魔導の力習得
「一体何をするのでしょうか……」
あれから神崎は奥の別の部屋に連れて行かれ、とてもつもない怪しい部屋の中央に座らされてしまった。
神崎の連れて来られた怪しげな別室はかなりの大きさを誇るように見えるが四方の壁際から始まりいろいろな本やら実験用具やらが並べられており、実際に歩ける場所は半分以下となっていた。そして、ドアから一番奥の壁際にそこそこ大きな机が置かれており、そこには机の大きさに似つかわない体格の白衣の少女が座っていた。
その少女は、神崎が入ってきて中央付近に来るや、椅子を少し回転させて顔だけこちらに向けてきた。少女は小さな体格に似つかわず、思っていたより大人っぽい顔つきをしていた。意外にも西園みたいな獣人の顔つきではなく、神崎のような普通の人間の顔つきであった
少女は神崎のことを数秒ほど見てから、神崎の斜め後ろ半歩ほどを歩いていた西園に言葉を投げかけた。
「明里、そこの男が平行世界の人間か?」
「そうよ、この子に魔道の力を授けて欲しいの。後、年上にはさんを付けなさい」
西園は注意を促すように人差し指を立てて返事をした。だが、目の前の少女はそれに対してさほども意に介おらず、反省を色を魅せずに返事をした。
「ここで、一番優秀なのはワシじゃ。よってここで一番偉いのはこのワシ。つまり、ワシがお主にそのような注意を受ける謂れはない。そんなことよりそこの男に魔導の力を授けろと? 断る」
目の前のババア口調の少女は予想外なことに断りを入れてきたのだった。神埼は流れ的にそのまま何をされるかはわからないが魔導の力習得まで行くのかと思っていたため顔には出さず驚いていた。
しかし、少し後ろにいた西崎は呆れたような声を出してきた。
「あなた……、元々異世界の住人を連れてきたら魔導力を授けてくれるって言ったじゃない。忘れたの?」
「あー、確かにそんな戯言を言っていた獣人がいたのぅ。どれほど魔力を浪費するのか分かっておるのかの? 大体、これから研究で忙しいのじゃが?」
少女はものすごい嫌そうな顔をして拒否している。西園はどうしたものかと少し思考してから口を開いた。
「お願いよ。今度甘いものたくさん奢ってあげるから」
「ふむ……。仕方あるまい。甘いものに免じて少しばかりやってやろうの」
意外に安い。そんな風に神崎は心の中で思った。それともいつもある茶番か何かなのだろうか? なにはどうあれ、神崎の魔導の力習得は決まった。方法はいまだ謎ではあるが。
「じゃあお願いね? 私出てるから」
そう言うと、西園は部屋を出ていき、ドアをパタリと占めてしまった。
ドアが閉まったのを確認すると、少女は椅子から立ち上がり、神崎の方に近寄ってきた。
少女は椅子に座っているときは気付かなかったが、意外に身長は高いようだ。見たところ、百六十くらいはあるだろうか? 西崎よりも頭一つ分低いのみだ。どうやら座高が低いかだらっと寄りかかって座っていたようだ。薄い銀色の髪は長く腰下まで伸び、白衣のほとんどを覆い隠しており、髪はところどころ癖っ毛のようにはねている。その少女が神崎の五十センチメートル手前程まで近寄ってきていた。
そして、神崎の全身を一度目で見てから言葉を開いた。
「ふむ……異世界とはいえ、あの女と血が繋がっているだけあっていい魔力を持っておる」
少女はなにやらこちらを見ながら考え事を始めていた。だがここに来て西崎は大事なことを聞き忘れていた。。
「あの……?」
「なんじゃ? 今お主の体を調べている」
「あなた、名前はなんて言うんですか? それに見たところ結構若いですよね?」
西崎は名前を尋ねた。それを聞いた少女はこちらには目もくれず、考え事をしながらこちらに答えた。
「ワシの名は篠崎セツナ、セツナと呼べ。歳もお主とそう変わらん、今年で十六じゃからな。あと敬語も辞めろ。ワシも敬語じゃないしの。よし、少し待っとれ」
セツナと名乗った少女は神崎から背を向け、また机のほうへ向かっていった。そして、二つの試験管を持ってこちらにまた向かってきた。その中には赤色と青色の液体のようなものが入っていた。
「あの……それなに?」
神崎はセツナに恐る恐る尋ねてみる。だが、セツナは何事もないように答えた。
「これから、お主の魔導の力を覚醒させる。ほれ、この赤いほうの液体を飲め」
そう言って、セツナは赤い液体のようなものが入った試験管をこちらに渡してきた。だが、神崎はいかにも毒気のありそうな怪しい薬品を口にするのはかなり気が引けた。どうにかこうにか飲むのをやめられないかセツナに聞いてみた。
「なあ、セツナ。これ飲まなきゃ駄目?」
「駄目じゃ、諦めて飲め。安心しろ、命に危険はないし、ワシもこちらの青いほうを飲む」
そう言うと、ゴクゴクと青い液体を飲み始めた。神崎は正直信じられないような感覚に襲われたが、薬品を作ってる本人がこうやって飲んでるから平気なのだろう。
神崎は覚悟を決め、目を閉じ、一気に飲み干した。液体はドロドロとして少しばかり舌触りが残る後味が少し悪いものとなっていた。騙された。そう思って次の瞬間、腹に何か外側から当たるような感覚がした。
目を開けると、セツナが神崎のへその辺りに左手を押し当てて右手は左手首を押さえている。
「あのセツナ? これは……」
「少し黙っておれ! ……覚醒!!」
そう言うとセツナは左手をぐっと押し込んでいった。神崎は少し吐息を漏らした。これは少しばかりきつい。先ほど怪しげな薬品を飲み干したばかりだ。今にも吐きそうになるのをぐっと抑えた。今吐いたら全てセツナにかかってしまう。
「これは……」
「もう少し……よし、終わりじゃ!」
セツナはしばら左手を押し込んだ状態にしていたが最後にさらに一回押し込んでから左手を引いた。
それと同時に神崎も今まで我慢していた分、一気にむせた。
「がはっがはっ……何したのさ」
「今したのは、私の体の中にある魔力をお主の体に送り込み、お主の体の中にある魔力と馴染ませ、覚醒させ、魔導の力を発揮できるように改造した。さっき飲ませた薬品はいわば魔力の送り装置と受け取り装置の役割を担うものだ」
セツナから説明を受けたがいまいちピンとは来ない。だが、神崎にとっては考えるだけ無駄そうである。とにかく、セツナの言うことが正しければこれで魔導の力が使えるようになったはずだ。
少しばかり上機嫌になり、魔導の力習得に喜んでいると少し違和感を覚えた。
セツナだ。
魔力を渡したということはセツナの中の魔力は少なくなっているのではないだろうか? そう疑問に思い、刹那のほうを改めてよく見ると、体中から汗水を垂らしているのが分かった。相当な負担になっていたのだろう。それをあんじて、セツナの心配をするように声をかけた。
「セツナ……! 体中汗かいてるじゃないか。大丈夫なのか?」
だが、セツナは体中から汗を流しながらもまたこちらに背を向け机に向かって歩き出していた。
そして、背中を向けたまま答えた。
「安心せい。少しばかり魔力を失って発汗作用が出ただけじゃ大事はない。多少休憩すれば元に戻る。お主は明里のところにでも行っておれ」
そういって、後ろ手であっち行けと手を縦に振り合図してきた。神崎はそれにこたえるように返事をした。
「はい! ありがとうございました! ちょっと行ってきます!」
「だから、敬語は要らんと言っておる。あと礼も要らん」
神崎は返事を聞いてから振り返り、ドアを開けて部屋を出て、西園のところに向かった。
To be continued.




