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養子のオーク  作者: 猫殿
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9. デビュタント


 「ロウサ、後ろのジッパー上げてくれる?」

 「はーい」


 柔らかな生地のドレスで着飾るジーナを手伝う。


 「この格好でいざという時大丈夫なの?」

 「余裕余裕!」


 髪の色に合わせた赤いドレスがジーナの足の動きに合わせてブワリと舞う。中にちゃんと薄く短いズボンのようなものを履いてはいるが、それでも際どいことに変わりはない。


 私は片眉を上げる仕草でジーナを見つめた。彼女も同じような表情でニヤリと笑い返してくる。実に自分の見せ方を熟知している。私はジーナのそう言うところも好きだ。


 準備を済ませ、私とジーナは広間へと歩く。


 今日は第一王女のデビュタント。騎士団の人間も一応ゲストとして招かれてはいるが、実際はパーティー中の警備をすることが私たちの仕事だ。


 私は動きやすいようにパンツスーツに身を包んでいる。伸び縮みする生地なので激しく動いても破けることはないだろう。


 「ロウサもドレスにすれば良かったのに」

 「似合わないから」

 「そう?」


 不服そうなジーナだが、彼女は自分の意見を押し付けては来なかった。



******



 第一王女のデビュタントは恙なく始まった。王女を挟むように王と王妃が立ち、広間の2階から姿を見せる。挨拶が終われば王女も下に降りてきて踊り始めるのだろう。


 私とジーナは目配せをし、それぞれパーティーの参加者の中に混ざる。ジーナは招待客として不審者がいないかこっそり探り、私に至ってはその場にいるだけである程度の抑止力になるので方々に目を光らせた。


 ドレスやスーツで煌びやかに着飾った人々の視線が私に集まるのをひしひしと感じる。だがそちらを見ることはしない。無駄に怖がらせてしまうだけだから。


 何事も無く時間が経ち、そろそろパーティーも終わりかと思っていた時、ロウサ、と声をかけられた。


 「コーニッシュ殿……」


 振り向いた先で高級そうなスーツを身に纏っているのはカイだ。またか、と私はため息を漏らしたいのをグッと堪えた。


 「何のご用でしょう」

 「……話がしたい」

 「申し訳ありません、仕事中ですので」


 この人も一応仕事中のはずなのだが。


 カイが2階に登っていく王女をチラリと見た。


 「もうパーティーも終わる。仕事も終わりだ」

 「はぁ……」


 ついに我慢していたため息が漏れてしまった。


 「もう特に話すことは無いと思いますが」

 「お前に無くても俺にはある」


 そう言われてしまえば私には何も返せなかった。遠くに居たジーナに手で持ち場を離れることを合図する。もう王女も帰ったので私が抜けた所で問題はないだろう。


 「場所を移しましょうか」


 人気が少なくなった庭園を2人で歩く。噴水のある場所で立ち止まりカイと正面から向き合った。


 「それで、お話とは?」

 「……それは……その、俺たちはずっと兄妹として育って……俺がお前に、酷い言葉を沢山言ったのは……わかってる」


 話の本筋が分からずに私は眉間に皺を寄せた。


 「それは……私に謝りたいと言うことですか?」


 何を今更、と心の冷たい部分が苛立つ。


 「いや、それもそうなんだが……俺がお前に嫉妬してたのは事実だ。父上と母上のお気に入りで……お前も期待に応え続けて……それが悔しかった。ただ、それだけじゃなくて……」


 カイはこんなに容量を得ない話をする人間だっただろうか。何を伝えたいのか一向に分からない。


 「お前は小さい頃、父上のような人と結婚するんだと言っていただろう」

 「……はぁ」


 そんな事を言っただろうか。例え言っていたとして、今それが関係あるのか?


 「だから、お前には俺より……弱くあって欲しかった。いつも俺が、お前より強くて、俺だけが……お前を、ロウサを守れるように」

 「……ちょっと待ってください。話を要約して頂けますか?」


 頭が混乱してきた。


 「だから!俺は……」

 

 意を決したようにカイは私を見つめた。その瞳の熱は私を温めるどころか、どこか冷めた感情にさせた。


 「あれ、ロウサさん?」


 柔らかい声がカイの言葉を遮った。


 「ロナルト殿……」


 タイミング良く現れたのはロナルトだ。彼はパーティーには来ていなかったはずだが紺色のシンプルなスーツを着込んでいた。私の事は少し遠くから見えたのだろう。カイもその場に居ることに遅れて気付いたロナルトの顔が険しくなった。

   

 「ロウサさん、困ってますか?」


 私を傷つけるなら兄弟だとしても止める、と言い放ったのは嘘では無かったようだ。きっとカイとロナルトが戦ったとしたら勝負にもならないだろう。だが彼の気持ちがただただ嬉しい。いつの間にか力が入っていた体の筋肉が緩む。

  

 「えぇ。少し困ってます」


 正直に伝えた瞬間、ロナルトは私の腕を取り走り始めた。


 「ろ、ロナルト殿!?」

 「僕じゃ彼に敵いません!逃げましょう!」


 彼なりに必死に走っているのだろうが、普段の私の走る速度に比べればジョギングほどの速度だ。だがロナルトに手を引かれて走るのが無性に楽しくて、私は大人しく彼に引っ張られるままにした。

 

 「はぁっ、はぁっ……ご、ごめんなさいっ、もう無理……っ」

 

 勢いよく駆け出したロナルトはすぐに壁に手をついてゼェハァと荒い息を吐いて立ち止まってしまった。騎士舎に向かう廊下だが、そこに着くまでにはまだまだ距離がある。


 「普段から、運動しないと……ダメですね」


 情けないです、と笑うロナルトが振り向き私の腕を掴んでいた手をパッと離した。


 「あっ……す、すみません……!」

 「いえ、大丈夫です」 


 逃げる事に夢中だったのだろう。まだ私の事が怖いはずなのに。離れてしまったロナルトの手を取りそうになる己の腕に力を入れて自分を止める。


 「ロナルト殿はパーティーに居ませんでしたよね?なぜスーツを?」 

 「あ、仕事終わりで急いで来たんですけど、遅かったみたいですね……」

 「そうですね、もうほぼ全員帰ってしまったはずです」

 「そうですか……パーティーで出てくるご飯食べたかったなぁ」


 心底残念そうにしているロナルトが可笑しくて、私は口を押さえて笑いを我慢した。


 「全員王女を見に来てた筈なんですが、ロナルト殿は料理を食べたかったんですか……くっ……ふっ」


 堪えようとすると余計に笑いが漏れてしまう。


 「そ、そんなに笑わなくても……。でも行けなくて良かったかもしれないです。このスーツ、もう時代遅れらしくて」


 ロナルトが自身の体を見下ろした。


 「そうなんですか?私は良いと思いますけど。シンプルなデザインが良く似合ってますよ。私は好きです」


 お世辞でもなくそう思った。彼の黒髪に紺色のスーツが良く映えている。


 「ぁ……は……」


 ロナルトが言葉にならない声を発しながら固まってしまった。


 「ロナルト殿?」


 何か失礼な事を言ってしまったのだろうか。私はロナルトの顔を伺おうと体をかがめる。その瞬間勢いよく上げられたロナルトの頭が私の顎を直撃した。


 「あがっ!」

 「ごっごめんなさいーー!!!」


 先ほど全力を出し切ったと思っていたのに、疲れを忘れたようにロナルトは走り去ってしまった。


 「……へ?」


 間抜けな声が廊下に響いた。

ありがとうございました!

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