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教団も手を焼く者

 銃弾と能力で自身とダクルを守るタノス。

 破壊されたゴーレムは形を保てなくなり、荒い砂と化して崩れ落ちる。

 だが、先程よりも歩いて来る速度が上がったゴーレムがいくつも押し寄せてくる。

「な、何体居るんだこいつらっ」

 怯えるダクルの隣で、銃弾を撃ち込みながらもタノスは相手の出方を見ていた。

(セロットは『左の方に居る』としか言わなかった。

 つまりゴーレム使いのみ、他に敵は居ない)


(遠距離からゴーレムか何かを自動操縦させるタイプは本人が動き回るかどれかのゴーレム自体に乗ってるパターンが多い)

 最も近くに寄って来たゴーレムが振り下ろそうとしてきた腕に魔力が集中する。


 "パチン"


 タノスの弾丸はそのゴーレムの左肩に当たり、衝撃波で大きく抉り取られる。

(魔力が集中した部分は動きも速くなる。

 逆に言えば……魔力を集中させなければ速く動かせない)

 タノスは視界に映る全てのゴーレムの動きを見る。

(俺は思い違いをしていた。

 振り下ろす時に魔力がこもるタイミングには一切"ズレ"が無い。

 魔力が込められるのは自動的だ)

 そして、視界の奥で新たに出来上がるゴーレム達を確認した。

(奴の位置はほとんど変わってない。

 俺が次々に破壊するから補充が始まったな……)

「ダクル、今お前が持ってる道具で自分の身を守れるものはあるか?」

「いっ!?

 そ、そんなのは――」

 言いかけたダクルが持っている壺を見た。

「……ある!

 この壺は半永久的に魔力を生成する特別な"苔"が内側にびっしり生えてる!

 それを使えば何発かは!」

「1発耐えられるぐらいで十分だ、多分な」

 タノスが身体の内側から魔力をひねり出す。

 ダクルは慌てて壺の蓋を取った。


 タノスが空中へ跳び上がり、一番近くに居たゴーレムの足に着地。

 そのまま胴体を駆け上がり、肩に到着する。

(荒っぽい手段だがこれが最速だ)


「……いかにもセロットがやりそうな"手"だ」

 タノスは右手に持った銃で、敵が居るであろう方向に弾丸を放つ。

 左手は下ろしており、構えていない。

 その弾丸は、隣に居たゴーレムの頭部に当たり――


 大きな衝撃波が生まれ、首から取れた頭部が吹き飛ぶ。

 吹き飛んだ頭部は更に奥のゴーレムに当たりそうになり――


 両目を見開いたタノスは、自分が乗っているゴーレムの肩が動き出したことなど意にも留めず能力を"使い続ける"。

(全部吹き飛べ!)


 タノスの視界に映るあらゆる場所で衝撃波が発生した。

 砕けたゴーレムの破片が別のゴーレムに当たり、そこを起点に更に衝撃波が発生。

 吹き飛んだゴーレムの手や指が当たった場所、バランスを崩し床に倒れた場所さえも起点にして衝撃波が発生。

 全てのゴーレムの破片が、増幅する衝撃波の起爆剤と化していた。


 タノスが乗っているゴーレムの肩の動きが止まる。

 こちらへ飛んで来る破片を防ぐため、魔力で全身を守りながらもタノスは視界に映っているゴーレムの動きを見逃さなかった。

(!)

 視界の奥、やや左側。


 急に身構えた、不自然な動きのゴーレム。


 タノスはゴーレムの肩を蹴り、同時にそこを起点に大きな衝撃波を生み出す。

 弾丸のごとく飛んだタノスが、まだ破片の舞う空中を駆け抜け――


 約1km弱を移動し、身構えた格好のゴーレムのすぐ横を通り抜け着地したタノス。

 着地した時の衝撃が両足から全身へ伝わるも、間髪入れず振り向き銃を構えた。

 ゴーレムの背中を狙いながらも、フードを被った本体がゴーレムの肩に乗っていることを確認した。


 "パチン"


 増幅した衝撃波は、ゴーレムの背中を中心に身体を破壊した。

 空中に放り出された教団の男。

(いつの間に後ろに……っ!

 まずい!この距離は確実に狙われる!)

 教団の男は、落下しながら左手で空中に舞うゴーレムの破片の欠片に狙いを定める。

(これを掴んで落下するまでの防御壁にする以外なぁぁいっ!)

 男は、破片の欠片を掴むことに必死になっている。

 タノスが左手を構えながら、男の左手を凝視していることに気付かなかった。


 "パチン"


 力強く掴んだ破片の欠片を起点に、衝撃波が生まれた。

 魔力での防御がおろそかになっていた左手は弾け飛び、本人も衝撃波で吹き飛ばされ地面に叩き落された。

「があぁっ!!」

 血を吐きながらも、右手を地面につき起き上がろうとする。


 タノスの蹴りが、起き上がろうとした男の顎を直撃した。

「げぅっ」

 魔力を伴った蹴りは、男の顎の先を少し削り取る。

 揺らされた脳と、先程のダメージが男を気絶させるに至った。

「殺さず生かすのは"相手の動作に合わせて能力を使う"のと同じぐらい難しい。

 難しいが……出来なきゃあいつにはいつまで経っても及ばない」


「……何回重ねればあいつに追い付けるんだ、俺は」

 恨み言のように吐き捨てたタノスは、再び走り出しダクルの元へと戻り始めた。


 ――――――――――――――――


 2階の廊下を走り、途中で止まったセロット。

 すぐ奥に螺旋階段で地下に行ける部屋があることを知りながら、すぐ左の扉を開けて中に入った。


 開けた扉を閉めたセロット。

 中はエントランスや廊下と同じようにどこも傷だらけで古びている。

 上から見れば長方形のような形の部屋は、広さおおよそ40平方メートル。

 朽ち果てた椅子の残骸がところどころに落ちており、中央には未だやや形を保っている楕円形の木製テーブル。

 壁にかけられた額縁のうち残っているのは3つ程で、よく見渡すと割れた額縁の破片も散らばっている。


 入口の扉の真正面と、反対側に窓が1つずつ。

 どちらも割れており、3割程が残って吹き抜けになっていた。

 遠い方の窓から外を眺めているフードを被った教団の男が、フードを取りながらセロットの方を向いた。

「ナリスなら地下だ。

 ここじゃないよ」

 短髪の白髪、黒い丸眼鏡をかけた少し老けた顔つきの男は優しく話しかけてくる。

「俺はちょっと教団の意向とは価値観が合わなくてね。

 ナリスがどうなろうと知ったこっちゃない。

 さ、早く行ってやればいい」

「ナリスが地下に居るのも、どの部屋に居るのかも知ってるよ」

「?

 なら何故――」

「僕が魔力の感知広げたのわかってるでしょ?」


「僕がナリスを確保して枷がついた状態になってから狙うのが一番楽……

 だからここで待ってるんでしょ」

 数秒の沈黙。

「魔力を引っ込めたのはいいけどさぁ、擬態するには魔力の流れが静か過ぎるんだよ君」


「ナリスの元に行く前に、君をどうにかしなきゃね」

 淡々と言い放つセロット。

「ふふ……」

 男は、口角を上げ微笑する。


「この城は、ナリスの友人であるウギュウアという魔女が住んでいた場所だそうだ」

 男はフードを脱ぎながら語り始めた。

「彼女は閉じられた空間を塗り替える能力を持っていた。

 元々オンボロだったこの城のあちこちの壁やら床やらを能力で塗り替え、住める場所にしてたらしい」

 黒いシャツに黒いズボン。

 動きやすい服装で、武器は何も持っていない。

「ここに逃げ込んで、息子だけ転送した後教団と戦闘になり……

 ウギュウアは死んだが、その前にナリスだけ地下の部屋に閉じ込めた。

 それだけだったら別に良かったんだ」


「ナリスを送り込んだ部屋が鍵以外の方法で決して壊れないとは思わないだろう?

 鍵の所在も全くわからず仕舞い……ウギュウアの仲間が持ってたんだろう、恐らくずっと前からだ」


「音を遠くまで拾える奴が、ついにナリスの話をする2人組を見つけて――」


「反射した音の形状で、鍵を持っていることを教団に知らせた」


 男の身体から滲む魔力は静かに体表を流れ続ける。

「手間が省けて助かった。

 礼を言うよ」

「礼を言うならこれを僕から奪ってからじゃない?」

 セロットは服の内側から鍵を出して男に見せる。

「!

 おいおい危ないな……大事なものだから仕舞っておいてくれよ。

 ただ、服の裏も何かの拍子に落とすかも知れない」


「腹の中とかはどうかな?」

「僕のお腹掻っ捌く気満々だ!

 お~こわ!」

 セロットは鍵を服の内側に仕舞う。

「教団はあんまり俺を派遣したがらなくてね。

『シュームを出すと死体が余分に多くなる』ってつい一昨日もボヤかれた」


「そんな俺を派遣しなきゃいけない事態にしてくれたんだ。

 これは本当に感謝してる。

 礼を言うよ……」


「また骨のある奴を殺せる」

 シュームの気配が一気に変わる。

 部屋の外まで漏れ出る強烈な殺気。

 殺気と一緒に散った鋭い魔力が、隣にある残っている窓ガラスに亀裂を入れた。

「……さっきの5人は小細工でどうにかしたけど、君には普通の小細工は効かなそうだ。

 能力は純粋な身体強化でしょ?」

「さぁどうだろうな」

「僕は嘘が上手いから、人の嘘や隠し事は全部丸わかりさ!

 となると、だ」


 セロットはいつの間にか右手に小型のナイフを握っていた。

「君に効く小細工で君を殺すとしよう」

 シュームは僅かに怪訝な表情をした。

 ナイフを持ったセロットが、3人になっていた。

「……ふふ。

 いくらでも小細工をすればいい。楽に殺せるならそれに越した事はない」

 シュームの眼には身体中のどれよりも魔力がこもる。

 もう既に、どれが本物のセロットなのか見破っている。

「僕、一番得意な魔法は幻術なんだよね」


「あっと驚かせてあげる!」

 自信満々に言い放ったセロット。

 シュームの左足が動いた。

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