105話 数時間前の出来事
今から数時間前、教習と教習とのインターバルの間に、相原は指導員室の自分の座席で腕を組んだまま、1人考え事をしていた。
う~む。
そんな相原の姿を見た長谷川は、彼女の側まで近付いて来た。
「どないしてん、珍しく考え事して」
「それが~・・・」
そう言うと、相原は首を傾げて目を瞑りながら、また考え始めた。
「1人で悩むよりかは、2人で考えた方が早よ解決すんで」
「う~む、実はですね~、片瀬さんがおかしいんですよね~」
「片瀬が?いつもと同じ様にしか見えへんけどなぁ」
2人して、窓際に座ってスマホの画面を見ている片瀬の方を振り向いた。
「あれちゃうか?今日、晩ご飯何しよか悩んでるんとちゃうか?」
真剣に聞いた私がバカだったわ、と相原は眉間に皺を寄せて、心の中で呟いた。
「冗談やがな。で、どないしてん?」
目を細めて疑りの眼で長谷川の方を見た相原は、もう1度だけ昼の休憩時間の出来事を話しだした。
それを聞いた長谷川も、「う~ん」と言って腕を組み、右手で顎を支えた。
「若しこうだったらって話しか~」
「あの2人に何かあったんですかね~」
「あったんかもしれへんけど、こればっかりわなぁ・・・」
そんな時、相原のスマホにメールの着信音が鳴りだした。
「あら、絵里ちゃんからだ」
え~と、何々・・・。
「相原さん。そっちに遥が行きました。私が片瀬さんから聞いた3年前の事故の事と、遥のお父さんの事故の事を結び付けて話ししたものですから、大学の講義中に遥が血相を変えて出て行きました。若しかしたら、遥、何か思い当たる節があるのかも。もし遥と片瀬さんが言い合いになったとしたら、仲裁してあげて下さい。お願いします」
昼間の片瀬の会話と絵里ちゃんからのメールで、相原の頭の中の倒れていたビックリマークがピンと立ち上がった。
なるほど~。点と点が線に繋がった。
「高野さんは、何て?」
手にしたスマホの画面を長谷川の方に向けて、送られてきたメールを見てもらった。メールの内容を読んだ長谷川は、「ほう」と言ったきり、それ以上は話さなかった。
「長谷川さん。仕事が終わったら、私、片瀬さんを連れて行きますので、長谷川さんは、遥ちゃんを連れて行ってもらえませんか?」
「2人を会わせなくするんかいな?」
「はい」
「でも、どうやって?」
「まぁ、何とかしますよ。また後で、メールで連絡しますから」
「どないすんねん、相原」
「毒には毒をもって制すですよ」と、相原は親指を立ててニヤッとした。
「余り無茶すんなよ。お前のは、猛毒に成りそうやからな」
この後起きる出来事を、全く予期してなかった僕は、スマホの待ち受け画面の2人の写真を、ただ、見つめていた。




