異世界人VS天才科学者 Part1
神崎はセツナの部屋を出て、最初にこのギルドの大広間に来ていた。
ギルドの外とのドア付近に立っていた西園は神崎がセツナの部屋から出てくるのを見て神崎に手を振り声をかけてきた。
「神崎君ー!どうだった? 魔導の力は習得できた?」
「ええ。なんとか気持ち悪い思いや腹を押し込まれる思いをしましたけど、何とかできたようです」
その返事を聞いて西園は少しだけ心配そうにこちらに笑い声を掛けた。
「セツナになにかされた? あの子、かなり頭が良くて私達じゃあの子の思考力にとてもじゃないけど追いつけないから時々、何やってるのだか何考えてるのだか分からない時があるのよね」
ああ、なんとなく分かるような気がする。そんな風に神崎はセツナとの短い邂逅で感じ取ることができた。セツナは完全に天才科学者のそれであり、通常じゃ考え付かないような思考もしているのだろう。実際、魔導の力を習得する際も結局最後まで何やってるのか理解ができなかった。セツナという少女はきっと見えている世界が違うのだろう。
「大丈夫です。問題のあるようなことはされてませんよ。それよりもあまり、魔導の力を習得したという実感があまりないのですが……。これと言って体の中に変化も感じられませんし」
「大丈夫。今は神崎君の体内の魔力がグルグル回って動いているのが何となく感じ取れるから多分魔導の力を習得したのは間違いないと思う。それよりも、神崎君の魔導の力がどういうタイプの力なのか調べてみないと……。でもどうやったらいいのかな? 実戦で確かめるのはまだ危ないだろうし、どうすれば……」
西園があれやこれや考えていると先ほど、神崎が出てきた部屋のドアが開かれ、中からセツナが出てきた。どうやら、こちらの会話が聞こえていたようだ。
「それは大丈夫じゃ明里。もう調べておるからの。そこの小僧の魔導の力はモノを実体化させる能力。壁や床、誰かの体や何かの設置物、ありとあらゆるモノに触れることでその触れたモノから自分の念じたモノによる攻撃を繰り出すことができる。熟練度を上げられれば気体や液体を介しても魔道の力を発揮できるようになるやもしれん」
その報告を受け、西園は目を丸くしていた。どうやら、予想と反していた、驚きの表情であった。
「それって結構上位の魔導の力なんじゃ……?」
「そうじゃ、そこは伊達にあの女の息子ではないということじゃ。そういうお主の魔導の力もかなりのレアだけどの」
「私なんか、陳腐な力よ。大した強さじゃない」
そう謙遜するように西園は言うが、異世界を渡り歩くほどの能力が陳腐なはずはないと神崎も理解はできた。
「よう言うの、まあいい。明里、しばらく小僧の訓練をしてやれ。あの女との決戦の日も近いであろう?」
「そうね。一か月後まで近づいているものね……。じゃあ、ずっと奥の方にトレーニングルームがあるからそこで今日から早速訓練しようか。ちょっと来て直人」
そう言うと、西園は神崎の手を引っ張り、入り口から反対方向のずっと奥のとても広大な部屋まで向かった。途中で、神崎は疑問に思ったことを口にした。
「西園さん、自分の魔導の力については分かったんですがどうやったら使えるんですか?」
神崎の突然の質問に西園は少しだけ歩く速度を落とし、言葉を返した。
「あそっか、直人はまだ知らなかったね。使い方と言っても特別なことはしない。ただ動作に合わせて頭の中でイメージをするだけ。直人の場合は何かに触れてモノが出てくるイメージを作れば大丈夫だと思う。最初は慣れないかもしれないかもしれないけどすぐ慣れるよ。あと、私のことは明里でいいよ。もう仲間なんだしね。私もあなたのこと直人って呼ぶから。もう呼んでるけど」
「分かりました、ありがとうございます明里さん」
また歩く速度を上げた。しかし、歩く速度を上げた状態で一言だけ付け加えた。
「あと、仲間なんだから敬語は無し。『小さき子猫』では敬語禁止がルールになってるから。セツナにも注意されたでしょう」
「うん、わかった明里さん」
そう言って直人は頷いた。
そうして、トレーニングルームに着いた。直人と明里は広大なトレーニングに入り、さっそくトレーニングを始めた。
そして、直人が『小さき子猫』にやってきてから二週間が過ぎようとしていた。
今日も朝からトレーニングルームで拳と拳がぶつかり合う音が響き渡っていた。
「直人! もっと、部屋全体に意識を回し、全範囲に集中力を使いなさい! 一点のみに集中がいってたら簡単にやられるよ!」
「くっ……!」
直人と明里の練習試合。直人がいつものように明里に押され気味になっている。
明里の能力、かつては異世界にまで移動していたが、実戦向けに使うと一定距離の瞬間移動。瞬時に相手の背後やいろんなところに移動することができる。そしてそこから格闘で相手をなぎ倒すインファイタータイプの戦い方をする。
かたや、直人は物質の実現化系の能力であり、武器を生み出し、それを使い攻撃するため魔導の力を安全に行使するためにある程度の距離を保っておきたいタイプの能力だ。お互いの能力の相性は互いに悪いといえる。だが、経験の差で明里の方が押せているというのが現状だ
「また後ろに……! 喰らえ!」
「おわっ……!! と危ない危ない」
明里に瞬間移動で背後に回り込まれ右足による強烈な蹴りを後頭部めがけて振りぬかれた。だが、直人も床に手を当てて、背後に針の山のように細く鋭い氷柱を幾多にも出現させ、明里の足を貫こうとしていた。
そのおかげで、明里の蹴りだした右足は急遽引っ込め、一度距離を取った。
直人も余裕ができ、明里の方に振り返った。
「くそ、また当たらないか」
「あんなのが早々に当たってたまるもんですか。当たったら足串刺しだから」
「やっぱ強いよ明里さんは」
溜息混じりでそう言うと、明里は自嘲気味に少しだけ笑うとこう補足した。
「でも私はここでは二番手、私より強い人もいるし、外に行けばもっといる。それよりも二週間でかなり戦えるようになった直人君のほうがすごいよ。そのうち私よりも強くなるよ」
そう言って、直人を素直に褒める。嬉しいことだが、直人にはそれよりも気になる言葉があった。
「二番手……?」
そう、初めてこの世界に来た時から彼女はこの小さなギルドの代表のように動き回っていた。てっきり、この『小さき子猫』のトップで一番の実力者だと勝手に判断していた。だが、今明里が言ったように明里よりも強い人がいると言った。
このギルドには確かに筋肉質な大男もそれなりにはいる。だがそのどれもが明里よりは弱かった。少なくともこの二週間明里よりも強い人を全く見たことはなかった、はたして誰なのか直人には全く予想出来なかった。
「そう、私はこのギルドで二番手、一番強いのは聞いたらたぶん驚くよ? それはね……とご本人様が出てきたようね」
そういうとドアの方を指さした。
そこには、半開きのドアがゆっくりと開けられているところだった。直人からはすぐにはドアを開けた主が見えなかった。ドアが完全に開き切るとその姿ははっきりと見えた。しかし、その全く予想だにしていなかった姿が見え、あまりにも驚愕してしまい、驚きの声をあげてしまった。
「え……? セツナ!?」
そう、ドアから現れたのはいつもの白衣を身に纏った篠崎セツナ。『小さき子猫』の天才科学者だった。
セツナは部屋を見まわしてから、明里に声を掛ける。
「明里! ちょいとここでワシの実験に付き合え! 新しいのができるかもしれん」
声を掛けられた明里は、セツナの言葉をほぼほぼ無視して少し思案してから、セツナに返事をした。
「セツナ! いいところに来た! その実験ついでに少し、直人君とトレーニングがてら練習試合してみてくれない?」
明里がそういうと、セツナはあらためてトレーニングルーム内を見渡し、直人が眼に入り、初めて直人を認識した。
「なんじゃ小僧、そこにおったのか。どうじゃ? 順調に魔導に力は扱えておるのか?」
「なんとか少しずつだけどまあまあ闘えるようにはなった……と思う」
「そうそう、結構強くなってきたよー。だからさ、二人で手合わせしてみようよ」
明里が再び、手合わせをお願いしてきた。
直人としては本当にこのギルドで一番の実力者なら是非とも手合わせをしがてもらいたいのだ、相手はそう乗り気ではないらしい。
「何を言っておる。ワシは忙しい。こんな小僧の相手などしておられん。明里が相手すればよかろう」
きっぱりと断るセツナだったが明里はいたずらな笑顔を浮かべ嫌味ったらしくセツナを挑発した。
「怖いんだ?」
「ワシがそんなよくあるような安っぽい煽りで動かされると思わんことじゃな」
やはり、この程度では動かない。明里は最後の手段をとった。
「直人君に勝てたら、甘いもの買ってあげる」
「小僧、早く準備しろ。練習だろうとボコボコにしてやろうの」
あっさりと口車に乗せられてしまったのだった。明里は直人だけに見えるようにニヤリと笑ってみせた。
ともかく、これで、セツナと直人の練習試合が決まった。二人は部屋の中央で向き合った。そして、二人は頭一個分違う身長差でまずは言葉をぶつけ合った。
「確か、セツナの魔導の力はあらゆる攻撃を防ぐ見えないシールドを張ることでしたよね?」
「そうじゃな」
「なら攻撃手段ないじゃないですか」
「そう思うなら普通に攻撃すればよかろう」
そう言って、一瞬の沈黙が流れる。
そして、戦いの火蓋が切って落とされた。
「明里さんよりも強いというその実力、見せてもらいますよ」
まずは、先制として、直人が左手を突き出し、左手首に右手を触れさせた。そして、左手から氷のつぶてをセツナに向けていくつも撃ち放った。
「この程度かの?」
だが、その攻撃はセツナも突き出した右手による魔導の力、見えないシールドで打ち消された。セツナに当たる直前で急に消えたがよく見るとその部分で少しだけ蜃気楼のように空気が揺れているので魔導の力を使ったのだということが分かる。
「もう一度!!」
もう一度先ほどと同じ攻撃を繰り出した。だが、予想通りシールドで防がれた。
「もう終わりかの? 今度はこちらからゆくぞ?」
そう言うと、セツナは白衣の小分けポケットに入った試験管を取り出し蓋を開けた。何をするのだろうか。直人が怪訝に見ていると、試験管から突如、炎が噴き出した。そして、それが直人めがけて飛んできたのだ。
「うわっ! おっと!」
なんとか横に飛びながら転がり避けたが当たればひとたまりもないだろう。突然の攻撃に直人はセツナに問いただした。
「なんだ今の? 魔導の力か?」
「違うのぉ。ワシの魔導の力はシールドの防御効果のみの糞つまらん能力じゃからな。これはじゃな、錬金術と言ってな? お主の住む世界やこの世界とはまた別の世界で見つけて持ち帰った秘術の一種じゃ」
「錬金術……」
どうやら、一筋縄ではいかなさそうだと直人は考えた。どうやら、ギルド最強は伊達じゃないようだ。
To be coninued.




