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異世界ギルド受付の俺、病んだ美少女冒険者たちをカウンセリングしたら全員「私だけ見て」とヤンデレ化した  作者: 他力本願寺


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第51話 交換ノートのアップデートと、デュアルコアのシナジー

「ふむ。この『交換ノート』とやら、情報共有のMVP(最小限の試作品)としては悪くないが……ビジネスツールとしては遅延レイテンシが酷すぎるな」


 黄金貨商会の一室。

 フェンリル社長は、デスクの上に置かれた可愛らしいウサギ柄のノートを前足でパラパラと捲りながら、ふぅっとハーブスティックの煙を吐き出した。


 それは、昼の人格ルゥと夜の人格ルナがコミュニケーションを取るために、俺が提案した「交換ノート」だった。

 二人はこのノートを通じて、少しずつお互いの存在を認め合い、情報を共有できるようになってきている。俺にとってはカウンセリングの確かな成果だった。


「社長、レイテンシって……二人は起きている時間が違うんですから、ノートでタイムラグが出るのは仕方ないでしょう。このノートのおかげで、二人の情緒はかなり安定してるんですよ」


 俺が少しムッとしてノートを庇うと、フェンリルは伊達メガネをクイッと押し上げた。


「ナギ、私は君のメンタルケアの実績を否定しているわけではない。だが、彼女たちの『スペック』を考えれば、現状はリソースの壮大な無駄遣いだと言っているのだ」

「リソースの無駄遣い?」

「そうだ。こいつらは、一つの肉体ハードウェアに、二つの独立したOS(思考リソース)が搭載されている超ハイスペックな『デュアルコア』だ。にもかかわらず、外部ストレージ(物理ノート)を経由して半日遅れで情報をやり取りしている。……情報漏洩セキュリティのリスクも高い上に、非効率の極みだ」


 フェンリルの言葉に、昼の人格であるルゥが、きょとんと小首を傾げた。


「えっと……わんわん、何言ってるの? ルゥ、むずかしいことわかんないよ?」

「毛玉、アタシたちを馬鹿にしてるの? 暗殺されたいの?」


 ルゥの口調のまま、一瞬だけ瞳の色が変わり、夜の人格であるルナの冷ややかな声が混ざる。

 どうやら、フェンリルにイラッとしたルナが、一時的に表層に干渉してきたらしい。


「ほら、今のようにだ。ノートによって二人の人格が安定した今なら、同時出現も可能なはずだ。そういう意味では、ナギはいい仕事をした」


 フェンリルは前足でビシッとルゥ(ルナ)を指差した。


「君たちは決して病んでいるわけではない。二つの思考ソースを持っているという、圧倒的なアドバンテージがあるだけだ。わざわざノートに書かずとも、意識の深層で直接『API連携(リアルタイム同期)』を構築しろ。そうすれば、圧倒的なシナジー(相乗効果)を生み出せるはずだ」

「API……れんけい……?」

「フロントエンド(接客担当)のルゥが得た情報を、即座にバックエンド(裏方)のルナが脳内で処理・分析する。このプロセスを最適化するぞ」


     * * *


 数時間後。王都の裏路地にある、怪しげな質屋。

 俺たちは、フェンリルの提案した『デュアルコアの同期テスト』の実践として、商会の積荷を横流ししている疑いのある悪徳商人の元へやってきていた。


「おじさーん! ルゥね、キラキラした石がほしいの! 見せて見せてー!」


 ルゥが、天真爛漫な笑顔と愛嬌フロントエンドを全開にして、悪徳商人の懐に無邪気に潜り込む。


「おや、可愛いお嬢ちゃんだ。いいよ、おじさんがとっておきの宝石を見せて……」

(ルゥ、気をつけて。そいつの右の引き出し、毒針の仕込まれたナイフが入ってるわ)

(ほんと!? ルナ、すごーい!)


 一見、ただ子供が商人と戯れているだけに見えるが。

 彼女たちの脳内では今、ナギの交換ノートの発展形である『脳内クラウド同期』がリアルタイムで行われていた。


「これなんかどうだい? 王族御用達の……」

「おじさん、それ嘘っこでしょ! 裏の倉庫に、黄金貨商会から盗んだ積荷が隠してあるのも、ルゥ知ってるよ!」

「なっ……ガキが、適当なことを……!」


 商人が舌打ちをし、右の引き出しに手を伸ばした、次の瞬間。


「……動くな。その引き出しを開けたら、あんたの首が飛ぶわよ」


 声のトーンが、氷のように冷たく落ちた。

 ルゥの無邪気な笑顔がスッと消え、冷徹なアサシンの瞳を持ったルナ(バックエンド)へと、遅延ゼロでシームレスに切り替わったのだ。


「ひっ……!?」

「ナギが作った交換ノートも大切だけど。緊急時の『データ共有プロトコル』も、悪くないわね」


 ルナが商人の喉元にクナイを突きつけ、ニヤリと微笑む。

 ルゥが情報を引き出し、ルナが即座に制圧する。「天使」と「悪魔」がコンマ一秒で入れ替わる、完璧なグッドコップ・バッドコップ(アメとムチ)戦法。


「う、裏の帳簿は左の棚だぁっ! 許してくれぇっ!」

「……任務完了よ」


 腰を抜かして気絶した商人を見下ろし、ルナは小さく息を吐いた。


「ふむ。完璧な情報連携システム・インテグレーションだ」

 物陰から見ていたフェンリルが、満足げに頷く。


「すごいな、二人とも! ノートを使わなくても、そんなに綺麗に連携できるなんて!」

 俺が駆け寄って頭を撫でてやると、ルナの頬が少しだけ赤く染まり、すぐにまた、無邪気なルゥの笑顔へと切り替わった。


「えへへー! お兄さん、ルゥたち頑張ったよ! ルナといっぱいお話しできたの!」


 今まで、自分たちが「一つの体に二つの心がある異常な存在」だと思い込んでいた双子。

 だが、フェンリルのコンサルとナギのケア(交換ノートの土台)により、彼女たちはそれを「最高のスペック(個性)」として、ポジティブに使いこなす術を手に入れたのだった。

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