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かなりや  作者: やうた まゆ 
Ⅱ.冬の夜の風
24/39

24.家族



ユキがいなくなってからの数日間、アキトはほとんど話さなくなった。

元々静かだったのが、感情を心の奥にしまいこんで蓋をしたような有様だった。


それが、今朝はなんだか嬉しそうにしている。


ハルはそんなアキトを見て微笑んだ。


そして、黙ってアキトの背後に周ると、アキトの頭をクシャクシャにした。


イツキが笑う。


「アキ兄、頭、変だよ」


ハルがアキトの髪の毛をわざと立たせていた。


マイとワカキも可笑しがった。


久しぶりに、皆で笑った。


✴︎


夜明け前の川辺。


鳥が鳴いて、夜明けが近いことを知らせてくれている。


アキトは薪を組んで火を起こす準備をしていた。


静かな夜明け前の時間もアキトは好きだった。


焚き付けに火をつける。


炎の小さな柱が一つ、二つ、ゆっくりと立ち上がっていく。


炎に合わせて薪を少しずつ足してゆく。

火は少しずつ大きく育っていった。


夜空に煙が立ち上っていった。

火がパチリと爆ぜた。


炎は次第に穏やかになり、落ち着いた。


アキトは椅子に腰掛けてぼんやりと焚き火を眺めた。


目を閉じてみる。


ゆっくりと流れる川のせせらぎ。

岸に水が触れてチャプリチャプリと音を立てている。

炎が静かに空気を揺らしている。


静まり返った空の冷たい空気。

夜が白み始める。


鍋の水が温まって鍋を揺らした。


足音が遠くから聞こえてきた。


アキトが顔を上げると、赤錆色の帽子が見えた。

にっこりと笑った。


「おはよう。来てくれてありがとう」


妖精は口の端を持ち上げた。


「ああ……おはよう。アキト」


二人は小さな椅子に腰掛けた。


アキトは鍋のお湯をポットに注いだ。


お湯を移してカップも温める。

カップから温かい湯気が柔らかく広がった。


ポットに茶葉を入れ、お湯をゆっくり注いで蓋をする。


妖精はその様子をじっと見ている。


カップのお湯を捨てて、アキトはポットをそっと持ち上げた。

温まったカップに紅茶をそっと注ぐ。


紅茶の香りが辺りに広がった。

そこにレモンを浮かべ、蜂蜜を入れる。


カップをそっと妖精に差し出した。


「どうぞ。熱いから気をつけてね」


朝日が昇ると、紅茶のカップを横から照らしだした。


妖精は黙ってカップを受け取る。

しばらく、二人は無言で紅茶を飲んだ。


頬は冷たかったが、カップに触れている手は温かかった。


「妖精さんの家は、川上の街にあるの?」


アキトは川を眺めながら、ふと、聞いてみた。


「いや……。俺は……」


妖精は言いかけて、黙ってしまった。


アキトは、何となくこの話はやめようと思った。

代わりにクッキーの皿を勧めた。


「ジャムをのせたクッキーを焼いてみたんだ。美味しいといいんだけれど」


妖精はクッキーを持ち上げた。

上にのっている赤いジャムを珍しそうに眺めた後、口に入れた。


アキトはその様子をじっと見守る。


「ああ、このクッキーも美味い」


妖精の言葉に、アキトはほっと微笑んだ。


「よかった。最近、前より上手に焼けるようになったんだ。ハルにも褒められたんだよ」


「ハル?」


妖精は目を細めて聞き返した。


「ええと、ハルはね、一緒に住んでいる兄さん……じゃなかった。姉さんみたいな人でね……」


「家族……か?」


「うん。家族」


アキトは頷いた。


「そのハルとやらは、いつも一緒にいるのか?」


「うん。大体一緒にいるよ」


妖精は紅茶のカップのふちを二回、指で触れた。


「家族……。家族はみな、そういうものなのか?」


アキトは空を見上げた。


「どうなんだろう……。ほかの家族は知らないんだ。ただ、僕はユキ姉やハルや、みんなが大好きだな。だから一緒にいられると、嬉しいんだ」


妖精の指がとまった。


妖精が指をはなすと、指にカップの痕がついていた。


「俺は……家族を知らん。気付いた時には一人だった。今までずっと一人で生きてきた……。家と呼べる場所もなかった」


アキトは静かに妖精を見つめた。


「妖精には人間と一緒に暮らす者もいる。だが、俺はレッドキャップだ。人と暮らせない」


「どうして?」


「お前さんは、知らない方がいいだろう」


そう言って妖精は帽子をかぶりなおした。


「でも……また来てくれる?」


「ああ」


「そうしたら、一緒にお茶が飲めるよね」


妖精は、わずかに口の端を持ち上げた。


カップは空になっていた。


「お前さんは二回、お茶を用意してくれた。今度は俺が用意しよう」


「本当?」


アキトは嬉しそうに目を輝かせた。


「七日後の同じ時間だな」


アキトは頷いた。


乾いた冷たい風が、焚き火を撫でていった。




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