支持を得る方法
「陛下。さすがにそれは…。」
ゴール大公は、表情を曇らせた。
「陛下ではない。即位していないのだから。」
「はあ…。」
ルイスは、正式な戴冠式をして、即位するまではあくまでも王太子であり、国王代理であるという立場である、そして、反乱が収まり、国内の平安が完全に治まらない限り戴冠式は行わないことを堅持していた。ゴーン大公が、難色を示していたのは、共和国政府が、左派路線に傾く際に実施される農民への農地の配分を取り消して、元の所有者に返還させることはないと約束することだった。国民の、より多い支持を集めるためのものである。その外にも、共和国政府に関係していても、王太子派=ルイス側に馳せ参じるなら罪に問うことはない、自由、議会等を認める(かなり限定的だが)等があった。ゴール大公は、何とかその他は賛成したが、最後農地の返還のところはさすがにそうは出来なかった。かなり難色を示した。
「絶対異なる形で、救済、補償すると約束する。」
それ以上は、譲歩できないというルイスに、ゴール大公はそれでも、
「どのような形で?」
「紙幣、国債…。苦労しなければならないだろうがな、祖父、父同様寿命が縮むだろうがな。」
「はあ…。」
ゴール大公は、反対を続ける事は出来なかった。彼も、このことで国民の支持が左右されることはわかっていたからである。ただ、自分と自分達の一族の利益、守旧派の重鎮としての立場等から、抵抗せざるを得なかった。
「舅殿には、苦労かけることになるのは、大変申し訳ありませんが。」
ルイスは、本当に申し訳ないという顔で付け加えた。
実際、これらの方針発表で、ゴール大公のもとには、苦情、陳情、抗議に貴族が大挙して押し寄せて、その対応に苦労することになった。
「ですからね、ルイス様は、王太子様は、寛大な方ですよ。その上、ご自分自身への過去の仕打ちにしてもね、ことのほかご寛大です。でも、国の利益、国民の幸福に関することには、寛容さにも限界がありますよ。」
ルシアは、貴族の夫人達を前に、飲み終わったティーカップを皿に置くと、穏やかな調子で、微笑みながらも、厳しい目をして見せた。
彼女のサロンの茶会に参加した貴族の夫人達は、緊張して、冷や汗をかいていた。
「それから、多分共和国政府も、赦すと言って来るでしょうけど、それを言った相手が明日いるかどうか分からないのですよ。お分かり?」
聖女の微笑みの合間に、悪女の笑い顔を見せつけた。“ああ、これもレムス国王のために言って、やったことだったわ。”
「戦場の方が気が楽なくらいね。何日も入浴できないことがあっても。みんな臭うから、気にならないし。」
ルシアが半ば本当に疲れたという感じを見せながら言うと、
「ご苦労さん。」
とルイスが唇を重ねた。直ぐに彼の後頭部を両手で押さえて、さらに強く押しつける。それを、ルイスの弟妹とその婚約者達、姉夫婦、ルシアの母、弟妹が呆れた顔で眺めていた。
「今が、正念場だ。父上は常に、国のため、国民臣民のことを考えて行動された。国民臣民同士の戦いは、早期に終わらせないといけないし、誰に復讐ということはあってはならないんだ。」
九分同意、残り一分ジト目だった。
「全ては元に戻らない。動いてしまったものは、巻き戻せない。さらに、内戦を早く終わらせるために必要なことも、動かすんだよ。だから、王族であろうとも、その妻、夫の実家であってもだ。いや、かえって、まずは率先して、我慢してもらわざるを得ない。もちろん、最終的には配慮するが、特別にはできない。」
ルイスは、皆の顔を見た。はっきりと反対する顔はなかったが、かと言って迷う様子だった。彼の隣にいたルシアが、スーとそこを離れて、彼に対峙するように立った。
“義姉上は如何するつもりだ?”“何を言うの?この兄嫁は?”“この女は~。”
ほんの少しの間を開けて、
「私の実家のゴール家も犠牲を甘受せよと?農民達に配られたから、奪われた私の土地は諦めろと?後で配慮するから、忘れないからと言う言葉を信じて、それがどのくらいかも分からないのに、我慢しろと?」
静かな調子だったが、断固とした、そして
詰問するようなものだった。2人が睨み合うような間があった。
「その通りだ。王家の直轄領などと同様なことになるよ。」
ルシアは、大きな溜息をついた。その意を誰もが、訝し気に彼女を見た。
「王太子妃となり、あるいは王太子に嫁をだした者、一族の義務ですわね。分かりました、そして、分からない一族を赦さないことにします。」
軽く頭を下げた。その彼女の両手をルイスは取った。
“しかたがないか。”皆の表情が、その方向になった。“まずは、ここで一致しないと、まずは。ルシア、ありがとう。”“後で、色々よろしくね、”“ああ、分かっているよ。”
皆は、いつの間にか、ルイスの横で彼と腕を組んでいるルシアに気がついた。




