101話 バッティングセンターにて(2)
「あの子がここに来る時は、何か考え事をしている時か悩み事がある時ぐらいでな」
『どうして分かるんですか?』
「ボールを打つ事に集中するじゃろ。いっときでも何かを忘れる事が出来る、だからここに来るんだって、昔そんな事を言っておったわ。剛の奴」
へぇ、そうなんだ。
「体格はガッチリしてるけど、心は繊細なんじゃよ」
お祖父さんの表情を見た遥は、どこか温かみのある感じがする顔だなぁ、と心の中で思った。
『良き理解者なんですね』
「そう聞くと良いように聞こえるじゃろ。じゃがな、多分ありゃ、失恋しよったんじゃな、剛は」
そう言ってお祖父さんは、ガッハッハッハッハッと笑いだした。
そんな豪快な声で笑っているお祖父さんの顔を見ていて、遥もついつられて苦笑いをしてしまった。
暫くしてボールが弾かれる快音が聞こえなくなったかと思うと、長谷川が少し満足気な面持ちで90キロの速度の部屋から姿を現し、2人がいる所まで戻って来た。
「何がそんなに可笑しいんねん、じっちゃん」
「今この子にな、お前が失恋したんで、その憂さ晴らしにバッティングセンターに来よったんじゃって話してた所やったんじゃ」
「なんでやねん!!」
「すまん、すまん。あの~あれや。歳をとるとな、つい淋しくなって誰かと話しがしたくなるもんなんじゃ」
「はいはい。遥ちゃん、ちょっとあっちのベンチに行こ。ここ居るとアウェイやわ」
これ以上変な事を拭きこまれてはたまらんと言いたげな感じで、長谷川は受付のカウンターから少し離れた所にあるベンチに遥を先に座らせ、その前にある自販機でホットコーヒーを2つ買い、その1つを彼女に手渡した。
「はい、遥ちゃん」
『有難うございます。あの~お祖父さんって、何だか気さくに話しかけてくれるんで話し易いですね』
「そうやなぁ、特にここに来る人にはやな」
『何か分かる気がします』
「そんでもって野球がめちゃくちゃ好きなもんやから、孫の俺にも野球選手にさせようと躍起になってた頃もあって、子供の頃なんかボロ雑巾のごとく良くここで練習させられたもんや」
『そうなんですか?』
『そう言えば、さっき言ってたお祖父さんの話しって本当なんですか』
コーヒーを一気に飲み干した長谷川は、何だか物足りなさそうな顔をしながら遥の問い掛けに答えた。
「さっきの話ってなんなん?」
『えっと~、ほら、その、憂さ晴らしって言う話し、です』
「あ~、あれな。まぁ、当たって無くもないんやけど、でも、はなからそんな間柄でもないしやな。それにそいつにも良いなぁ~、て言う人がいるみたいやし。でも何か端から見てたらそいつな、空振りしている様にしか見えへんねんけどな。だからそいつの分も含めて憂さ晴らしってとこかな」
誰の事を言っているのかは分からないけれど、結構優しい所もあるんだ。
遥はそんな事を心の中で思いながらホットコーヒーを口に含んだ。
すると突然、お客の居ない静かなバッティングセンターに、長谷川のスマホからメールの着信音が鳴り響いた。
画面を見た長谷川は、「やっと来よったわ」と呟いた。
メールの内容を読んだ長谷川は、ベンチから立ち上がるやいなや遥に向って声を掛けた。
「ほな、プレイボール開始や」




