1-5 Hikaru 謎の能力
第一話がこれにて終了です。
イツキは、よく変なことに首を突っ込む。
駅前の地下街を縄張りにしていた不良グループの抗争に介入して、全員を更正させたり、浮浪者と仲良くなって彼の社会復帰に一役買ったり、イツキはそういった問題にいちいち首を突っ込んでは、たちまち解決してしまうのだ。
故に、彼の家族の一人――音無ヒカルは常に心配ばかりしている。
イツキは悩みを抱えている人間を瞬時に見分ける不思議な特技を持っている。そして、そうやって見分けた人々をなにがなんでも助けようとする優しさを持ち合わせていた。
優しいのは一向に構わない。だが、彼はそれ故に自分の危険を顧みることを決してしない。ヒカルはそれが心配だったのだ。
そして今日、彼女の心配は現実となった。
銃器を持った人たちに追われていた女の子を助けた。という、あまりにも非日常的な展開。
その上、助けた女の子――小檜山レンは、超能力者だと言うのだ。
◆
「……で、それで全部か?」
リビングでソファに腰掛けながらイツキに質問しているのは、この家の主、篠山ユウトだ。端正な顔立ちで、黒のスーツがよく似合う。
「あぁ。そうだ」
「黒ずくめの正体は?」
「いきなり銃を突きつけてきたんだぞ。分かるわけないって」
ユウトはイツキやヒカルよりも十歳上だが、イツキはまるで同い年のようにユウトと話している。尤も、この家の住人は、誰も彼に敬語を使わないのだが。
リビングには、家の住人が全員集合していた。ヒカルとその従兄である本条トウマは、食卓に座ってイツキたちを見ており、ユウトの親戚に当たる篠山キッカは、キッチンで晩御飯の準備をしながら、イツキたちの話を聞いている。
ユウトはイツキと話し終えると、今度はイツキの隣に座るレンに視線を移した。
視線に怯えたのか、レンはビクンと体を震わせ、イツキの腕にギュッとしがみつく。それを見て、ヒカルは何故かムッとした。
(……なんか、ムカつく)
「レン、ユウトは悪い奴じゃないぞ」
イツキは怯えるレンに優しく話しかけるが、レンはユウトに対して警戒心を解こうとはしなかった。目深に被っているのっぽさんのような白い帽子の奥から、ユウトをじっと睨んでいる。
それを見て、ユウトは苦笑いをこぼした。
「嫌われたかな、オレ」
レンは少しの間、ユウトをじっと見つめていた。それから、ゆっくりとユウトの隣に座ると、彼の頬を触る。ユウトは何も言わずに、レンをじっと見つめた。
しばらくして、レンがユウトから手を離し、小さくお辞儀をした。
「……小檜山、レンです」
「ん。オレは篠山ユウト。よろしくね、レンちゃん」
その光景を見て、ヒカルは彼女の能力について、一つの確信を持った。
(この子、精神感応能力者か……)
精神感応。
何かに触れることで触れた物体そのものや人物が経験したこと、感じていることを知る能力。おそらく、ユウトの“感情”を読み取ったのだろう。そして、彼に敵意が無いことを確認した。
「あら、私と同じ能力なのね、その子」
そう言いながらユウトの後ろに立ったのは、可愛らしいヒヨコのプリントの入ったエプロンをつけたキッカだ。
その手には、ピザや大皿に盛られたトマトのリゾットが乗っている。美味しそうな匂い。キッカの料理は本場仕込の天下一品だ。
「とりあえず、食べながら話さない? その方がリラックスして話せるもの」
キッカちゃんは料理をいっちゃんとユウトくんの間にあるテーブルの上に並べていく。
「ヒカル。他の料理、持ってきてくれる?」
「あ、うん」
キッカに言われ、ヒカルは頭の中に三次元の立体映像を描き出した。
キッチンの料理や取り皿の位置を空間座標で指定して、さらに、そこからテーブルの座標を指定する。
(飛べ……!)
そう念じると、ユウトたちの目の前に、取り皿や他の料理が現れた。
これが、ヒカルの持つ能力の一つ、座標移動だ。平たく言えば、物体転送。ヒカルのもう一つの能力である瞬間移動の発展型で、瞬間移動が『私自身もしくは私が触れているものを別の地点に移動させる』のならば、これは『座標Aにある物体を座標Bに移動させる』能力だ。
「よしっ、じゃあ食おうぜ!」
料理がそろったのを確認して、イツキの隣に戻ったレンの隣にトウマがドカッと豪快に床に座り、皆を見回した。音に驚いたのか、レンが再びイツキにしがみつく。
「あ、ごめんよレンちゃん。俺は本条トウマ。ちなみに能力は発火能力な」
トウマが豪快に笑いながら、レンに微笑みかける。レンはしばらくトウマをじっと見ていたが、またユウトと同じようにトウマの頬に触れ、イツキにしがみつく手を緩めた。
それを見計らって、キッカがユウトの隣に座り、ヒカルもトウマの向かい側にキノコ型の椅子を『座標移動』させて座った。
「よしっ、そんじゃ、食べるとしますか!」
トウマの元気な声で、私たちは食事を開始した。
◆
「なるほど、君が能力を開花させたのはつい最近なんだね?」
「はい」
ユウトの言葉に、レンは静かに頷く。
ヒカルたちは食事をしながら話の続きをしていた。聞くと、レンは自身の能力に気づいて間もなく、黒ずくめの集団に狙われたらしい。
「そいつらの目的とかは聞かなかったのかい?」
「えっと、よく、覚えてないんですけど……『世界を我が手に』とかって言ってました……」
「……世界を我が手に?」
「はい。その為に、私の『力』が必要だと……」
レンの言葉に、ユウトは小さく唸った。
超能力を悪用しようとする輩は少なくない。この間も、ヤクザの抗争に超能力者が介入して被害が大規模になってしまった事件が起きている。
超能力者の『力』というのは、それだけ危険なのだ。
ユウトが話を再開した。
「他には何か言ってなかったかい?」
「あ、えと、私の能力について、よく分からないことを……」
「分からないこと?」
そこで、皆が頭にクエスチョンマークを浮かべた。レンの能力は、さっき見せた精神感応だけではないというのか。
そこで、イツキが思い出したようにレン尋ねた。
「そういえば、公園で使ってた能力って何なんだ?」
「あ、あれは、『拒絶する霧』っていう催眠能力の応用で、霧の範囲内にいる人の五感を自分の支配下に置いて、自分が許可しないものを拒絶する能力……って、あいつらが言ってた」
それを聞いて、ユウトが会話に割り込んだ。
「奴らは君の能力を知っていたのかい?」
「はい。私が自分の能力を知る前から、私が能力者だって分かっていたみたいです」
「君が能力を開花させる前から?」
「はい。それで、『やっと見つけた』って……」
「やっと見つけた?」
ユウトの言葉に、レンはゆっくりと頷いた。そして、少し自信無さげに、思い出すように言葉を続けた。
「『やっと見つけた。『禁書目録』の後継者……』」
ガタンッ!
突然、ユウトがテーブルを強く叩いた。そこにいる全員が、いつも冷静で物静かなユウトの行動に驚きを隠せないでいる。
しかし、ユウトはそんなことなどお構い無しに、ブツブツと独り言を始めた。
「禁書……能力……お……」
皆、ユウトが次の言葉を発するまで、静かに彼を待ち続けた。
しばらくして、ユウトがキッカに話しかける。
「キッカ。明日は確か、定期検査の日だったよな?」
「え、そ、そうだけど……?」
「レンちゃん、君も一緒に来てくれ」
「え、は、はい……」
「ちょ、待てよ、ユウト。ちゃんと話してくれねぇと、何がなんだかワケが分かんねぇよ」
いきなり話を進めるユウトを、トウマが静止する。ユウトは、少し言葉を濁す。
「いや、その、あれだ。レンちゃんのことを支部長に言わないと、あれだ。ここに置くことができないからな……」
「それだけか?」
今度は、イツキがユウトに尋ねる。ユウトが言葉を詰まらせた。嘘が下手なくせに、無理してついているのが見え見えだ。
そこへ、キッカが更に畳み掛けた。
「ユウトくん。私には絶対に嘘がつけないの、知ってるでしょう?」
キッカの手が、ユウトに迫る。心を読む精神感応能力者による、脅しという名の尋問に、ついにユウトは観念した。
「レンちゃんが本当に『禁書目録』の能力者か、確かめる必要があるんだ……」
「何なの、その『禁書目録』って」
ヒカルの問に、ユウトはしばらく黙り、やがてゆっくりと絞り出すように答えた。
「『禁書目録』。すべての超能力を有する、超能力者の中の超能力者だ……」
次回から第二話です。
果たして、レンの能力とは?
そして、黒ずくめの正体は?
乞うご期待です(・o・)ノ




