後宮
こうして東宮の後宮作りの第一歩が始まった。
陽の宮は、そのまま梅壺に住んでいる。
東宮の住まう梨壺からは離れているものの、幼いころから住み慣れた殿舎でもあり、妹宮もいることから、離れがたくお思いである。
そこに目をつけたのが牡丹宮。
娘のみなも姫の賜る殿舎を、梨壺に近い桐壺にして欲しいと帝と中宮に頼み込む。
「私がつかめなかった東宮妃としての幸せを、みなも姫にはつかませてあげたいの」
そう言われると、帝も中宮も弱い。
殿舎を桐壺にしてあげるくらい、たいしたことはなかろうと、みなも姫の殿舎を桐壺に定める。
「これきりですからね」
そうは言ったものの、不安はぬぐえない。
二人としても、すでに入内が決まった姫たち三人それぞれに、愛おしさを感じてしまうし、三人の両親も含めたそれぞれが大切な人である。
依怙贔屓するわけにもいかないし、しようにも比べられない。
「私は中宮一人で良かった」
帝が、溜め息まじりにぼやく。
「子供のために出来るだけのことをしてあげたいと考えてしまうのが親というものですわ」
中宮が、微笑む。
東宮と陽の宮は、最初で最後となる束の間の水入らずを満喫しているようである。
朝な夕なに仲むつまじく過ごす二人は、傍目にも微笑ましい。
もうすぐ二人目の女御、香君が入内してくる。
陽の宮とて不安がないわけではなかろう。
東宮を愛すれば愛するほど、誰かとその愛を分かちたいなどと思うわけがない。
けれども、東宮女御として後宮にある以上、東宮の愛をどれだけ多く注いでもらえるかは、ひとえに自分の手腕にかかっている。