どんどん縮まる距離
第三話とつにゅーー
クラス替えから一ヶ月が経った。
新学期の緊張もすっかり解けて、私と隣の瀬戸君は、毎日当たり前のように言葉を交わすようになっていた。
前の席の美緒が「朱莉ー!」と全力で振り返って喋りかけてくるおかげで、自然と3人で話す時間が長くなる。
瀬戸君は、話してみると本当に面白い人だった。
遠くから見ていた時はクールなのかなと思っていたけれど、言葉のテンポが良くて、私がちょっとしたミスをするたびに、すかさずクスッと笑えるツッコミを入れてくる。
「あ、間違えた」
「一ノ瀬さん、そこボールペンで書くとこじゃないでしょ。修正テープ使う?」
「うん、貸して……。あ、ありがとう」
「はい。一ノ瀬さんって、たまにこういう細かいところで抜けてるよね」
「う……ただの押し間違いだし」
そんな、本当にちょっとしたやり取り。
プリントを配る時に1枚多く回してしまったり、消しゴムを机の端に置き忘れて落としそうになったり。そんな私の小さな隙を、瀬戸君は見逃さずに拾ってくれる。
めんどくさがり屋な口調のくせに、私がノートを書き写すのが遅れていると、さりげなく自分のノートが見えやすいように位置をずらしてくれたりもする。
ある日の休み時間、美緒が他の席の友達のところへ行って不在のとき。
私は授業の予習をしようとして、教科書のページが上手く開けずにパタパタと指を滑らせていた。
「貸してみ」
隣からすっと手が伸びてきて、瀬戸君が私の教科書を引き寄せた。
彼が器用に目的のページをパッと開いて、私の前に戻してくれる。
「ほら。一ノ瀬さん、手際悪すぎ(笑)」
「悪くないよ、ページがくっついてただけだもん」
いつも通りの言い訳を返しながら、教科書を受け取る。その時、瀬戸君の指先がほんの少しだけ触れた。
その瞬間、なんだか胸の奥がそわそわして、妙に落ち着かない気分になった。
(な、なんか今、変な感じがしたような……。気のせい、気のせい。瀬戸君にペースを乱されてるだけ)
これが恋の始まりだなんて、この時の私はこれっぽっちも気づいていなかった。
そんなある日の放課後。
めずらしく美緒が先に帰ってしまい、私と瀬戸君は2人で帰りの支度をしていた。
「あ、引っかかった……」
カバンのチャックを閉めようとした時、内側の生地を少しだけ噛んでしまった。
無理に引っ張ろうとする私を見て、瀬戸君が「あー、待って、そのまま引くと破れる」と言いながら、手元にすっと手を伸ばしてきた。
「ちょっと貸して。……ほら、こうやって斜めに引けば取れるから」
いつもより少しだけ近い距離。カバンを直す彼の綺麗な横顔が間近に見えて、私は思わず小さく息を呑む。
「はい、どうぞ」
「あ……ありがと、瀬戸君……」
直してもらったカバンを受け取る。
その瞬間、心臓の奥がトクンと妙に大きく跳ねた。
「じゃ、俺、部活行くから。また明日な、一ノ瀬さん」
「うん、また明日……」
手を振りながら教室を出ていく瀬戸君の後ろ姿を、私はしばらくぽかんと見送っていた。
(……何だろ、今の)
胸の奥のそわそわが、彼がいなくなった教室でもまだ消えない。
恋の自覚なんて、まだまだずっと先。だけど、毎日並ぶ半径50センチの距離は、静かに、だけど確実に私の日常を侵食し始めていた。
どうでしたか書いてる私がキュンキュンしちゃう




