レムス国王様は、こんなだった?
ルシアは、ルイスと共にカルタゴ政府の全権大使と対コリントス作戦陸海総司令官、そしてレムス国王夫妻、スパルタ、アテナイ全権大使等と会談を行っていた。ルイスの弟妹、ルシアの父、ゴール大公も列席していた。
レムス王国との国境に近い、カルタゴと海峡を隔てたダンケルクのコリントス国王の北の離宮で行われていた。共和国政府は、接収を命じていたが、無視されていた。
和平条約についてであるが、事前に事務方で交渉が進められ、ここでは形式的な調印だけだった。
ルイスは、法的には問題があるが、非常事態なので、やむを得ず、手続きを省略せざるを得なかったと、わざわざ“宣言”した。それをゴール大公以下が承認を態度で示し、カルタゴ、レムス側も、それを支持すると述べた。そして、調印がなされた。その中には、ルイスをコリントス国王と認めることも記されていた。
ルシアは、品定め半分、残念が半分、一縷の1/10以下の期待が半分、コリントス国王妃として半分、ゴール大公家の者として半分、時々レムス国王に視線を、不自然さがないように注意しながら、向けた。
レムスは、少し前まで同盟国であったから何度かコリントスを王太子の時期も含め、訪問していた。その際は、関係の深いゴール大公家にも訪れていたから、レムス現国王のことは、外見や言動から分かる程度のことであるが、よく知っていた。惚れ惚れとするような美丈夫、知性教養が溢れ、立ち居振る舞いも気品と威厳を感じさせる男だった。国王としての使命感も感じ取れたし、周囲への優しさと厳しさの両方を持っていた。
「将来の夫は彼ね!」
と心に決めたことは何度もあった。まあ、直ぐにそれはアンダルシア公やその他に変わることを繰り返していたのだが。
身長以外は、ルイスに比べて断トツの差があったと思っていた。
“う~ん?”それが、今見ると、その時の自分の気持ちが分からなくなっていた。外見も、言動も、それ程変わっていなかったのにかかわらず、最後に彼を夫に決めた時と比べて。
「お久しぶりです。ルシア様。」
レムス国王妃が、挨拶をした。
「お元気でしたか?レムス国王妃様。」
とルシアも返したが、二人とも昔の関係が頭にあり、少々ぎこちなかった。同じ一族だが、ゴール家の方が、身分も経済力もはるかに上だったが、いまでは同格だった。
「私からも、お久しぶりと言ってもよろしいかな?」
レムス国王だった。
「お久しぶりです、陛下。」
「ゴール家も、色々大変だったようですね。」
「それは、どなたかのせいでもありましたが。」
皮肉の一つでも言ってやりたかった。彼はそれには答えず、
「武勇談、私のところにも届いているよ。」
さらに続けた。
「ルシア様の武勇談、是非おきかせてください。ルシア様の放った大砲の砲弾が、カルタゴの戦列艦を何隻も沈没させたとか。」
「そうなんですか?さすがはルシア様!」
レムス国王妃は、一つ年上にもかかわらず、昔からルシアを崇拝に近い目で見ていた。今も目を輝かせている。ルイスと話をしていたカルタゴ海軍の将軍が、不愉快そうな顔をしたのにも、気が付かなかった。
「何処からそのような…、私の放った大砲の玉が、狙いはしましたが、当たったのかどうかさえ…。」
ルシアは、首を横に振ってから、
「噂には尾びれがつくものですね。その調子では、かのおりの戦いで、私が放った大砲の砲弾でレムス国王陛下の馬が驚いて、陛下を振りおとしたなぞと、ありもしない話になりそうですわ。」
「もしかしたら、そうかもしれませんわ!」
レムス国王妃は、いかにも可笑しそうに笑い出した。不愉快な顔のレムス国王だったが、直ぐに、妻に合わせるように笑い出した。
「どちらにしても、手柄は将兵達のものですわ。」
「さすが、ルシア様ですわ。私も見習わないといけないと感じましたわ。」
そんな妻を見るレムス国王の表情は、愛情が感じられた。彼が、その再来だとされるフリードリッヒ二世は、妻への愛情など欠如していた名君だったが、その点は異なっているらしい。いや、元々は、そちらの方も再来だったが、ルシアとの出会いで、人への愛情が芽生えたはずだったことを思い出した。面白くなかったが、
「お幸せそうですね。私も嬉しいですわ。」
取っておきの笑顔を見せた。彼女は真っ赤になって、
「ありがとうございます。で、でも、ルシア様の方こそ、ルイス様とのご夫婦仲も、お熱いとのもっばらの噂で…。」
「ルイス様のルシア様をお思いの深さには、こんな話もあるのだよ。」
レムス国王が、また、割って入った。
それは、ルシアの水浴中を覗いたということで水兵が逮捕状され、ルイスのところに連れてこられた時の話であった。女性士官、兵士に対する覗きなどは、厳罰が下ることとなっている。それと同様であって、何ら特別なことはしないと、ルイスは考えていたが、この水兵は、任務遂行中誤って、その場にいたということが分かった。捕まえた女性士官の労を労ったが、王族には特別な、という意見は退けた。しかし、その後直ぐに、平常どおりに無罪放免には出来ないと言いだした。そして、不安そうな顔の水兵の頭を、
「私の妻の裸を見おって、けしからん奴だ。」
と軽口を言ってから、本当に軽くぽかぽかと叩いてから、
「誰かに聴かれたら、ルシア様は美しかったとだけ言うように!」
と命じて放免した。
“よく知っているわね。”とルシアは思った。これが、彼が自分のことを思ってではなく、心の奥底でまだ微かに期待があるが、他国の情報を全て入手している結果なのだと感じた。国益のためなのだ、ようは。“あの時、私の事情を知っていたのは、私のことを心に思っていたというわけではないのね。感動して損したわ、私がしたわけではないか、ゲームや小説の中の私だけど、実際は。私自身ではないけど、私自身か、やっぱり、いや、違うかな?”レムス国王が、冷たく見えてきた。“国を背負ってるわけだから仕方がないとはいえ…。”なぜか、彼のための弁明を心の中でしていた。
ルイスが、カルタゴやスパルタ、アテナイの要人を連れてやって来た。
「考えて見ると、お互い、同じ頃に結婚したわけですな。ともに、良い夫婦関係を築いているというのは、両国関係の上でも目出度いことですね。」
「そうですね、誠に。」
ルイスとレムス国王との会話を聴いて、何となく嫉妬と復讐心がルシアに燃えあがった。
「ルイス様のお側にいられて幸せですわ。」
彼と腕を組み、うっとりするような表情を見せつけた。周囲から苦笑が漏れ聞こえたが、どうでも良かった。ルイスは、真に受けて嬉しそうだった。“この格好って、やっぱりレムス国王としていて、あの言葉もその時言ったんだ。”
少し見上げて見るルイスの顔は、昨日よりも愛おしいように心なしか思えてならなかった。
“まあ、レムス国王の方がイケメンだけどね。それでも…。”こちらも、心なしか魅力がかなり薄れたように思えた。彼の妻に見せる愛情を感じさせる雰囲気も、半ば作為的なようにも感じられた。ひたすら愛情深く、自分は耐えてでも彼のために献身する彼女に、愛着を感じてはいた。ペットに対する感情に近かった。それでも、他人にそのような感情すらなかった、妻以外には。しばらく後になって、それに気が付いた彼女は、“私もその程度だったのかしら?”




