2-1 Ren 超能力者特別支援事務局
第二話に突入します。この話から、皆の能力を事細かく説明していきます。
その部屋は、テレビ画面のようなモニターが壁一面に並んでいた。白衣を着た研究員らしき人々があちこちを歩き回り、計器を操作したり、パソコンと睨み合ったりしている。
「うわぁ……」
レンは、『それ』を見た瞬間、思わず声を上げてしまった。すぐにハッとなって口を塞ぐ。
横で小さく笑う声がした。恥ずかしくて、顔が真っ赤になった。
「あ、ごめん。でも、びっくりするのは無理ないって」
そう言って弁解するのは、イツキと同じシェアハウスに住む本条トウマさんだ。男の人にはちょっと珍しく、セミショートの金髪を後ろで一つに束ねている。イツキに聞いたのだが、金髪は染めているのではなく、地毛らしい。
レンは、ユウトに連れられて町の中心街にある建物に来ていた。
総務省特設機関超能力者特別支援事務局、南中央支部。
超能力者を管理し、彼らの生活などを支援する代わりに、彼らの能力を研究することで『超能力』とは何かを解明するために創られた国家機関。
イツキは、ここに所属しているユウトの世話になる代わりに、被験者として定期的にここに来ては研究の手伝いをしているのだそうだ。
「まぁ、手伝いっつーか、どんな能力を保持していて、どのくらいの危険度なのかを調べるだけなんだけどな」
ユウトがレンに説明をしているときに、横からイツキがそう言っていた。
レンは知らなかったのだが、超能力にはきちんとレベル分けがされているのだ。
まず、能力の種類によって物理的干渉系の『PK』と精神干渉系の『ESP』に分けられる。それを更に、危険度の高い順に第一級から第九級、そして無指定まで区分けされる。初めての人は、無指定から始まって様々な検査を受けることでレベルを決めるらしい。
そして、これからイツキの定期検査が行われるということで、レンはトウマと一緒にモニター室にやってきていた。キッカとヒカルは別の部屋で検査を受けており、ユウトは建物に入ってすぐに、別行動となっている。
一番大きなモニターにイツキが映し出された。イツキは身体中に吸盤のようなものを貼り付けている。それぞれの吸盤からはコードが伸びていて、後ろにある大きな機械に繋がっていた。
『これより、被験者ナンバー〇七五、五十嵐イツキの能力検査を開始します』
電話の番号案内のような、無機質な声が部屋に響く。
声と同時に、イツキの前に大きな運搬用のトラックが床から出てきた。それを見て、モニターの向こうで、イツキが笑う。
「うはっ。今回はまたでかいなぁ」
『五トントラックですので』
「へぇ。やっちゃっていいの?」
『問題ありません』
「あ、そ」
無機質なアナウンスに適当に相槌を打つと、イツキは右手を前に出した。
『検査、開始……』
グシャッ。
アナウンスの開始の合図が終わる前に、トラックはぺったんこになっていた。イツキは右手を元に戻すと、体中に張りついている吸盤を剥がし始める。
『……まだ、開始してません』
「データは取れただろ?」
アナウンスに対し、イツキは面倒くさそうに答える。声はしばらく黙っていたが、イツキがすべての吸盤を剥がし終わるころに『……検査を終了します』とアナウンスした。
「凄い……」
レンは息を呑んだ。自分も念動力は持っているが、あれほど強い力は出したことがない。
「ああして、上から物理的エネルギーの塊を落下させるってのが、イツキの十八番技なんだと。アイツは『不可視の隕石』って呼んでる」
横からトウマが説明を加える。だが、レンの耳にはその言葉はあまり入ってはいなかった。
レンの脳内で、何かがグルグルと巡っていた。頭が熱い。思考が一気に深いところまで沈んでいき、つい先程の映像を認識、さらに分析していく。知りえるはずの無い情報が自分の中を走り回り、イツキの能力に関する知識がどんどんと埋まっていく。
「……『空間』を操ることが、イツキの念動力?」
「お、レンちゃん、鋭いじゃん」
「え、あ、うん……」
トウマの褒め言葉に、レンはあいまいに頷く。既に思考は元通りになっていた。
(なんだったんだろう、今の……)
あれも超能力の一つなのだろうか。まだ、レンは自分の『能力』をすべて把握できていないのかもしれない。
しばらくして、イツキが仏頂面でモニター室に入ってきた。しかし、レンが駆け寄ると、それまで無表情だった顔に、小さな笑みがこぼれた。
「お、レン。見てたか?」
「うん。凄かった」
「そっか。……あ、トウマ、次お前だと」
「おぅ、了解」
イツキに言われて、今度はトウマがモニター室を出る。すると、入れ違いにヒカルがモニター室に入ってきた。
「ヒカル、もう終わったのか?」
「うん。結果は上々。『瞬間移動』も『座標移動』も前より精度が上がってるって。……いっちゃんは?」
「こっちは五トントラックを潰してきたとこだ」
「さすが、相変わらず桁違いの威力ね……」
結果を聞いたヒカルの顔が、軽く引きつっていた。それに対し、イツキは軽い表情で楽勝だったと付け足した。ヒカルは小さく肩を竦める。
「今更ながら、いっちゃんがテロ組織に入らなくて良かったと思えるわ……」
それには、レンも頷けた。イツキほどの能力者がレンを追っていた黒ずくめのような輩に肩入れすれば、日本の治安などあっという間に均衡を崩すに違いなかった。
すると、イツキは面白そうに笑った。
「お前にもそれは言えるだろ、第ニ級瞬間移動能力者さん」
「え、ヒカルさん、そんなにすごいの?」
イツキの言葉に、レンは驚いた。すると、ヒカルは少し照れて顔を赤くしていた。
「ま、まぁね。ってか、いっちゃんの念動力は第一級なのよ」
「そうなの?」
レンがイツキに尋ねると、イツキはうーん。と小さく唸った。
「念動力だけならな」
「え?」
「いっちゃん、遠隔念動力は違うの?」
「スケボーにしか使えないから、そっちは四級なんだ。だから、総合評価は第三級なんだよ」
その言葉を聞いて、レンは昨日のことを思い出す。そういえば、遠隔念動力はスケボーにしか適用できない。とイツキ自身が言っていた。
ヒカルはそのことは知らなかったようだ。気まずそうにイツキを見ている。
「……ごめん。知らなかった……」
「いや、俺も言ってなかったし。……それより、始まりそうだぜ」
イツキは頬を掻きながら、モニターに視線を移した。レンとヒカルもそれに続く。
モニターに、新しい画像が映し出された。
「……なに、あれ……?」
レンは、自分の目を疑った。
モニターに映し出されたのは、トウマだった。ただし、トウマの置かれている状況が、異常だった。
トウマは、金属製の分厚い板に全身を拘束されていた。かろうじて目の部分だけが見える程度の空間しか空いておらず、他は何重にも強固に板に留められている。拘束具も金属製だった。
「これが、検査なの……?」
レンには、目の前の光景が、『検査』には到底見えなかった。これでは、『拷問』といった方が近い気がしてならない。確か、トウマは発火能力者だったはずだ。しかし、その能力検査にこれほどのことをする必要があるのか、疑問が残る。
先ほどまで優しく接してくれたトウマの余りの代わり様に、レンはいつの間にか拳を強く握っていた。
「それだけ、トウマの『力』は危険なんだよ」
レンの隣で、イツキは苦虫を噛み潰すような表情をしていた。
「アイツは、ここが抱えている能力者の中で、一番強い能力者なんだ」
「発火能力って、そんなに怖い能力なの?」
「違うの、レンちゃん」
「違う?」
ヒカルがレンたちの会話に割り込んだ。レンは一度は落ち着いた声のヒカルに冷たい視線を投げるが、ヒカルが爪が食い込むほどに腕を握っていたのを見て、直ぐに考えを改めた。トウマとヒカルは従兄弟だと聞いている。この中で一番辛いのは、ヒカルなのだ。
「違うって、どういうこと?」
「トウマくんは確か発火能力者でも、あるけど、そっちはサブ能力に過ぎないの。彼の本当の能力。それが危険なのよ」
「……その能力って、何?」
レンの問にヒカルが答える前に、あの無機質なアナウンスがモニター室に響き渡った。
『これより、被験者ナンバー〇六八、特級能力者、本条トウマの能力検査を行います』
最も危険とされるトウマの『真の能力』とは一体!?
次回はヒカル視点を予定してます。




