レムス国王は婚約した?
レムス王国大使夫妻とのお茶会は、予定通り、その日の午後から始まった。
“こいつが、あの方に、私が他人のものになっていることをチクるわけか。”
中年のレーダー伯爵とその夫人は、品のよさそうな、金髪の中肉中背の夫婦だった。
互いに社交上の挨拶をすませると、互いの席に着いて、侍女が注いだ紅茶をすすった。
「私の婚約者、ゴール公爵家ルシア嬢だよ。もう妻として、正式な結婚式を待つだけで、もう王太子妃だよ、色々な意味でね。」
「王太子様!」
ルイスの悪戯っぽい顔を、ルシアは睨みつけた。
「絵に描いたような、お似合いのご夫婦ですな。」
和やかに応じるレーダー大使に、
「レムス国王様も、ご婚約が正式に決まったそうだが、結婚式は何時になるのかな?」
“え!”
現レムス国王は、ルイスよりも二つ年上であり、6年前に即位している。本来ならば、幼い時から婚約者が決まっていて、遅くても即位直後に結婚式を挙げるのが普通だった。確かに、そういう婚約者はいたが、幼くしてなくなり、その後国際間の戦争があって、婚約者選定が難しくなったからである。国王、次期国王である王太子の妻は、外国の王族になる場合が多い。同盟関係もあり、国内に勢力地盤がないということが理由としてあるためだ。ルイスの祖父は、国王に即位する可能性がなかったため、国内の貴族の女性を妻とし、父である現国王も、婚約者選定時期には王太子→国王とは考えられなかったので、国内貴族の娘が婚約者として選ばれた。状況が変わったから婚約破棄を、彼はしなかった。彼の気持ちもあるが、そこには色々な事情もあった。しかし、結果として、その方が評判が良かった。それで、ルイスの婚約者がルシアとなったのである。レムス国王の場合は、国内貴族からとかという選択はなかったらしい。各国、特にコリントスは、かなり積極的に動いたが、それが進んでいるという話はなかった。
「これは、さすがにお耳の早い…。」
「重要な同盟国のことですからな。それに、リスボン公国公女イメリア嬢の件は、わが国も強く押していたことだからね。大変嬉しく思っている。」
リスボン公国は、コリントスと関係が深い公国であり、ルシアとも遠縁ではあるが、親戚である。何度か会ったことはある。彼女より一つ上で、小柄な、金髪の可愛い、大人しそうな女性だった。
「お美しく、品格があり、また、教養も豊かとか、我が国王にも良縁かと。近いうちに、正式な結婚式の予定が発表されるかと。」
「それは、喜ばしいことだ。貴国とは、どのようなことがあっても、友好関係を維持したいと考えているからね。」
レーダー大使は、海軍軍人を長く務めていたこともあってか、先のルイスの海戦での活躍に話題を移した。
“レムス国王は、私を拾う時には、妻はいなかったはず。ん?こいつがあの時婚約破棄していたら、どちらからも、その婚約の話はなかったことに、ってなっていたのでは?こいつ~、まさか、そこまで考えて!くそ~。”
大使夫人の言葉を幾つか聞き落として、肯いていたが、
「まあ、王太子妃様はご大胆なことを。お羨ましいですわ。仲がおよろしいこと。」
慈愛をこめて微笑まれていた。
“え?何?”当面は、高速の重フリーゲート艦の整備を進めてはという提案をしていたルイスと、しきりにそれに肯いていたレーダー大使が彼女の方を振り向いた。
「ははは…、嬉しいよ、ルシア。僕のことをそんなに愛してくれていて。」
笑いながらルイスが当惑しているルイスの肩を抱いて、自分に引き寄せた。
“なに、なに?私は何を言ったのよ?”
それから、微笑むレーダー大使に向かって、真顔になって、
「貴国への気持ちと同じだよ。100%は絶対無理だが、出来るだけ尊重するつもりだよ。我が妃に対しても、こんなに愛していても、100%ではないのだから。」
その言葉に、レーダー大使は真顔になり、
「ご好意、ありがとうございます。」
しばらく雑談が続いた後、大使夫妻は帰っていった。
“まさか、あの方にラブラフイチャイチャしていると伝えるわけ?”
「婚約はあなたの策略なの?」
その夜、二人きりになってから、ルシアは詰問するように、ルイスに尋ねた。
「は?ああ、レムス国王の婚約者の件か?あれはかなり前から、国王陛下と宰相のマゼラン達を中心にやっていたことさ。でも。」
「でも?」
彼女は続きを促した。
「僕が、レムス国王の裏切りを理由に、あの日一方的に君との婚約を破棄をしたら、状況は変わっていたかもしれないね。でもね。」
“何よ!”
「でも、何ですの?」
「レムスとの関係を、即切ることは、必ずしも良策とも言えないかもしれない。カルタゴとの和平も成立したことだしね。」
彼の理屈はルシアにも分かった。“どちらもありかも。”
「まあ、俺としては、君との婚約を破棄したくなかったからね、何度も言うように。あ、それから、アンダルシア公の婚約者も決まったよ。婚約破棄していたら、まとまらなかったかもしれないね、そちらも。」
“え~!そちらまで!”彼女は絶句した。
そのまま彼に手を引かれて、ベッドに導かれてしまった。“悔しい!また、やられた!”




