第23章 結界
異変が起きたのは、生徒会役員選挙が終わった直後だった。
チャイムが鳴り、生徒たちはばらばらと体育館を出始める。
「あれ?」
「なんだこれ?」
出口付近から声が上がった。
何人かの生徒が不思議そうに立ち止まっている。
「体育館から出られないんだけど。」
最初は冗談かと思った。
だが、次第に同じような声があちこちから聞こえてくる。
「俺もだ。」
「なんで?」
奨も出口へ向かった。
「……?」
見えない何かに押し返され、よろめいた。
もう一度手を伸ばす。
何もない。
だが、確かにそこに壁がある。
「なんだよ、これ。」
勢いをつけて突っ込む。
だが、結果は同じだった。
体がはじき返される。
「渕上、お前もか。」
振り向くと、大口真吾がいた。
景吾や小塚、隠神らも集まってくる。
その一方で、普通に出口を通り抜ける生徒もいた。
「お前ら何やってんだ?」
「いや、出られないんだよ。」
「何言ってるんだ?」
そのとき、小塚が扉の上の方を見つめて小さく舌打ちした。
「おい、あれ。」
その声で、真吾も見上げる。
「なるほどな、結界か。」
奨は2人を見た。
「結界?」
小塚は苦々しく笑う。
「どうやら俺たちだけ閉じ込められたらしい。」
「俺たち?」
景吾が冷静に答えた。
「妖怪の血を引く者だけを、だ。」
真吾は体育館内の生徒たちを振り返って叫んだ。
「みんな、落ち着いて出口から離れるんだ。」
奨はすぐ隣にいた河田に囁いた。
「河田さん、これって……?」
「……来やがったか。」
「え?」
「あの野郎だ。」
「まさか。」
「ああ。井上礼二郎だ。」
体育館の入り口外から、生徒たちをかき分けるように一人の男が近づいてきた。
長髪で、黒いスーツの男。
「井上!」
河田が叫んだ。
井上は体育館の外の生徒たちを振り返ると、冷たく言い放つ。
「君たちにはここは危険です。離れたほうがいい。」
井上の背後から、人影が現れた。
眉を顰め、険しい顔で近づいてくる。
「安倍先生だ。」
奨が、河田に囁いた。
奨は以前から、担任の安倍先生が井上とつながっているのではないかと疑っていた。
安倍先生は井上の方を向いた。
「誰なんですか、あなた。」
井上は静かに答えた。
「私は陰陽師です。」
「は?」
「これから、妖怪退治を行ないます。」
「あんた、何を言っているんだ。」
周りの生徒たちがざわついた。
「仲間じゃないのか?」
「どうやら、そのようだな。」
安倍先生が呆れたように首を振った。
「ふざけている場合じゃ……。」
「悪いが、しばらく静かにしていてください。」
「なに?」
安倍先生が言い返そうとした瞬間。
井上の指が素早く印を結ぶ。
低い声で呪文が唱えられた。
次の瞬間。
安倍先生の体から力が抜ける。
「な……。」
そのまま崩れ落ちた。
「心配はいりません。」
井上は倒れた教師を見て、穏やかな口調で言った。
「少し眠っていただくだけです。」
そして、周りの生徒たちを見回した。
「あなたたちも、もう少し離れていた方がいい。」
生徒たちは後ずさりし、井上から距離を取り始めた。
井上は、体育館の中をじっと見つめた。
真吾は拳を握り、小塚は舌打ちをする。
涼子が青ざめている。
奨は黙って、井上を見つめていた。
井上は懐から白い呪符を取り出した。
「さて……。」
指先で印を結ぶと、呪符が青白く輝いた。
「始めましょう。」
井上が数枚の呪符を放つ。
紙片は宙で舞い上がり、
鳥となり、
獣となり、
人影となった。
次々と現れた式神が、一斉に体育館へ飛び込んだ。
その瞬間。
生徒たちの悲鳴が響き渡った。
【次回予告】
「第24章 式神」
体育館へなだれ込む、無数の式神。
妖怪たちは、それぞれの力で応戦する。
だが、切っても、凍らせても、式神は何度でも蘇る。
「ここも、いつまで持つかな……。」
追い詰められた妖怪たちの、絶望の籠城戦が始まる。




