第29話 敵は近くに
「なるほどね。つまり私達は餌ってことだ」
シトラは地面に座り込む。まさか星が生物だとはにわかに信じ難いことだ。
「そうとも言えますし、そうとも言えませんわ。仮に星が生物だとして、なぜ私達をすぐ食べないのかしら」
「僕も気になりました。こうして悠々と料理を食べているのに襲ってこないのは妙です」
ミラ達の言うことはもっともだった。
獲物を仕留めるなら今は絶好の機会だ。なのに襲われる前兆もない。
「うーん、どういうことだろう」
シトラは頭を捻る。ふとグラハムのある一言を思い出す。一人で行動しないように、と。
「ねぇ。グラハムの言ってたことなんだけど、一人で行動しないってどんな意味だと思う?」
ミラとモルフは少し考える素振りをみせて順番に答える。
「迷子になるからでは?」
「誰かに殺されるとかじゃないでしょうか」
「それもあるかもしれないけど。でも私はちょっとそれが気になるんだ」
私は鞄からロープを取りだし、木にロープを巻き付けて体に縛り付ける。
「二人とも私から離れてみて」
シトラが何をしたいのかミラ達は察して言葉にする。
「……まさか自分を餌にするつもりですの?」
「そうだよ」
「シトラ! いくらなんでも無茶ですよ!」
「無茶でもやらなきゃ開拓者は夢のまた夢だよ。それに」
シトラはミラとモルフを見つめてニッコリと笑う。
「何かあったら二人が助けてね」
「馬鹿ですの? 私が芋女を助けるとでも?」
「思わないよ。けど私が死んだら不合格になる。だからパスタ女は助けざるを得なくなるんじゃない?」
「……あなたのことますます嫌いになりましたわ」
「別にパスタ女に好かれるつもりない。まぁ私はモルフに期待してるんだけどね」
「僕ですか?」
「うん。だってパスタ女よりモルフは頼り甲斐あるもん」
シトラは彼女を焚きつける。口を開けば喧嘩になるが、その会話の節々に気高いプライドが時折見えた。だてに喧嘩をしていたわけではない。だからこそ彼女なら必ず食いつくと思ったのだ。
「ふーん、安い挑発ですわね。でもその挑発に乗って上げてもいいですわ」
いちいち鼻につくが、シトラは言葉を呑み込む。
「もし私が助けたら何か報酬はあるのかしら?」
「うーん、何か欲しいものある?」
「そうですわね。芋女の頭か、芋女の心臓が欲しいですわね」
「私を殺そうとしてないそれ」
「報酬はしっかり決めて納得のいくよう交渉しないと足元すくわれますわ。やっぱり芋女の脳は芋ですわね」
「一言余計だよ」
ムカつくけど嫌いだけど好きになれないけど、少なくともパスタ女は教えてくれる時点で悪いヤツじゃないと思った。
「貸し一つでどう?」
「まぁいいですわ。芋女の貸しがどこまで役に立つか見ものですわ」
貸しを仇で返してやろうかコノヤロウと心の中で呟く。
「じゃあ、二人は見えるところで見守ってて」
「シトラ、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。それに何かあってもモルフが助けてくれるって期待してるから」
「そう言われたら頑張らないとですね。でも死なないでくださいよ」
ミラ達は私から離れていき、十数メートルほど距離を取る。私はゼナの生体反応を確かめながら周囲を警戒する。
「ゼナ、私達以外で生体反応は?」
〈確認できません。索敵範囲を広げますか?〉
「電力消費ヤバいけど、背に腹はかえられないからね」
私はゼナに索敵範囲を広げるよう指示する。
けれど反応がなく辺りは静寂そのものだった。
「格好のいい獲物がここにいるよ〜」
ふざけて体をくねくねと動かすが一向に襲う気配がない。
「モルフ達の距離が近いのかな」
そう思った私は大声で二人に指示を送る。
「二人とも! もう少し離れてみて!」
二人は頷き、背を向けて距離を取ろうとする。
しかし、二人が背を向けた瞬間、足元から樹皮の触手が伸びて私に巻きつこうとした。
〈ご主人!〉
ゼナは自身に出せる最大音量で叫ぶ。
ゼナは生体反応を常に起動していた。なのにその生体反応に一切反応せず、シトラの足元まで近づいていたのだ。ゼナは自身の不甲斐なさに苛立ちを覚えた。
「大丈夫! こんなのおちゃのこさいさいだよ!」
襲い来る触手を尻目にシトラは上に飛び跳ねる。兎の跳躍のように軽やかに宙を舞うと電磁銃と光銃を構えて触手に風穴を開ける。
「勢いが衰えないねこの触手!」
電磁銃の威力を中に上げて撃ち込む。当たった場所から連鎖するように電撃が広がっていのはある意味爽快といえよう。
触手は焦げたように黒く染まりバッタリと倒れていく。
「よし! これで……」
しかし、一瞬だけシトラは油断してしまった。
勝利の余韻に見せる小さな隙。コンマ一秒にも満たない隙が死角から迫る別の触手に察知を遅らせた。
「油断大敵ですわよ」
パシュンパシュンと音が鳴ると触手は瞬時に氷漬けにされ冷凍保存にされた。
「おっと! シトラ、無茶しすぎです」
私はモルフに受け止められる。
「モルフ、ありがとう。でも仮に捕まってもロープがあるから地中に引きづられることはないよ」
命綱といっても保険の意味合いが強いだろう。モルフはため息をついて口を開く。
「あんまり無茶しないでください。死んだら元も子もないんですから」
「ごめんごめん。でも助けてくれるって信じてたから」
私はモルフの腕から下りてパスタ女に視線を向ける。嫌いな奴で笑顔になれないけど、助けてくれたことに感謝はしなければならない。
「パスタ女もありがとう。でも私ひとりで切り抜けられたけどね」
「一言余計ですわ」
ギリギリ歯を立てて恨み言を呟く。
「死んだら不合格になること忘れないでくださいまし」
「分かってるって。それよりこの触手が何なのか調べよう」
私達は氷漬けにされた触手を汲まなく見つめる。木の根っこに近い植物?でどうも動物の類ではなさそうだ。焦げて動かなくなった触手をじっーとモルフは見つめる。
「植物の生物でしょうか」
「詳しいことは分かりませんわ。まだデータ不足気味ですの」
「うーん、気になる点は二人が目を離したら瞬間、この触手が襲ってきたことくらい?」
「目を離したら襲ってきたですの?」
「突然ね。まるで群れからはぐれた獲物を狙う狩人だったよ」
どこかで見ているような感じだ。けれど目というものは触手にどの部分にも見当たらない。
「私の探索機で触手の持ち主を探してみますわ」
「そんなこと出来るの?」
「ええ。その生物の細胞を採取する必要がありますが、ここにサンプルがあるから問題ありませんわ」
焦げた触手をナイフで削りとってフクロウ探索機に中に入れる。
「フォル、この生物のみ索敵してくださいまし」
〈解析中……完了デス。生体反応ヲ開始シマス〉
探索機フォルは最大までレーダーを広げる。途端、フォルが小刻みに震えて音声を荒らげた。
〈オ嬢様! コノ触手ノ持チ主ハ目ノ前二イマス!〉
「なんですって!?」
私達は周囲を見渡すが、それらしい生物は見つからない。だが、フォルは続けてある言葉を音声にした。
〈木デス! 敵ハ周囲二生エル木デス!〉
それは軽い目眩がするほど衝撃を与える言葉だった。なぜならシトラ達の周りは全て木で囲まれているのだから。




