ヤマトは不沈艦だ。
バルジの戦いでも、そうだった。カルタゴ軍を押し気味に戦いを進めていた、陸上戦だったが。もう一歩というところで、レムス軍が後方に現れ、挟み撃ちの状況になった。レムス軍に当たっていた軍が、レムス軍を見失って、素通りさせてしまったと言うのだ、後になっての報告では。共和国政府の陰謀だという声が大きかったほどだ。まあ、みてくれと共和国政府内部の諸派の序列、宣伝、広報力、で選んだ無能な将軍達だから仕方がないことだったというのが真相であろう。
事前に察知して、塹壕を掘るなどさせて、堅固な防御陣地を構築して、防戦に徹することに転換、それが功を奏して、攻めあぐんだ両軍を撤退させて、何とか一応勝利を得たのである。その時も二人で銃を打つ羽目になり、ルシアは大砲を撃っているうちに、いつの間にか、ルイスが弾込めしていたという落ちまでついた。
「何時から?」
「今頃気がついたのかね?」
その後、将軍達や参謀達に二人して小言を言われてしまった。
夜になり、海戦は一時休戦状態になった。暗いと、同士討ちになるし、そもそも相手がみえない。
「また、大砲をぶっ放したんだって?」
彼にも、当然だろう、そのことは伝わっていたのだろう、会うなり、呆れたように言った。
「あまりにあなたが可哀想でしたので、助けたくなったのです。」
ルイスは、色々言いたかったが、連れて来てしまった以上、何をかいわんやであると諦めて、彼女を抱きしめた。
「ありがとう。でも、少しは自分を大切に。愛している君を失ったら、生きてはいけないから。」
耳元で囁いた。“嘘ではないからな。”
「ええ、私も。だから、ルイス様と生きるために、大砲をぶっ放しているんですわ。」
“まあ、もう嘘ではないわよね。仕方ないけど、仕方なしで愛してるわけだしね。”
ルビコンの戦いでは、援軍の到着で結果として半月状になったアテナイ軍に左右から包囲されることになったものの、重厚な予備隊と移動が容易な砲を多数用意していたこと、さらには重い重砲も何とか持ってきたことが功を奏して、何とか守り切り、最後にはアテナイ軍を撤退させた。ガリアの戦いでは、精鋭騎兵隊により包囲されてしまったが、この時もまた重厚な予備隊と砲兵、そして、一旦撤退したが、何とか少数ながら砲兵も加えられていた騎兵隊が、敵騎兵の後方支援部隊から攻撃したことから、スパルタ軍を撤退に追い込んだ。何とか引き上げるまで、耐え抜いたと言う方が正確だったかもしれない。
トリポリ港、プサン港の防衛でも、急いで建設した砲台で何とか、許容できる損害の範囲内でとどめ、その後のサラミス海戦等で、コンゴウ、ヒエイ、キリシマ、ハルナ4隻の重フリーゲート艦での包囲中での正面突破などでの勝利(?)で、その後の補給を何とか維持させることに成功した。本当に勝利なのか疑わしいところでもある。実際、カルタゴをはじめ、相手となった国々は勝ち戦を主張しているし、共和国政府は、なんと何度もルイスの敗戦責任を問おうとした。また、これらの勝利は、将軍や幕僚の指揮、作戦、兵の奮戦の結果でもあり、彼の功績には疑問がだされている。だが、採用したのは彼であり、彼の陣頭指揮が士気を高めているのは否定出来なかった。
「とはいっても、ルイス様は不運ばかりなのよね、今回もそうだけど。」
夜になって、二人で肩を寄せ合っている中で、彼女は文句を言った。
「とにかく私と生き残りなさい。その後で、ご褒美をあ、げ、る、から。」
「楽しみにしているよ、これでは、絶対死ねないな。」
二人は、唇を重ねていた。
翌日、風向きはコリントス側に傾いた。いや、通常に、常にカルタゴ側に有利となる風向きになることがなくなっただけである。しかし、コリントス側はヤマトを中心に反撃に移り、コンゴウ以下4隻の重フリーゲート艦が快速と機動力を生かして、ヒットエンドランをかけながら、迂回して後方に回り込み攻撃をかけて混乱させる攻撃が出来るようになった。
「ここが山場よ!ここで耐えた方が勝ちよ!放てえー!」
自分でも弾を運んではルシアは大砲を撃った。
「王太子妃様に遅れをとるな!」
とばかりに、誰もが気力をふりしぼって砲撃を始めた。それが次第にムサシ、シナノに感染し、さらには艦隊全体に広がり、コリントス側が押し返し始めた。本当であれば、風向きが変わったところで、速やかにカルタゴ側は、撤収を開始すべきだった。相手に優勢な戦いを二日間演じたのであり、これ以上戦っても、得られるものはなかったからである。総司令官のロドネーは、そう考えていたので、その方向で艦隊を動かしていた。だが、前衛艦隊を指揮していたリーシュンが、遮二無二にコリントス艦隊、というよりもヤマトに向かって突進していったのである。それを見て、捨て置けなくなり、カルタゴ艦隊は、やや乱れるようにコリントス艦隊に挑むこととなってしまった。リーシュンは、優れた指揮官ではあったが、度々の海戦、港湾攻撃で華々しい勝利とまでは得られなかったこと、陸海連係作戦をたてて実行したものの、彼が育成した海兵は、上陸後、簡単に壊滅されたり、総崩れで逃げかえり、多数が捕虜になるという醜態を演じていた。彼はここで、華々しい勝利を得なければならないと、自分を追い込んでいた。
しかし、一気に蹴散らせるはずが、ヤマト、ムサシ、シナノの3戦列艦に阻まれ、攻めきれず、逆に押し返される状態になっていた。更に、コンゴウ以下4隻を中心とした別働隊に、本艦隊と分断気味にされてしまった。
「全く訳の分からない、奇妙奇天烈な名前をつけおって!悪魔を降臨させたか!悪魔の名だ!」
彼が狼狽したように叫んでいたと副官は、報告していた。これは、記録が残っている。
「悪魔の作った船を沈めろ!」
との叫びも記されている。それでも、彼の指揮は、冷静、沈着、適切だった、あくまでも戦闘継続を考え直さなかったものの。撤収する機会は二度あったが、彼はそうしなかった。このため、結果として不利な状況に彼の艦隊も、援護にきた艦隊も陥ることとなった。炎上する艦が続出し始めた。このままでは、もう全滅かとなり、ロドネーも全艦隊指揮の観点から、彼と彼の艦隊を見捨てた時、風向きが撤収に絶好なものになった。それをとらえ、絶妙なタイミングと動きで、危機を脱したのだった。ただし、彼はその時既に死んでおり、これを指揮していなかったとも言われている。これは度々彼に撤収を進言して、無視されていた副司令官が指揮したのだが、狙撃の銃弾を受けて倒れたリーシュンが、
「我が死を隠せ!」
と命じてから、これからすべきことを逐一命じたという話になっている。見事にタイミングをとらえた撤収も、彼の指示どおりしただけのこととなるのである。
死を隠せと命じたということからは事実かどうか、正規の報告にはないが、彼が砲弾ではなく、小銃弾により戦死したことは、報告書にも記されている。
コリントス側では、その銃弾は王太子ルイス或いは王太子妃ルシアが、放ったものだという伝説が生まれた。こちらは、王太子妃ルシアが、接近してきたリーシュンの旗艦を目にして、彼の姿を発見して、大砲を放とうとしたが、弾の装填に時間がかかっていたところ、小銃を持っていた兵士を見かけて、
「それを貸しなさい!」
と奪い取るようにして渡してもらい、
「目にもの見せてやるわよ!今までのお礼よ!」
と狙撃銃を放った。それが見事命中。その直後、王太子の放った銃弾も命中して、リーシュンはほとんど即死。後で、
「私の狙撃で死んでいましたわ!余計なことを。」
「そういってもだな…。」
と王太子夫妻の間で口論があった。一方、
「王太子妃の銃弾で死んだということは、隠しておいた方がよいな。」
と報告書を呼んだカルタゴの国防大臣の発言がいつの間にか、リーシュンが
「我が死を隠せ!」
と命じたことになったということになったという話が出来上がった。
この詳細に語られるコリントス側の話は、カルタゴ側の伝説より信憑性に欠けていた。
この海戦での敗戦、カルタゴ側は敗戦と考えていなかったが、その後カルタゴ側に和平の雰囲気が高まった。
ただし、カルタゴ側は和平交渉の相手を、コリントス共和国政府ではなく、王太子ルイスとしたのである。




