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異世界ギルド受付の俺、病んだ美少女冒険者たちをカウンセリングしたら全員「私だけ見て」とヤンデレ化した  作者: 他力本願寺


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第20話 一人ぶんの身体に、二人ぶんの予定を入れるな

冒険者ギルドが定休日の昼下がり。

 俺は備品の買い出しのため、街の市場を歩いていた。


 日差しは明るく、通りには果物や香辛料の匂いが漂っている。

 ギルドでの修羅場――主にAランク剣士と天才魔法使いによる俺の時間の奪い合い――から一時的に解放され、俺は平和な空気を満喫していた。


「あーっ! 待って待って、本当にごめん! 今日だっけ!?」


 そんな平和を打ち破る、聞き覚えのある声がした。

 視線を向けると、路地の入り口で亜麻色の髪の盗賊少女――ルゥが、二人の冒険者に詰め寄られていた。


「今日だっけ、じゃねえよ! 東の森への採取護衛、昼からだって言ったろ!」

「でも、夕方から西の街区で探し物の依頼も受けちゃってて……!」

「はあ!? なんだお前、依頼ダブルブッキングしたのか!?」


 頭を抱えてしゃがみ込むルゥ。

 遠目に見ても、完全にスケジュール管理が破綻している。


 俺はため息をつき、揉めている彼らの間へ割って入った。


「失礼。うちのギルドの冒険者が何か?」

「あ、ナギお兄さん!」

「お前、ギルドの受付か。こいつが依頼を重ねて受けて、護衛に穴を開けそうなんだよ」

「申し訳ありません」


 俺は手早く冒険者たちの話を聞き、ギルドのネットワークを使って代わりの護衛を即座に手配した。

 冒険者たちは渋々ながらも納得し、「次は気をつけろよ」とルゥに釘を刺して去っていった。


「はぁ〜、助かったぁ……。ありがとう、ナギお兄さん!」

「助かったじゃありませんよ。何をどうやったら予定が被るんですか」


 俺が呆れて言うと、ルゥはペロッと舌を出した。


「だって、頼まれると断れなくて。それに、私が稼いでおかないと、ルナが文句言うし」

「ノートを見せてください」


 ルゥが腰のポーチから引き継ぎノートを取り出す。

 そこには、俺が推奨した通りに予定が書き込まれていたが……内容がひどかった。


『昼の部・予定』

・午前:市場で買い出し

・昼:東の森で護衛

・夕方:西の街区で探し物依頼


 そして、その下には夜のルナによる、筆圧の強い鋭い文字が刻まれている。


『昼の私へ。

 無駄に予定を詰め込み過ぎだ、馬鹿。身体がもたない。

 私は今夜、盗賊ギルドの会合に出なければならない。体力を残せ。

 西の探し物はキャンセルしろ。さもなくば倒れるぞ』


「……ルゥ」

「はい」

「ちゃんと引き継ぎノートを見ろ。ただでさえ、二人分の予定があるんだ。無理するな。」


 俺がノートをペシッとルゥの頭に軽く当てると、彼女は「あいたっ」と大げさに頭を押さえた。


「だってー! 私だって頑張ってるんだよ? ルナばっかりに負担かけたくないし」

「気持ちはわかりますが、物理的な限界があります。東の護衛に行き、西で探し物をして、夜は盗賊ギルドの会合? 確実に過労で倒れますよ」

「うぅ……」

「いいですか、あなたたちは二人で一つの身体を使っているんです。活動限界も一人ぶん。だから、お互いの予定をすり合わせて、優先順位を決めなきゃいけない」


 俺はペンを取り出し、ノートの空白ページに線を引いた。


「まず、一日の活動時間を三つに分けます。午前、午後、夜。

 夜の会合は外せないなら、午後は休息か軽い作業にする。西の探し物は明日に回すか、俺がギルドで別の人に振ります」


 さらさらと、シフト表のようなスケジュールを書き込んでいく。

 ルゥとルナの要望を折衷し、身体の負担を考慮した『共同運用予定表』だ。


「わぁ……すっごく見やすい!」

 ルゥが身を乗り出し、俺の腕にギュッと抱きついてきた。

 距離が近い。そして柔らかい。


「ナギお兄さんが決めてくれると、すっごく楽! 私、こういうの考えるの苦手だからさ。もう、ずっと私の予定管理してよ!」

「俺はギルドの受付です。敏腕マネージャーじゃありません」

「えー、いいじゃん! お兄さんの言うことなら、私もルナも聞くと思うし!」


 ルゥは上目遣いで甘えてくる。

 自分で責任を負うのが怖い彼女にとって、「ナギに決めてもらう」ことは最大の安心なのだ。

 これはこれで、依存の方向性としてはかなり危険な匂いがする。


「とにかく、今日はこの予定で動いてください。夕方はしっかり休むこと」

「はーい! 大好き、ナギお兄さん!」


 ルゥは満面の笑みで手を振り、街へと駆けていった。


     * * *


 夕方、ギルドに戻った俺は、目安箱に投函されていた一通の封筒を見つけた。

 あの、スケールがでかすぎる匿名相談者からの手紙だ。


『前略。

 不可逆な決断を保留し、対象を絞るべきとのご助言、痛み入ります。

 ふと疑問に思いました。

 二つの相反する声が常に頭の中でせめぎ合っている時、どちらを黙らせるのが正解なのでしょうか。

 どちらの声も、ひどく煩わしいのです』


 短いポエムのような文面。

 だが、奇しくもルゥとルナの状況とリンクしているようで、俺は少しだけ手を止めた。


『ご返信ありがとうございます。

 二つの声があるなら、どちらかを黙らせるのではなく、対話のルールを決めるべきです。

 一方を切り捨てても、根本的な解決にはなりません。共存のための落としどころを探ってみてはいかがでしょうか』


 俺はそう返信を書き上げ、掲示板に貼り出した。

 匿名相談の主も、俺の担当する冒険者たちも、抱えている問題の根っこは案外似ているのかもしれない。


     * * *


 すっかり日が落ちた帰り道。

 俺は薄暗い夜道を一人、アパートへと歩いていた。


 今日は非番だったはずなのに、結局ルゥのスケジュール調整で気疲れしてしまった。

 フランの言う通り、俺の疲労度管理もちゃんと考えないといけないかもしれない。


「……ん?」


 ふと、上着のポケットに手を入れた時、カサリと紙の感触があった。

 買い物のメモかと思ったが、取り出してみると、見覚えのない小さな紙片だった。


 街灯の薄明かりを頼りに、そこに書かれた文字を読む。

 筆圧の強い、鋭く整った文字。夜の彼女――ルナの字だ。


『昼の私より、あなたの方がよっぽど信用できる。予定表、助かった』


 そんな、珍しく素直な感謝の言葉から始まっていた。

 だが、続く一文を読んで、俺は思わず足を止めた。


『だから、夜道を一人で歩くな。

 東通りの路地に、柄の悪いのが三人いた。別ルートで帰れ。

 ……あいつらは、もう処理しておいたけれど』


「…………」


 俺は無言で、少し先にある東通りの路地へと視線を向けた。

 暗がりの中で、微かに人が重なって倒れているようなシルエットが見えた気がした。


 背筋がゾクリと冷たくなる。

 いつの間にポケットに入れられたのか。全く気づかなかった。


 昼のルゥは「決めてもらえる安心」に依存し、無防備に甘えてくる。

 対して、夜のルナは「任せるならこの人しかいない」という警戒混じりの信頼を寄せ、俺を物理的に保護し、監視する方向へと動き始めたのだ。


 一人は陽の当たる場所で腕に抱きつき。

 もう一人は闇夜に紛れて、俺の背後で刃を振るう。


 同一人物による、二十四時間体制の完全包囲網。

 どうやら俺は、予定管理だけでなく、自分の身の安全に関する危機管理まで、彼女たちに握られようとしているらしい。

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