態!!」
そう言って相原は、脱衣所のカーテンを閉じて置いていたジーンズを履いた後、シャツを脱いで、来る時に着ていた白のタートルネックのセーターに着替えた。
そして彼女は、来る時に買っていたワインボトルを袋から1本取り出して、洋室にいる長谷川にそれを見せた。
「じゃ~ん。見て下さい、これ」
「何や、ええもん持ってるがな」
「ですから今日は、ここで飲み明かしますよ~」
相原は片手にワインボトルを持って両腕を伸ばし、長谷川に背を向けて少し顔を上げた。
「だって今日は、私の誕生日なんだから」
瞼を閉じると同時に、お風呂上がりでピンク色に染めていた相原の頬を1粒の涙がスーッと流れていく。
相原は、自分自身に語り掛ける様に、「バカッ」と小声で呟いた。




