↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖怪たちの黄昏-森と人間のあいだで―  作者: 智沢蛸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/27

第18章 狼

ある日の昼休みだった。

1年生の教室に、ざわめきが広がった。


「あ、生徒会長。」

「なんで1年の教室に?」


教室の入り口に立っていたのは、3年生の生徒会長・大口(おおくち)真吾(しんご)だった。

長身。

鋭い目つき。

制服を着崩しているわけでもないのに、妙な威圧感がある。

その姿を見ただけで、教室の空気が少し変わる。

騒いでいた生徒たちも、自然と声を潜めていた。


大口は、教室の中をゆっくり見渡す。

そして、まっすぐ奨(しょう)を見た。


「渕上(ふちがみ)奨。」


教室の空気が、さらに張り詰める。


「……はい。」

「ちょっといいかな。」


有無を言わせない口調だった。

奨は周囲の視線を感じながら立ち上がった。

後ろの席では、涼子(りょうこ)が不安そうな顔をしていた。


「奨……。」


小さな声が聞こえたが、奨は振り返らなかった。



大口は奨を、生徒玄関の脇の人気のない場所まで連れていった。

秋めいた風が、木々を揺らしている。


しばらく、大口は何も言わなかった。

ただ、奨をじっと見ている。

やがて、大口が口を開く。


「お前、最近妖怪を探してるんだって?」


奨の肩がわずかに強張った。


「誰から聞きました?」

「みんなからだよ。」


大口は平然と言った。


「噂になるには十分派手に動いてる。」


奨は思わず口をつぐんだ。

確かに、最近の自分は目立ちすぎていたのかもしれない。


「お前、八百(やお)比丘尼(びくに)の曾孫なんだってな。」

「知ってたんですか。」

「まあな。」


大口は続けた。


「八百比丘尼が、伝説の人魚なのは確かだ。」


そこで、一度言葉を切る。


「だが、それだけで妖怪の世界を知った気になるな。」


奨は眉をひそめた。


「何が言いたいんですか。」


大口は、ゆっくり笑った。


「俺は、大口真神(おおくちのまかみ)の末裔だ。」

「大口真神……。」

「御嶽(みたけ)神社の祭神だよ。」


大口は当然のように言った。


「山を守る狼の神――って言えば、わかりやすいか。」


その瞬間、大口の目が一瞬獣のように鋭く光った気がした。


「奥多摩の山は、もともと俺たちの縄張りなんだ。」


静かな声だった。

だが、人間ではない何かが喋っているような迫力があった。


「だから、お前みたいな奴が、軽々しく首を突っ込むな。」


大口は、一歩近づいた。


「妖怪ってのはな、仲良く手を取り合って生きてるわけじゃない。

縄張りもある。力関係もある。知らなくていいこともある。」


そして、声を落とした。


「これ以上、調子に乗ると痛い目を見るぞ。」


奨は何も言い返せなかった。

しばらくして、大口はふっと表情を緩めた。


「まあ、俺の言う通りにしていれば何も問題ない。」


そう言うと、思い出したように付け加える。


「そうだ。2年の小塚(こづか)には気をつけろ。」

「小塚さん?」

「あいつはキツネだ。」


大口は、露骨に嫌そうな顔をした。


「あまり信用するな。」


そう言い残すと、大口は背を向けた。

去っていく背中は、山の獣のようだった。

【次回予告】

「第19章 狐と狸」


「……どういうことだ?」


終わらない廊下。

繰り返される景色。

それは、狐が仕掛けた小さな悪戯だった。

狼に続き現れた狐。

そして、それをたしなめる狸。


妖怪たちの世界は、まだまだ奥が深い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。