第16章 仲間探し
第16章 仲間探し
奨は、八百の言葉を思い出していた。
――妖怪なんてどこにでもいるわ。
また、柳瀬の講演会のときのことも思い出した。
体育館。
ざわめく生徒たち。
その中に混じっていた、不自然な反応。
柳瀬が「妖怪」という言葉を口にした瞬間、
明らかに空気が変わった。
顔をこわばらせた者。
露骨に目を逸らした者。
逆に、妙に興味深そうに笑っていた者。
あれは偶然ではない。
人間のふりをして、学校で普通に暮らしている妖怪たちが、案外すぐ近くにいるはずだ。
奨は、探してみようと思った。
真っ先に頭に浮かんだのは、2年生の土田正人だった。
八百が、ぽつりと言っていた言葉を思い出す。
――純血は……土蜘蛛の土田さんぐらいじゃないかな。
その土田さんの息子だ。
昼休み。
廊下ですれ違った土田は、いつも通り無愛想だった。
昼食の焼きそばパンを片手に、友人たちとだらだら喋っている。
見た目はどこにでもいる男子高校生だ。
本当に妖怪なのだろうか。
自分だって、見た目だけなら普通の高校生なのに。
放課後。
校舎裏の自販機の前で、奨は土田を呼び止めた。
「土田さん。」
土田はスポーツドリンクを飲みながら、面倒くさそうに振り返った。
「どうしたんだ、奨。」
奨は少し迷った。
だが、ここまで来て引き返す気にはなれなかった。
「土田さんって……妖怪なんですよね?」
土田は、一瞬だけ動きを止めた。
「は?」
だが、確かに空気が変わった。
土田は奨から目を逸らした。
「そんなわけねえだろ。」
奨は真剣な表情で答える。
「俺も、そうなんです。」
土田は深くため息をついた。
「だったら、どうなんだ。」
「どうなんだって……。」
奨は言葉に詰まった。
自分でも、何を期待していたのかわからない。
仲間。
秘密。
それとも――。
「俺の親父は純血だけど、母親は普通の人間だ。だから俺の代になると、もう半分人間みたいなもんだよ。」
「……それでも、妖怪の力は残っているんですよね。」
土田はしばらく黙っていた。
「力なんて、別に大したもんじゃねえよ。」
そう言って、自販機の脇にしゃがみ込む。
「ガキの頃、ケンカするとさ。」
土田は、ぽつりと言った。
「たまに糸みたいなのが勝手に出ることがあった。」
「糸?」
「白くてベタベタしたやつ。」
奨は思わず土田の指先を見た。
「親父には、“絶対人前で出すな”って殴られたよ。」
土田は笑った。
だが、その笑いは少し寂しそうだった。
「妖怪なんて、今の時代じゃ気味悪がられるだけだ。
俺はもう普通に生きてんだよ。」
土田は、奨に背を向けると、校門の方へ歩き出した。
「だから……放っといてくれよ。」
夕焼けに伸びる影だけが、長く地面に残っていた。
奨は何も言えなかった。
【次回予告】
「第17章 山彦と鎌鼬」
「普通に生きてるんだったら、それでいいじゃん。」
妖怪の末裔を探し続ける奨。
彼が出会ったのは、山彦の血を引く少年と、鎌鼬の血を受け継ぐ少女。
だが二人にとって、その力は誇りではなく、隠して生きるための秘密だった。
妖怪にも、それぞれの青春がある。




