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異世界ギルド受付の俺、病んだ美少女冒険者たちをカウンセリングしたら全員「私だけ見て」とヤンデレ化した  作者: 他力本願寺


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第22話 二十四時間体制の担当共有はやめてください

朝。

 冒険者ギルドのカウンターに出勤した俺は、机の上に置かれた一枚の羊皮紙を死んだ魚のような目で見つめていた。


『見守り担当表』


 昨夜、俺の知らない間に置かれていたその紙には、俺の二十四時間のスケジュールが勝手に分割され、ルゥとルナの『どちらが俺を監視・保護するか』がびっしりと割り振られている。


「……前世のブラック企業でも、ここまで徹底したシフト管理はされていなかったぞ」


 頭を抱えていると、ギルドの扉が元気よく開いた。


「やっほー、ナギお兄さん! シフト表、見てくれた?」


 亜麻色の髪を揺らし、ルゥが満面の笑みでカウンターに駆け寄ってくる。

 俺はため息をつき、その『見守り担当表』を指差した。


「見ました。見ましたが、これは一体何の冗談ですか」

「冗談じゃないよ? だって、心配だもん!」


 ルゥは身を乗り出し、悪びれる様子もなく言った。


「お兄さん、いっつも忙しそうだし。変な人たちに絡まれてるし。だから、私とルナで二十四時間、お兄さんを守ることにしたの!」

「俺の平穏を一番脅かしているのはあなたたちなんですが。大体、一人の身体で二十四時間稼働したら、あなた自身が倒れますよ」

「あっ、そこは大丈夫!」


 ルゥは腰のポーチから引き継ぎノートを取り出し、得意げに開いた。

 そこには、昨夜のルナが書いた鋭い文字が記されていた。


『昼の馬鹿へ。

 ナギの監視・保護体制の構築は急務だ。

 昼と夜で分担すれば効率的だ。お前は昼の接触と牽制を担え。夜の物理的排除と防衛は私が引き受ける。睡眠中はトラップと情報屋の自動警戒網を使う。

 無駄な依頼は削れ。私たちの最優先任務は、管理者の保全だ』


「……ルナさんまでノリノリじゃないですか」

「ねっ? ルナも『これが一番効率的』って言ってるし!」

「効率の問題じゃありません。俺は人間です。二十四時間体制で監視されるいわれは――」


 ドンッ!!


 俺が説教を始めようとした瞬間、カウンターが激しく叩かれた。


「ちょっと! 何それ、そんなの絶対に認めないから!」


 いつの間に背後にいたのか、Aランク剣士のリゼが鬼の形相で立っていた。

 彼女はルゥの手元にある『見守り担当表』を睨みつけ、ギリギリと歯ぎしりをしている。


「ナギは私の担当でしょ! なんで新入りのあんたが、勝手にナギの二十四時間を独占しようとしてるの!」

「えー? だって私、お兄さんに予定管理してもらってるし。お兄さんを守るのは私の役目だもん」

「護衛なら私の方が強い! 私も夜のシフトに入る!」

「リゼ、対抗しないでください」


 俺が止めようとした、その時。


「感情だけでシフトを組むのは非効率の極みね」


 氷のように冷たい声とともに、濃紺のローブを纏ったフランが悠然と歩み寄ってきた。

 彼女はルゥの『見守り担当表』を覗き込むと、ふむ、と顎に手を当てた。


「……なるほど。昼と夜の人格交代を利用した、死角のない二十四時間連続監視システム。着眼点としては悪くないわ。属人的な口約束より、よほど制度的だわ」

「フラン? まさか感心してるんですか?」

「ええ」


 フランは真顔で頷き、杖の先でトンッと床を叩いた。


「ただ、このシフト表には重大な欠陥があるわ。私という『正規の運用管理者』の枠が一切確保されていないことよ。制度化するなら、適切な条件整理と権利の分配が必要ね。昼の三時間は私がナギの休養管理を行う枠として割譲しなさい」


「乗っかるな!!」


 俺はたまらず大声を上げた。

 なんだこの地獄のシステム開発会議は。


「お言葉ですが、フランさん! ルナがノートにこう書いてます!」


 ルゥが引き継ぎノートの続きを指差す。


『追記。

 あの剣士と魔法使いをシフトに組み込むな。

 あいつらは自分の独占欲を満たしたいだけで、ナギの負担を全く考慮していない。監視システムが崩壊する。要求されても全て却下しろ』


 ルナ、お前が一番冷静でまともなツッコミをしてるじゃないか。

 ……前提となる『監視システム』の存在が完全に狂っていることには目を瞑るとして。


「却下ですって!? ふざけないで、私が一番ナギのこと考えてるのに!」

「理不尽な評価ね。私の管理こそが彼にとって最も有益なのに。強硬手段に出るしかないようね」


 リゼが剣を抜きかけ、フランの周囲の温度が急激に下がり始める。

 ルゥも負けじと短剣に手をかけた。


「ストォォォップ!!」


 俺は備え付けの笛を力いっぱい吹き鳴らし、両手で巨大な『T』の字を作った。

 ビクッと肩を震わせ、三人がピタリと動きを止める。


「ここは! グループセッションの会場でも、シフト調整の会議室でもありません!」

「「「……っ」」」

「ルゥ、ルナさんにも伝えてください。見守り担当表は即時破棄! リゼも対抗して夜警に入らない! フランも権利の分配とか言い出さない!」


 俺は引き出しから新しい羊皮紙をひったくり、木炭ペンで怒涛の勢いで文字を書きなぐった。


【冒険者ギルド・こころの相談窓口 追加注意事項】

・相談員の行動を当番制で管理しないこと

・無断尾行ならびに私生活の監視を禁ずる

・相談者同士で監視権・面談枠を分配、協定化しないこと

・(追記)俺は二十四時間営業ではありません


「これをよく読んで、頭に叩き込んでください!」


 俺がカウンターの横に羊皮紙をバンッと貼り付けると、三人は「ちぇっ」「……不合理ね」「むぅ」とそれぞれ不満げな声を漏らした。

 ……どうやらルナの言う通り、俺が優しすぎるのがいけないらしい。毅然とした態度を取らなければ、俺の私生活は文字通り彼女たちに完全に管理されてしまう。


「はぁーい、わかりましたぁ。じゃあ、今日のところは普通にお仕事行ってくるね! また夕方に報告に来るから!」

「……接触機会が減るのは不本意だけれど、今日は引くわ」

「私も、依頼こなしてくる。……ナギ、浮気しないでよ」


 三者三様の重たい言葉を残し、彼女たちはギルドを出ていった。

 嵐が去ったカウンターで、俺は深く、深くため息をついた。


「……寿命が縮む」


 受け入れてくれた人を失いたくない。

 その気持ちは痛いほどわかる。だが、その不安が「独占欲の制度化」や「二十四時間監視体制」という実務設計に向かってしまうのは、さすがに予想外すぎた。

 前世の知識が全く通用しない。異世界のヤンデレは行動力が高すぎる。


     * * *


 その日の夕暮れ時。

 ギルドの裏手にあるゴミ捨て場へ向かった俺は、ふと、背中に刺さるような視線を感じて足を止めた。


 ルゥの無邪気な視線でも、ルナの冷たい監視でもない。

 もっとねっとりとした、明確な悪意と暴力の匂いがする視線だ。


「……誰ですか」


 俺が振り返ると、路地の暗がりから一人の男が姿を現した。

 薄汚れた革鎧に、無精髭。どこにでもいるチンピラのように見えるが、その身のこなしには隙がない。裏社会の人間特有の、血の匂いがした。


「あんたが、うちの『便利な道具』をたぶらかしてるっていう、ギルドの受付か」

「便利な道具?」

「とぼけんなよ。昼と夜で顔が変わる、あの盗賊のガキのことだ」


 男は、懐から取り出したナイフで器用に爪の汚れを弾き飛ばしながら、俺に向かってニヤリと笑った。


「あいつはな、夜になればどんな汚れ仕事でも躊躇いなくこなす、最高の『手駒』なんだよ。昼間の甘ったれたガキの相手をしてる分には勝手だがな……」


 男の目が、蛇のように細められる。


「あの子に、余計なことを吹き込むな」


 凄みのある低い声が、薄暗い路地に響いた。

 ルゥとルナが抱える、過去と現在の闇。

 引き継ぎノートに書き込まれていた『危険な仕事』の正体。


 俺は手に持っていたゴミ袋をゆっくりと下ろし、男の目を真っ直ぐに見返した。

 ルゥとルナの「生活の破綻」は、俺が思っていたよりもずっと深く、暗い場所に根を張っているらしかった。

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