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異世界ギルド受付の俺、病んだ美少女冒険者たちをカウンセリングしたら全員「私だけ見て」とヤンデレ化した  作者: 他力本願寺


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第31話 あなたたちは彼を消耗させています

冒険者ギルドの「こころの相談窓口」は、絶対零度の静寂に包まれていた。


「ナギ様。これからは私が、あなたの全てをお支えいたします」


 聖女セラフィーナのその宣言は、あまりにも優しく、慈愛に満ちていて、そして――決定的に狂っていた。


 俺を囲んでいた三人の少女たちは、数秒ほどその言葉の意味を咀嚼し、やがて一斉に凄まじい敵意を爆発させた。


「ふ、ふざけないでよ!!」


 最初に噛み付いたのは、Aランク剣士のリゼだった。

 彼女は犬歯を剥き出しにし、腰の木剣を握りしめてセラフィーナを睨みつける。


「急に出てきて、ナギの何がわかるの! ナギは私を助けてくれたし、私にはナギが必要なの! 私が一番ナギのこと想ってるんだから、勝手に独占しようとしないで!」


 感情剥き出しの真っ直ぐな叫び。

 だが、セラフィーナは完璧な微笑みを崩さず、哀れむような目でリゼを見た。


「ええ、わかりますよ。あなたは彼に見捨てられることを極端に恐れているのですね」

「えっ……」

「だから大声を出して気を引き、常に自分を見てほしいと彼に縋り付いている。あなたのその感情の乱高下と依存は、彼の精神をひどく消耗させています」


 リゼはビクッと肩を跳ねさせ、言葉に詰まった。


「……感情論の剣士と一緒にしないでいただきたいわね」


 動揺するリゼを押しのけ、濃紺のローブを纏ったフランが進み出る。

 杖の先で床を叩き、極めて冷静な、理詰めの声を作って反論した。


「私は彼女のような無秩序な負担はかけていないわ。彼の生活リズムを論理的に管理し、最適な休養と栄養を提供している。私の存在は彼のシステム維持において不可欠よ」

「ご自身の強迫観念を、彼に押し付けているだけではありませんか?」


 セラフィーナは、小首を傾げてフランの言葉をバッサリと切り捨てた。


「予定調和でなければ安心できないあなたの『管理』は、彼から自由と安らぎを奪っている。ルールという名目で彼を縛り付け、息苦しくさせているのは、あなたも同じです」

「……っ!?」


 フランの表情が凍りつき、反論の言葉が喉の奥で詰まる。


「……御託を並べるわね、聖女様」


 空気がスッと冷え、亜麻色の髪の少女の瞳が、氷のように鋭い色へと変わった。

 夜の盗賊、ルナだ。彼女は腕を組み、セラフィーナを冷酷に睨み据えた。


「昼の馬鹿も、あの二人も確かに手がかかるわ。でも、私たちは昼夜二交代制で彼の安全を完全に確保している。このシフト表に隙はないわ。私たちは彼に『実務的な利益』を与えているのよ」

「二十四時間の監視網。……それは保護ではなく、ただの束縛です」


 セラフィーナは、悲しげに目を伏せた。


「常に誰かに見張られ、気が休まる瞬間がない状態が、どれほど人間の心を削るか。あなたたちは彼を守るどころか、その重圧で彼をすり減らしているのです」


 しんと、ギルドの窓口が静まり返った。

 三人は、ぐうの音も出ずに立ち尽くしている。


 無理もない。

 セラフィーナの指摘は、臨床心理士である俺の所見と一寸の狂いもなく一致する、完璧な『正論』だったからだ。


(やめてくれ……俺の頭の中のカルテを勝手に読み上げないでくれ……)


 俺は胃を強く押さえながら、心の中で泣きそうになっていた。

 確かに彼女たちは手がかかるし、重いし、疲れる。だが、それを直接突きつけてしまえば、彼女たちの心が耐えられないとわかっているから、俺は少しずつ時間をかけて解きほぐそうとしてきたのだ。


 しかし、セラフィーナは容赦しなかった。


「あなたたちは彼に甘え、時間を奪い、ひどく消耗させている」


 純白の法衣を揺らし、セラフィーナは三人に決定的な宣告を下す。


「ご自身の不安を埋めるために彼を利用しているあなたたちと、私とでは、彼への想いの次元が違います」

「次元が……違う……?」

「ええ。私は見返りを求めません」


 セラフィーナは、両手を胸の前で組み、祈るような姿勢をとった。


「彼が私を見てくれなくても構わない。私を愛してくれなくても構わない。私はただ、これ以上彼が傷つかないように癒やし、無償でお支えしたいだけなのです」


 それは、最強の盾だった。

 自分の我欲(一緒にいたい、見てほしい、管理したい)を自覚させられた三人にとって、「何も求めない」と断言する聖女の善意は、決して打ち破ることのできない絶対的な正義だ。


 リゼは悔しそうに唇を噛み、フランは杖を握る手を震わせ、ルナでさえ舌打ちをして顔を背けるしかなかった。


「……ご理解いただけましたか」


 三人の沈黙を『同意』と受け取り、セラフィーナは完璧な微笑みを浮かべた。

 そして、ギルドの空気を完全に凍結させる、最後の一言を放つ。


「だから、私が彼を支えます。彼をすり減らすあなたたちから彼を保護し――私が、独占いたします」


 慈愛に満ちた声で紡がれた、あまりにも冷酷な独占宣言。

 その言葉に込められた『善意100%の狂気』に、歴戦の冒険者であるヒロインたちでさえ、一歩後ずさるしかなかった。


 俺は、目の前で完成してしまった『最悪の救済者』を見つめながら、かつてないほどの絶望感を味わっていた。


 俺に依存する三人を、俺に依存する聖女が排除する。

 『こころの相談窓口』は今、取り返しのつかない特異点へと突入してしまったらしい。

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