第30話 創始者
「はは……逃げ場がないってこういうこと?」
私達は背と背をくっつけるように周囲を木々を警戒する。
「にしては襲ってこないのが謎ですね」
「一人になった瞬間に襲うって芋女は言ってましたわね。本当謎な生物ですわ」
「でも事実だし。というか木がさっきの触手の持ち主が木って本当?」
「疑ってますの?」
「疑うも何もこの状況で受け入れ難い事実なんだよ」
ふと何故か私は旅人さんとの思い出が蘇る。
虫を食べる食虫植物がいることを。さしずめこの木もどきは食人植物といった言ったところだろう。
「シトラ、ミラ、これからどうしますか?」
「私は三人一緒に手を繋げば大丈夫だと思う」
「馬鹿ですの? 行動しにくくなって、突然敵が襲ってきたらひとたまりもないですわ」
「じゃあ、こうすれば」
私は余ったロープを体に巻いて、二人に巻いたロープを手渡す。
「体に巻き付けてお互い距離が離れないようにすれば大丈夫でしょ」
「もし襲われたらどうしますの?」
「ロープは意外と長いから襲われてもある程度回避できるはずだよ。あとこう引っ張れば危険だってすぐ分かるし」
はぐれないこと。この星で一番してはいけないことだ。私達は友達でもないし、仲間でもない。死んだら不合格になるというルールに縛られ、一緒に行動しているだけだ。
背を預ける信頼がない以上、シトラにできる妥協点であった。
「お互い信じ合えないだろうけど、今は協力し合おう」
「僕は協力しますよ」
「……ふん。後悔しても知りませんわよ」
敵同士。それでも今は開拓者を目指す同士として前に突き進む。
いつか本当の仲間として話し合うことを夢見ながら。
◇◇◇◇
大型宇宙船のある一室にて─────
「今年は何人受かると思うニャ?」
盤上の上に白の駒が置かれる。フリュルの向かい側に座る茶髪おっさんことグラハムは白い歯を見せて呟く。
「せいぜい一人ってとこかな。見所のある奴らは二次試験でくたばっちまったし」
「見所のある奴じゃなくて、好みの女じゃないかニャ?」
「そうだぞ。何か文句でも?」
「大ありニャ。みゃーは開拓者になる人数が気になって夜しか眠れないニャ」
「は。カジノで億万長者になるくらい俺の予想は当たらないぜ。それなら開拓者候補を口にした方が当たる」
グラハムは盤上の白の駒を弾き落とす。じっくり追い詰める狡猾な策略で。
「じゃあ、グラハムは誰が開拓者候補になると思うニャ?」
「そうだな。あの鬼人の巨にゅ……」
「あ、その子はさっき食人植物タタロに食われたニャ。ご愁傷さまニャ」
「マジかよ。俺、助けに行ってくるわ」
「いくらグラハムでも一人だと死ぬニャ。まぁリタイア通知があれば救助隊が助けにいくけど」
「女のために死ねるなら本望だ。あ、それとチェックメイトだ」
キングを退路を断つよう黒の駒が上手く配置されている。フリュルは負けた悔しさからムキーっと腹を立てるが、目の前に好物のマタタビキノコを置かれて数秒で収まった。
「食人植物タタロか。いっそ惑星ごと燃やして占拠するっていう手も」
「その手はなしニャ。燃やしたらタタロが生み出す有益な植物が生えなくなってコスモス社の損害が酷くなるニャ」
「でも危険だろ。この星は食物連鎖が真逆で知らずに足を踏み入れたら人生終了だ」
普通、植物から食植生動物に、食植生動物から肉食動物にと生態ピラミッドが構築されるはずだ。だが、この星では違う。
植物が動物を糧として食らっているのだ。
「大丈夫ニャ。タタロは二人以上の群れを襲わない植物だニャ。理屈は詳しくないニャけど、全部取らないようはぐれた奴だけ襲う不思議な植物ニャ」
「確か共存だっけか。絶滅しないように生かして必要な時だけ食べる。まるで家畜のような考え方で人間みたいだぜ」
「あながち間違いじゃないかもニャ。あ、話逸れすぎて肝心の開拓者候補を聞くの忘れてたニャ」
「俺は鬼人の巨乳っ子、以上だ」
「だから、その子は食われたニャよ。グラハムはもっと公平に考えてほしいニャ」
「公平も何も個人の見解だろ。嫌なら別の奴に聞けばいい」
「むむむ。今うちら二人しかいないニャよ」
「私もいるよ〜」
凛とした声と共に自動ドアが開き、一人の黒髪女性が姿を現す。二人はその姿を見るやいなや目を限界まで見開いて、自然と立ってお辞儀をした。
「「創始者様!!」」
黒髪女性は朗らかに笑顔を浮かべて二人の一歩手前で止まる。
「フリュル、グラハム、久しぶりね。試験の方は順調かしら?」
「もちろんです。三次試験はこのグラハムが責任もって公平に取り組んでおります」
「そうなの。それならグラハムが思う開拓者になる候補者を個人的に教えてほしいな、なんてね」
「……もしかして俺達の会話を聞いてました?」
「はて、なんのことやら」
のらりくらりと雲のように掴めない彼女にグラハムは心の中でため息をつく。
「俺はヒューマンの男性二人が受かると思っています。確か名前はカネナキ、ローマンでしたね」
「ああ、あの二人ね。確か昔のグラハムそっくりで危ないところはあるけど信念を感じるわ。ふふ、グラハムもちゃんと見てて嬉しい」
息子を撫でるようにグラハムの頭をヨシヨシする。グラハムはこそばゆい感じに口を閉じたまま目を逸らした。
「フリュルの思う候補者は誰かしら?」
「はいニャ。みゃーは狼獣人のモルフが受かると思いますニャ」
「確か彼は二次試験で宝箱を豪快に持ってきた人ね。あの怪力は他の獣人でも見ない類稀な才能だからフリュルの目の付け所悪くないわ」
「ありがとうございますニャ」
黒髪女性はフリュルの頭を優しく撫でる。フリュルは無意識に二本の尻尾を激しく揺らし、静かに喜びの感情を噛み締めた。
「創始者様は誰が受かると思いますニャ?」
「フリュル、創始者様に無粋な質問をするな」
「でも気になるニャよ。誰が受かるか気にニャって仕方ないニャ」
「あのな。フリュルはもっと」
「グラハム、フリュルの好奇心を無下にしてはダメよ。それに今は試験の最中だから創始者でなく、あなた達と同じ審査員として接してほしいわ」
「で、ですが」
「お願い。こうやって皆んなと普通に話せるのなかなか出来ないから。ね、一生のお願いだと思って聞いて〜」
「……分かったよ。創始者様がそうおっしゃるなら」
「やった! じゃあ、今からコスモスフロンティアの創始者様じゃなく、名前で……」
「「それは無理」」
「なんでぇ!?」
とても銀河系トップに立つように見えない醜態にフリュル達は頭を抱えるばかりであった。




