一ノ瀬さんから朱莉へ
第4話スターーート
4時間目が終わると、教室にはランチの美味しそうな匂いと、配られた牛乳パックが並ぶ。
私は昔からどうにも食べるのが遅くて、お昼休みはいつもギリギリ……というか、完全に昼休みに食い込んでいた。周りの席がどんどんごちそうさまをして、楽しそうな昼休みの声が響く中、私の前にはまだランチがしっかり残っている。
「ちょっと朱莉、食べるの遅いってばー! 早く食べなよ!」
前の席の美緒が、自分の食器を片付けながら振り返って言う。
「う、うん……分かっているんだけど……」
焦れば焦るほどお箸が空回りする。美緒は「もう、急いでね!」と言い残して、そのままクラスの他の友達のところへ行ってしまった。
私は一人で黙々とランチと格闘する。
すると、とっくに食べ終えて暇そうにしていた隣の瀬戸君が、身を乗り出して私の机をコンコンと叩いた。
「ほら一ノ瀬さん、早く。昼休み終わっちゃうよ」
「う……頑張って噛んでるの!」
「噛んでる割には全然減ってないじゃん。ほら、次それ口に入れな」
「もう、瀬戸君まで急かさないでよ……」
瀬戸君は呆れたようにクスッと笑いながらも、じっと私の手元を見ている。
と、彼が私のお皿の隅っこを指差した。
「……てか一ノ瀬さん、これ何? もしかしてキノコ残そうとしてる?」
「あ、いや……これは、最後に食べようと思って……」
「嘘つけ、完全に避けてんじゃん(笑)。ほら、嫌いなもん残してないで早く食べなよ」
「うう、だって本当に無理んだもん! 食感も見た目も全部無理!」
私が本気で嫌がって瀬戸君に抵抗していると、近くを通りかかったクラスメイトたちが、「あ、朱莉まだ食べてるー」と笑顔でトコトコ集まってきた。
「何、キノコ苦手なの? がんばれー!」
「ほら朱莉、早く食べちゃいなよー! 昼休み終わって5時間目始まっちゃうぞ」
「ちょっとみんなして急かさないでよー!」
瀬戸君だけでなく、他のクラスメイトたちもニコニコしながら「ほら、一口!」「がんばれ!」と応援(?)してきて、私の机の周りは一気に賑やかになってしまう。
「ほら、みんなも応援してくれてるぞ。はいはい、目瞑って一気にいきな」
瀬戸君はみんなのノリに便乗して楽しそうにニヤニヤしながら、さらに優しく急かしてくる。
観念してキノコを口に放り込み、涙目でモグモグと動かす私を見て、瀬戸君やクラスメイトたちは「おー、えらいえらい!(笑)」と拍手してくれた。
そのまま残りの牛乳も一気に飲み干し、ついに器はピカピカに。みんなが「おめでとー!」と笑いながらそれぞれの席に戻っていく。
「んーーーーっ!!」
張り詰めていた緊張が一気に解けて、私は椅子の背もたれに体重を預け、両腕を天井に向けてぐーっと大きく伸びをした。
完全にやりきった脱力感で、お腹はいっぱいだし、なんだかすごく眠い。
「……朱莉、頑張ったな」
「え?」
隣から、いつもより少し低い、優しい声が聞こえた。
驚いて腕を下ろし、隣を向く。
瀬戸君は椅子の背もたれに肘をかけ、顎を乗せた姿勢のまま、じっと私を見つめていた。
いつもは「一ノ瀬さん」って呼ぶのに。美緒が呼ぶみたいに、あだ名でも苗字でもなく、私の名前を呼んで、ふっと柔らかく笑った。
「ぁ……う、うん。ありがと……」
急に名前で呼ばれた衝撃と、頭をぽんぽんとされたような優しい言葉の響きに、さっきまであんなに賑やかだった教室の音が、一瞬で遠ざかっていく。
ドクン、と心臓の奥が跳ねて、顔がじわじわと熱くなっていくのが分かった。
「ほら、食器片付けに行くぞ」
瀬戸君はいつも通りの調子に戻って立ち上がり、自分の食器を持って歩き出す。その後ろ姿を見上げながら、私は胸のトクトクという高鳴りを必死に抑えようとしていた。
(待って……なんで今、名前……?)
「朱莉、頑張ったな」という彼の声が耳の奥で何度も再生されて、私は自分のランチの器を抱えたまま、しばらくその場から動けなくなってしまった。
実はこの話自分の実話を混ぜてるんです




