最終決戦終結、そして…
「大勢を挽回出来ないと、将軍や参謀が判断したのであれば、速やかに、整然と、損害を最小限にして、退却するべきでしょう。」
イサベラの言葉に、将軍以下ホッとしつつ、悔しそうな表情だった。
「大言壮語しておいて…。誠に申し訳ありません。」
頭を下げる中年の、歴戦の将軍が彼女に頭を下げるのを見て、慌ててイサベラは、
「士気高揚のため当然のことです。さあ、早くことを始めてください。」
最早、何とか最後の陣地で敵の攻撃を持ち堪えている状況で、それも突破されるのも時間の問題だった。
「この陣形は?」
騎兵や歩兵が何かを囲むようにしている陣形を見て不思議に思ったイサベラの問いに、
「本来は砲兵を守る陣形ですが、イサベラ閣下を守り撤退するための陣形です。」
「は?」
意味が、分からなかった。彼女は、自分が最後まで残る、そして死ぬ積もりでいたからだ。
「さあ、早く、馬車の中に。全滅しても、閣下を首都まで送り届けますから。」
「何をいうのです!共和国の防衛、首都の防衛には、将軍以下一人でも多く生きて退却することが必要なのです。非力ながら、一人でも多く退却させるために私が犠牲になるべきです。」
彼女は、毅然として言い放った。
その中で一人の女が引き摺られていた。
「私が…私こそが共和国の防衛に…元帥の私が…だから…お願い!」
「はい、はい、元帥閣下。我らの総司令官閣下を無事に撤退させるために、陣頭指揮して下さいね。」
女士官達に押さつけられて引き摺られていった。最後は泣きさけぶばかりだった。
「イサベラ様。共和国に、最小限の犠牲で、整然と幕を引けるのは、閣下しかおりません。踏みとどまる任は私達にお任せ下さい。」
彼女の支持者の一人が大声で言った。他の男女も、それに同意の叫びをあげた。しかし、
「お前達では足手まとい、邪魔なだけだ。あんたらは、閣下の盾くらいにしか役にたたん!」
参謀の一人が、笑いながら大声で言った。初めはムッとしていた面々も、直ぐに破顔一笑、
「ならば、盾としての務めを果たそうではないか!」
「おー!」
「な、なにを馬鹿なことを。あなた方こそ、必要な人材。」
慌てる彼女を無視し、将軍は彼女の傍らにいる二人に、小銃を渡し、
「閣下をくれぐれも無事に…。お願いします。」
と深々と頭を下げた。
「お気持ち分かりました。」
「私達の命に代えても、お姉様を、閣下を無事にお連れします!」
銃を受け取って、叫ぶように答えた。
「あなた方まで!そんなことのために、同行を許したわけではありません!」
と叫ぶイサベラだったが、
「さあ、お姉様。」
「早く出発しましょう。」
と2人がかりで腕をとられて、抵抗するものの、さらに彼女らに助っ人が現れて、馬車の中に押し込まれてしまった。
「終わったな。」
最後の共和国軍の抵抗線を突破、総崩れの共和国軍に対する追撃戦に入ったとの報告を聞いて、ルイスはつぶやいた。
「本当に大変なのは、これからでしょう?」
ルシアは、微笑むでもなく、彼と同じ方向を見ながら言った。
「その通りだ。」
とルイスは答えたが、そのことでルシアと話をするのは、追撃戦が終わり、ささやかな戦勝会を、将兵の慰労のため、共和国軍が残していった食料等を捕獲した一部を放出、酒も幾らか出して、彼らに少し豪華な夕食として振る舞った後の天幕でであった。
「なかなか進められなかった、私の微温的改革より先に進めそうだし、進めなければならなくなりそうだよ。」
「それはどういうことですの?」
ビールを半ばまで二人は飲み干していた。
「かなりの貴族が没落しただけでなく、各階層、地域の有力者も入れ替わったし、一から再建しなければならないところもかなり出た。前ほど、しがらみや抵抗を受けにくくなった。そして、皆が、新しい社会を、国を見た、議会も、共和制も体験した。それなしの時代には戻れない。まあ、程度の問題だがね。やっぱり抵抗はあるだろうし、どこまで進めるかの調整も難しいだろうけどね。まずは、スタート地点をどこからにするかだね。少なくとも、僕が王太子を追われた時点より進めたところがいいだろう。」
“君の父上も説得しないとね。”ルイスはルシアをじっと見つめた。ルシアはというと、別の意味で次を考えていた。“そうよね。進歩に遅れると、15年後に7月革命、33年後に二月革命だもんね。追われる王家なんか嫌よ!せっかくマリー・アントワネットを逃れたんだから!”
「分かっていますわ。国民と国のため、ご協力いたしますわ。父にも、必ず解ってもらいますわ!」
ルイスは少しホッとする思いだった。
「頼むよ。これからも道連れだからね。」
「分かっておりますわ。」
“こいつなしには、生きていけないからな。もう、裏切り者にはこいつとの道連れの選択しかないんだ。”“この人なしには、私はマリー・アントワネットになっちゃうんだから。もう、仕方がないのよね。”そのまま、不安が燃えさかり、唇を重ねると、まだ禁欲を守るつもりが、そうとはいかなくなってしまい、部隊全体に話題の種を2人は、提供してしまったのである。
イサベラは、何とか首都に無事到着した。彼女の支援者達の半ばが、本当に盾となり、そのもの達の半ば以上が命を落としたものの。
「あなた方が残ってくれなければ、誰が私の帰宅まで、屋敷を守ってくれるの?」
と言って、他を残したのに館は、暴徒の襲撃で灰燼と化していた。が、残っていた者達は全て無事だった。
「昨日まで、あんたを支持していた連中がやったんだよ。でも、あたいらを助けてくれたのも、あんたの熱心な支持者達だったよ。この場所を守ってくれたのもね。」
敗戦責任を追求して、彼女を死刑にしようとした者達もいたが、彼女の支援者のおかげで助かった。彼女が共和国政府のトップとなった。ならざるを得なかった。責任を持って、指導出来る者は彼女しかいなかったのだ。しかし、彼女が出来ることは、最小限の犠牲で、秩序だって降伏することだけだった。既に目の前まで進撃してきていたポナパルト将軍の軍は、首都を包囲したものの攻撃はせず、包囲するだけだった。その彼と降伏交渉をし、略奪が行われることなく、彼が首都に入城することになった。なお、彼の入城はルイス王太子の許可を受けてのものだったが。




