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養子のオーク  作者: 猫殿
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8. 弟


 人間に変身した日以来、私は一切ブレスレットには触れなかった。


 友達以上の関係になれないと分かっていても、ロナルトが私の事をかっこいいと言ってくれたのだ。その事実は純粋に嬉しかった。


 彼が憧れてくれるような自分で居よう。魔法の力を借りて人間になる必要はない。そう決めて私はいつも以上に訓練や任務に打ち込んでいる。


 ブレスレットを返してルトフリートからの結婚を断らなければいけないが、彼の方から連絡すると言っていたので今は放っておいても良いだろう。


訓練を終えジーナと廊下を歩く。すっかり夏も終わり、夕方にはもう肌寒くなってきた。全身に毛がある私はまだ肌寒いくらいだが、ジーナは汗が冷えて寒いと震えている。早く湯を浴びたい。


 「ロウサ」


 背後から声をかけられる。声だけで誰か分かるので出来れば振り向きたくはないのだが、ジーナが先に振り向いてしまった。


 「あ、カイさん」


 私も渋々振り向き元弟と向き合う。


 「私先に言ってるね〜」


 厄介なことが起きることを察知したジーナはひと足さきに騎士舎に駆けていった。薄情なやつめ。


 「なんでしょう。コーニッシュ殿」


 家名で呼ばれたカイが苦い顔をする。


 「他に誰も居ないんだからいつもの呼び方でいいだろ」

 「生憎、私はもうコーニッシュ家の者ではありません」


 そうなるように命じたのはお前の兄だぞ、と言いそうになったがグッと堪えた。


 「例の、魔法使いからの求婚に応えるつもりか」

 

 アントンから聞いたのだろうか。私は何と答えるか数瞬思考を巡らせた。


 「聞いてどうするおつもりですか?」

 「なっ……!」

 「私が結婚しようがしまいが、コーニッシュ殿には関係が無いのでは?」


 実際は多少関係がありそうだが、カイに探りを入れられているようで素直に答えるのは嫌だった。


 「関係なくはないだろ!元々家族だったんだし……」

 「えぇ。元、です。今は他人同士になりました。コーニッシュ殿もそれが望みだったのでは?」


 小さい頃から散々酷い言葉を投げつけられ厄介者扱いされてきたのだ。私が家から居なくなってカイは喜ぶべきだろう。なのに彼は何を怒っているのだろうか。


 「それは……そうだが……そうじゃなくて」


 一体何が言いたいのか。私のことが気に食わないのなら近づかなければ良いのに。


 「鬱憤を晴らす相手が居なくなった事に怒っているのですか?それなら是非他の方をお探しください」

 「お前っ……!!!」


 カイが顔を赤くして拳を握る。殴られてしまうかと思ったが、彼は深呼吸をして自分を落ち着かせた。こんな風に自分をコントロールしようとしているカイは見たことがない。


 「お前には……お前に人間の相手が現れる訳……だから……俺だけだと……」


 私に人間の友達など居ないと言いたいのだろうか。失礼な。


 「私にも友達は居ますよ。それ以上は侮辱と見做します。他にご用が無いようなので、失礼します」


 私と友達になりたいと言ってくれる人だっている。


 私はクルリと背を向け騎士舎へと歩き出した。早く湯を浴びて眠ってしまいたい。


 

******




 ルトフリートが現れたのはブレスレットを渡されてから3週間後の事だった。今回もアントンの執務室に呼び出される。


 「ごきげんよう、オークの姫様」


 ルトフリートの胡散臭い笑顔は健在だ。


 「お久しぶりです、ルトフリート殿」


 大仰にソファに座っているルトフリートに礼を取り、隣に座るアントンにも挨拶をする。


 「それで、どうでした?人間になってみた気分は」

 「えぇそれはもう、最悪でした」


 明るい声色で返す。ルトフリートが素で驚いたように目を見開いた。


 「おや、お気に召さなかったかな?」

 「技術自体は素晴らしい物ですが、私には必要の無いものでした。これはお返しします」


 ブレスレットをルトフリートに手渡す。


 「ふむ、それじゃあ結婚の話も希望は薄いかな?」

 「はい。申し訳ありませんが、正式にお断りさせて頂きます」


 アントンが私の言葉にホッとしたように息を吐いた。


 「それは残念だな。もしかして、もう想い人が居るとか?」

 「……いえ」

 

 冗談めかして言われた言葉に私はすぐに答えられなかった。


 「おやおや、求婚するにはひと足遅かったわけだ」

 「残念だったな、魔法使い。用が済んだならもう帰れ」

 

 アントンが犬を追い払うようにルトフリートをしっしっと追い払う仕草をした。この2人は仲が良いのか悪いのかよくわからない。


 「そうだねぇ、馬に蹴られたくはないし」


 ルトフリートが立ち上がり私とアントンを交互に見た。


 「正直ロウサ殿に興味はなかったんだけど、君たち結構似てるね?」


 アントンと私が似ている?私は信じられない、と思わずアントンに目線を飛ばした。アントンも同様に嫌そうな顔をしている。


 「ほら、そっくりだ」


 ルトフリートはハハハッと大きく笑った後、また来るよ、と指を鳴らし霞のように消えてしまった。


 「……アントン殿、あの人を出禁には出来ないんですか」

 「無理だな」


 アントンは諦めのため息を吐いた。きっとルトフリートほどの実力者は王が手放しはしないのだろう。ゴタゴタに巻き込まれる方は堪ったものじゃない。


 「カイとはどうだ」


 珍しくアントンから会話を振られて私は答えを躊躇った。とても上手く言っているとは言い難い。

 

 「えぇ、その……話はしたのですが、いかんせんあの態度ですので……」

 「あぁ、まぁそうだろうな」


 何だこのお通夜みたいな空気は。


 結局会話は続かず、私はすぐに執務室を出て行く事になった。

ありがとうございました!

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