その後(最終回)
アンダルシア公は、逮捕された。正確には、亡命先のカルタゴから送還されたのである。その前は、レムス王国からカルタゴに送られたのであるが。彼は、ルイスとルシアの前に出るまで、簒奪者であるルイス打倒の盟主であり、コリントス全域の支持を受けているとして、レムス王国ともカルタゴとも、本気で交渉していた。その“本気”がどこから来るのか、誰にも分からなかったが。
ルイスの前に出ると、如何に彼のためにつくしたかを理路整然と述べ始めた。どうして、彼を罪人に仕立て上げているのか、ルイスの非をルシアに訴えた。論理だてて、饒舌に、自信に満ちて。僅か2年の間に、かつての容姿とは似ても似つかぬ、はげ頭の肥満しきった姿ではあったが。
「前アンダルシア公。貴兄の奥方や親族からの助命嘆願もある。無期幽閉を命ずる。」
さすがにその時には、泣きわめき、暴れまくったが。アンダルシア公の領地のかなりの部分は没収、息子にその家名は存続。残った財産から彼の幽閉費用が出された。その生活は、庶民と比較すれば比べようもないほどだったが、彼は不足を、貧困生活を嘆いて止まなかったという。
そして、イサベラ達は、整然と捕縛された。本当のところは、彼女は自分一人のつもりだったのだが、家からの侍女が二人、そして、彼女につくしたいという4人の女達が離れようとしなかったのだ。アンダルルシア公の給付領地の一部を費用にあてられた幽閉となった。彼女も、他の4人も前アンダルシア公の正式な愛人として認定されたためである。前アンダルシア公よりはるかに少ない費用だったが、彼女らは不足を訴えることもなく、生活を続けた。
ルイスは、判決後、彼女の耳元で
「生きているうちに君が求めた1/3くらいは実現させているよう努力するよ。」
と囁いた。イサベラは、小さく頷いて、涙ぐんだ。
なお、共和国政府の最後の長ながらも、彼女の実家、兄妹が王太子側で功績があり彼らが助命嘆願したこと、さらに多数の助命嘆願があったことからだった。さらに、粛清、虐殺、大量処刑命令、前国王夫妻遺体の処刑にも反対して、度々入牢し、処刑命令を受けたことが評価されたのである。
国王、フェリペ10世として即位したルイスと議会、極めて限定的な選挙を通じて選ばれた議員によりなるものだったが、との間の協約憲法が設立され、一応三権分立の立憲君主制国家があらためて生まれた。内戦で荒廃した国土の再建の中、所領を失った貴族の救済のため、彼ら向けの莫大な国債が発行されたが、農地を分配された農民は、得た土地が確保出来たことから、概ね納得された。反乱した守旧派や外国勢力に加担したりした貴族がかなり多数いたが、その大部分は家名存続を、かなり所領等の削減を条件に許したことから、不満も彼らへの国債発行もかなり抑えられた。国土の復興も、古い体制から新しい体制に、かなり壊れたこどもあり、比較的スムーズに移行できたため、まあ、順調に進んだ。カルタゴとの間での海外領土を巡る争いも、コリントス側が国内開発を主とし、カルタゴとの融和を第一にしたことから、和平は守られ、両国の良好な関係から各国の和平体制が構築される結果になった。レムス王国の、周辺地域への侵攻も、一応満足すべき段階になったとの判断から、その成果を守る和平政策が主流となった。
「陛下。ここまで、この期間で実現していただけるとは思ってもいませんてました。」
イサベラは、訪問した国王夫妻に頭を下げた。彼女と4人の女達との共同生活は、20年間続いていた。広い、あくまで庶民との比較だが、屋敷の庭園で菜園を耕し、ヤギや鶏等を飼いつつ、政治・哲学はもちろん、天体から昆虫まで幅広く、イサベラを中心に学び続けていた。かなり自由に外から、著作物を入手出来たし、かなり制限はあっても、訪問者と話をし、出版までできた。
「この歳で、勉強なんかすることににるなんて、思ってもみなかったよ。」
と一人愚痴めいた冗談をいう女もいたが。その彼女も、レース等の作り方を皆に教えたりとしていた。イサベラを中心に、彼女達は生きた伝説となり、イサベラへの支援者達は増えることはあっても減ることはなかった。彼女の政治的影響力は隠然としたものだった。後に
「伝説から彼女を解放して、本当の姿を。」
と主張し、他のろくでもない女元帥達を再評価、彼女もその一人に過ぎないとして、
「イサベラは、多くのイサベラの一人だった!」
という主張が一時的に話題になったが、それは彼女の知らないことであった。
「古いものが壊れたからな。そのお蔭でもあるよ。」
「あなたのやったことは、無駄ではなかったのよ。」
国王夫妻は、来る度に、欲しいものがあるか、と尋ねる。イサベラは、大抵本や論文を希望した。そして、次に2人が訪れる時には、彼女が求めた以上のものを、彼女が知っていたら望んでいただろうもの、を持参してきた。彼女の著作の出版にも、内々に2人が協力していた。
イサベラの目には、“お二人は歳よりもはるかに若く見えるわ。”であり、“どうして、この2人とともに歩めなかったのだろうか?”と悔いを感じてならなかった。
2人の目には、イサベラは歳をあまりとっていないように見えた。“裏切ってしまったんだな。”“あなたと私の関係は…。”
レムス王国国王の愛人問題で、2人は同国王妃の泣き言を聴くことになった。ナバロは、近衛師団長となり、妻は国王警備隊司令官となり、3人の子供に恵まれて、公私に忙しく、幸福に過ごしていた。ボナパルトは、大将、元帥、さらに陸軍大臣、軍事大臣を歴任、さらに海外自治地域の長官を経て、首相として辣腕を働かせつつあった。その彼の悩みは、肥満気味な体と薄毛らしい。2人の子供にも恵まれ、困った兄弟姉妹に苦労しながら、順風満帆の人生の階段を歩んでいた。
一男一女を産んで、40を過ぎたコリントス王国王妃は、
「すっかり歳をとってしまいましたわ。」
と言いながら、裸体をコリントス王国国王の前にさらしていた、もちろん寝室でだった。
「ますます妖艶になって、魅力的だよ。」
そういって言うと国王は、彼女を抱きしめた。彼も40後半になっていたが、衰えを感じさせなかった。
抱かれながら、“アンダルシア公はあんなだったし、レムス王は愛人を次々と、まあ、2人だけど。ナバロは、あの女を忘れることができたのかしら?これでよかったのよね。アンダルシア公も、多分処刑されてたろうし、あの後。長生き出来てよかった…ことにしましょう。”と思いながら、喘ぎ声をあげ始めていた。
“裏切りの代償。それが地獄行きになろうと、とりあえず今は、この快感に溺れていこう。”




