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婚約破棄から…てか婚約破棄されない。これでは、私のハッピーエンドは?え、道連れって?  作者: 安藤昌益


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猿芝居であるけれど

「そもそも、どうして、こんな猿芝居をしたのですの?それより、事前に言ってくれませんでしたの?」

 リオ・デ・グランデ川を北に下る護送船の中で、ルシアは着替えをすませると、まず文句を言い出した。とにかく急いで走らせた馬車も、護送用で乗り心地は、この上なく悪かった。出来るだけ快適にしようと、絨毯などを見えない所に敷いてはあるなど出来るだけのことをしてはいたもののである。それは、この護送船も同様だった。かなり大きなものを用意しまし、彼らのためだけに使用し、色々と載せ、彼らの使用人達も乗せてさえいるが、乗り心地は最低、最悪である。しかし、それでも、これだけされているということは、事前の準備があったということだ。

「猿芝居とは、どういうことだい?」

 ルイスは、側近達を下がらせて、好奇心いっぱいの表情で、彼女を見た。

「大体、国王陛下は、あれだけ怒った様子で、手枷足枷まではめても、ルイス様の王太子を廃することはしませんでしたわ。単に謹慎処分だけ、言い渡したのは。父の領地を没収をご命じになりましたけど、あそこは私に譲る予定の所ですわ。私を、まだ正式に結婚していないのに、妻だとおっしゃりましたわ、夫婦共々謹慎、という言い方で。しかも、父が毎日、陛下の元に拝謁出来るようにしておりましたわ。本当に、レムス王国の裏切りにお怒りになり、罰しようとされるなら、ルイス様は王太子を廃された上で辺境で謹慎処分、私は婚約破棄され、父も謹慎処分ですわ。」

“さあ、どうよ?”という顔で、彼に迫った。“美人なだけに迫力があるな。”“婚約破棄は、言って欲しかったですけど。”

「流石は、我が妻。王太子妃ルシア様に相応しいよ。」

 彼は、声をたてて笑った。満足そうな表情に、“合格だ!”という思いを読みとったルシアは、さらに苛立った。

「お嬢様…奥様。王太子様は、奥様のことを思っての…。」

 いつの間にか、後ろに足っていた彼女の侍女が、割って入った。ルイスは、彼女に黙るように、手で制した。“私から説明するから。”意を解した彼女は、頭を下げ、一歩退いた。

「レムス王国の裏切り行為に対する反対は、想定内ぎりぎりに激しかったんだ。中でも、ゴール公爵への非難は大きかった。親密な関係だったからね。同時に、その娘である王太子妃への非難も大きかった。アンダルシア公を中心にしてね。」

“私を取り返したい?”ルイスは、ルシアの顔を窺ってから、咳払いをして、

「ゴール公爵は、守旧派の巨魁と思われているが、他方、微温的ながら私や父の改革に協力していたから、守旧派内からの造反者もいるし、結果、改革派から守旧派まで、一体となって、君の父上や私達夫婦を激しく非難するようになったんだ。」

“夫婦にしないでよ!”

「だから、3人を罰する形にしたというわけですのね。でも、そんな猿芝居で誤魔化せますの?私との婚約を破棄した方が簡単で、効果があったのではありませんか?」

 ルイスは、ルシアがまた苛立つような余裕の笑顔を浮かべて、

「だから、君との離婚は論外だと、何度も言ったろう。それに、もう君は、もう立派な王太子妃なんだよ、国中公認の。」

“やめてよ!”

「猿芝居とは分かるのはたしかだろうけど、非難の輪の中にいる多数は、流れに同調しているだけだから、抜けるチャンスを狙っているから、効果はあるよ。それは、罰を与えた以上、更にというのは難しいということで。だから、効果がある。それから。」

 言葉を切って、詫びるような表情になって、ルイスは続けた。

「今回のやり方が決まったのは、二日前でね、君の父上までには伝えたが、色々な準備の手配に忙しくて、君に説明してられなかったんだよ。悪かったと思っているよ。」

“確かに、この三日、帰りが遅くて、あまり話しも出来なかったわね。”

「まあ、でも予想以上に君は上手くやってくれたよ。皆、唖然としつつも、毅然とした態度に、悲劇のヒロインを感じてくれたよ。ありがとう。」

 そう言って、自然な形で手を握ってきた。反射的にルシアは、笑顔を浮かべた。

「でもね、王太子を廃される可能性はあるんだよ。妹も、弟も、野心がでるかもしれない。姉上は難しいだろうが、分からないな。」

 二つ上で近隣の公国の大公に嫁入りした姉、もう直ぐ結婚が決まっている三つ下の妹、まだ学生の七つ下の弟がいる。関係はいいし、野心家ではない、少なくとも、そう言われている。しかし、周囲から吹き込まれるかもしれないし、野心を持つ可能性は否定でにない。

「そうなると、私達は辺境で一生を終えなければならないことになるよ。」

 さすがに、その可能性を思い浮かべると、少し緊張し、背筋に冷たいものを感じた。

「でも、君のことは絶対守るよ。」

と言って抱きしめられると、そのまま体を委ねてはしまった。

「あの姿を、じっくり見て、耳にして、嗅いだからね。」

 耳元での囁きに、

「何~の~こと~かし~ら~?私~に~は、分~か~りませんけ~ど。」

“忘れなければ、殺~す!”どす黒いオーラが広がり始めた。が、彼はそれには怯まず、

「だから、子供の君が夢見がちに語ってくれた、レムス王国の王様やアンダルシア公が君を助けてくれるということはないんだよ、もう、こうなってはね。」

「いい加減に子供の頃の妄想の話しは、やめても下さりませんか?」

 必死の抵抗で、何度も言ってきた言葉をまた口にした。

「あの時の君の表情を、忘れることはできないよ。でもね、僕は君を離さない。もう、道連れの運命なのさ。もし、僕が処刑台に行くとしたら、君もだよ。一人だけ逃れられないんだ。」

 彼は、彼女を抱きしめる力を強くした。もう逃がさないと言うように。彼女の脳裏にはイザベルの運命が自分に重なって見えた。力なく、彼に抱かれるままとなり、重ねられた唇に無抵抗に応じてしまっていた。

 その二人の姿は、目の前の侍女達にも、ドアの隙間から窺う側近達からも、“こんな時にも、お熱いことで。”と暖かい、呆れられた視線を向けられていた。


 

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