表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ギルド受付の俺、病んだ美少女冒険者たちをカウンセリングしたら全員「私だけ見て」とヤンデレ化した  作者: 他力本願寺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/122

第39話 世界最強の乙女(♂)は、絶対にフリルを汚さない

「受けて立つわ、一般冒険者達! ナギ先生の隣は、一番可愛くて強い、勇者のものよ!」


 薄暗いクリスタル洞窟に、高らかで凛とした乙女の宣言が響き渡った。

 先ほどまで「男らしく振る舞えない」と泣いていた怯える勇者の姿は、そこにはもうない。


 完全に吹っ切れ、一人の『恋する乙女(♂)』として覚醒した勇者は、自身の身の丈ほどもある武骨で巨大な聖剣(せいけん)を、片手で軽々と構えた。


「上等だよ! 泥棒猫は、私が叩き斬る!」


 最初に動いたのはリゼだった。

 踏み込みと同時に床の岩盤が爆ぜ、Aランク冒険者の神速の斬撃が勇者の首筋へと迫る。


 ――ガキィィィィンッ!!


 凄まじい金属音が洞窟を揺らした。

 リゼの全力の一撃は、勇者が無造作に掲げた聖剣の腹によって、いとも容易く止められていた。


「っ……嘘でしょ、片手で!?」

「甘いわね! そんな大振りの剣撃じゃ、私のお洋服のフリル一つ掠らないわよ!」


 勇者はリゼの剣を弾き返すと、可愛らしいワンピースの裾をふわりと翻し、軽やかなステップで後方に跳んだ。

 その直後、勇者が元いた空間に、極大の雷撃魔法が降り注いだ。


「対象の回避を確認。次弾装填、非論理的な障害物を完全に消去(デリート)するわ」

「お兄さんに色目を使う変態! ルナ、刻んじゃって!」

「……ええ。急所はすべて貰うわ」


 フランの絶え間ない魔法爆撃の雨を縫うように、闇に溶け込んだルナの短剣が、死角から勇者の背後を強襲する。

 前衛、後衛、遊撃の完璧な連携。だが――。


「だから、遅いって言ってるでしょ! 土煙が上がったら、ナギ先生に褒めてもらったリボンが汚れちゃうじゃない!」


 勇者は聖剣を風車のように回転させ、フランの魔法をすべて物理的に弾き飛ばす。

 さらに、背後から迫ったルナの短剣を、なんと『フリルのついた日傘』をどこからともなく取り出して、カキンッ! と優雅に受け止めたのだ。


「……っ、この女……! 防御の基準が『自分の命』じゃなくて『服の汚れ』になっているわ!」


 暗殺を阻まれたルナが、舌打ちをして距離を取る。

 そう。勇者は圧倒的なまでの『勇者の圧倒的ステータス』を、敵を倒すためではなく、ただひたすらに「自分の可愛い服とメイクを完璧な状態に保つため」に使っていた。


「ナギ様の平穏を乱す異分子は大人しく泥にまみれなさい。 極大浄化(ホーリー・レイ)!」


 セラフィーナが、慈愛に満ちた笑顔で、洞窟そのものを消し飛ばす勢いの光の奔流を放つ。

 だが、勇者はふんすと鼻息を荒くし、聖剣を力強く大地に突き立てた。


「私だって、聖なる力なら負けないわ! 絶対聖域(ホーリー・ウォール)っ!」


 勇者を中心に、ピンク色でハートの紋様が浮かぶ、巨大で強固な光の結界が展開される。

 セラフィーナの放った極大浄化の光は、勇者のハート型結界と衝突し、パリンパリンと甲高い音を立てて相殺されていった。


「なんという……私の愛(光)を、あのようなふざけた結界で防ぐというのですか……!」


 セラフィーナがワナワナと肩を震わせる。

 息一つ乱していない勇者は、日傘を肩に掛け、フリルの裾をちょこんと摘んで、優雅にお辞儀をした。


「ふふん、どうかしら? 少しは私の『可愛さ』と『強さ』を理解していただけた?」

「……こいつ、強い」


 リゼが、忌々しそうに木剣を握り直す。

 フランも杖を構え直し、冷ややかな瞳で勇者を分析した。


「身体能力、魔力量、ともにエラー値の塊ね。……厄介なライバルが現れたものだわ」

「でも、絶対に負けないんだから!」

「……ええ、ナギは渡さない」


 四人のヒロインたちと、世界最強の男の娘。

 双方の殺気がさらに膨れ上がり、クリスタル洞窟が限界を告げるようにミシミシと軋み始めた。

 このままでは、洞窟が崩落して全員生き埋めだ。


 俺は持っていたカバンから、ギルドの窓口で暴れる冒険者を鎮圧する際に使う『防犯用ホイッスル』を取り出し、思い切り息を吹き込んだ。


 ピーーーーーーーーーーーーーッ!!!


 耳をつんざくような甲高い音が、洞窟内に鳴り響く。

 ビクッとして動きを止めた五人の美少女(?)たちに向かって、俺は胃の辺りを押さえながら怒鳴りつけた。


「そこまで! お前ら、いい加減にしろ! 山が崩れるだろうが!」


 俺の声に、リゼたちはしゅんとして武器を下ろす。

 勇者も「は、はいっ!」と直立不動になり、巨大な聖剣を慌てて背中に背負い直した。


「……はぁ、もう夕方じゃないか。せっかくピクニックに来たんだから、一旦休戦して飯だ、飯! 作ってきてくれた弁当、まだ食べてないだろ。もったいない」


「あ……そうだった……!」

「管理者のエネルギー補給は最優先事項ね。……非論理的な戦闘をしている場合ではないわ」


 俺の『お弁当』という言葉に、ヒロインたちはあっさりと殺気を引っ込め、バスケットを開けてレジャーシートを広げる準備を始めた。

 本当に、俺への餌付け最優先な連中だ。


「あの、ナギ先生……。私も、ご一緒していいんでしょうか……?」


 勇者が、もじもじと指を絡めながら、上目遣いで俺を見てくる。

 俺はため息をつき、シートの空いている場所をぽんと叩いた。


「当然ですよ。一緒に飯でも食いながら、じっくりと話をしましょう」

「っ……! はいっ♡」


 勇者はパァッと顔を輝かせ、フリルを揺らして俺の隣へと小走りで駆け寄ってきた。

 その瞬間、シートの準備をしていた四人から凄まじい眼光で睨まれたが、俺は気づかないふりをして、お茶の準備を手伝うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ