第28話 生きる星
惑星プラトン。様々な未知の植物が生い茂り、不治の病を治す植物や飲めば五秒で死ぬ猛毒植物等が生える宝の世界。
故に最初は『植物の世界』と呼ばれていた。
欠損した腕や内蔵を再生する再生薬もこの星に生えていた植物から採取されている。
当初は調査隊や開拓者が挙って未知の植物を手に入れるために何度も惑星プラトンに派遣した。だが、ほとんど還ってきた者達いなかった。
運良く還ってきた者達は精神に異常をきたす、もしくは口を閉じて黙り込んでしまう。
けれど一人の生還した彼が残り少ない命の時間を削って口にした。
あれは惑星じゃない。生きる星だ、と。
その後、彼は息を引きった。その一言で後の開拓者達が真実を暴き、植物の星から『生きる星』と改名し、開拓者や開拓者の関係者以外の立ち入りを禁止するようになった。
やがて開拓者の試験会場になるが、未だ危険のある星に変わりない。
もしその未知なる危険に触れてしまったらきっと───
「パスタ女の癖に料理は美味しい」
へそを曲げつつも腹は正直者だ。シトラは木皿でよそったキノコと携帯肉のシチューを眉毛を曲げながら喉に通す。
「ジャングルみたいな森林で暖かい料理が食べてれて歓迎です。ミラさんがチームで本当に良かったです」
モルフのモフモフの尻尾が左右に揺れる。無意識ではあるが、嬉しい感情の表れだ。
「ふん。あなた達が寄って集ってきたからでしょう。本当ならあげないつもりでしたわ」
夕暮れ時、シトラ達は体力回復のため適当な場所で食事を摂ろうとした。もちろん長く居座るつもりはない。最低限の時間で食事を済ませて、少しでも探索時間を増やそうとした。
だが、ひとりでに干しキノコと携帯肉でシチューを作る料理人ことミラが勝手に料理をしていた。
香しい匂いにシトラ達は釣られて、じっーと見つめる。ミラは最初は無視をキメていたが、彼女は氷山のような冷たい人間ではない。
最終的に携帯食と消耗品を交換する変わりに一杯だけ分けることにした。
「携帯食の不味さ舐めないでよ。コンパクトで栄養価はあるけど、無味無臭のコンクリート食べてる感じだから」
シトラがポケットから取りだしたニ本線の入った白に近いベージュの四角いブロック。長い宇宙を旅するのによく食べられる携帯食だ。一本で一日分の栄養を賄える食料で、朝、昼、晩と三回の食事が出来るよう分けれる線も入っている。
長期期間の保存も優れており、中には百年も変わらず食べることが出来る。故に一日分の食料、ワンブロックまたはワンブロと呼ばれたりもする。
だが、悲しいかな。メリットあるところにデメリットありだ。
そう。ワンブロの致命的な欠点、それは味が不味いの一点に尽きのだ。誤解がないよう説明するが、味が不味いわけではない。旨味、酸味、甘味、苦味、塩味が一切ない無味なのである。
例えるなら冷たくない氷を食べてる感じだ。
「携帯食より毒シチューが好みなんて滑稽ですわ」
「はぁ!? このシチュー毒入ってるの!?」
「シトラ、落ち着いてください。もし毒が入ってたら全員共倒れですよ。まぁ解毒薬があるので万が一にならないと思いますが」
「あら、芋女より利口ですわね。流石は鼻が利く獣人といったところかしら」
「恐縮です」
相変わらず三人の関係は変わらない。けれど悪化していないのがある意味奇跡と言えよう。
シトラは一杯のシチューを食べ終わり、夜で真っ黒に染まった周囲を見つめる。
「他のチームは見つけてるのかな」
「見つけたら情報提供して欲しいですね」
「敵同士なのにすると思います? 希望的観測は捨てた方がマシですわ」
「確証なんてないでしょ。あともう一杯おかわり」
「携帯食四本と燃焼石を六つくれるならもう一杯あげますわ」
「はぁ? さっきより倍になってるじゃん」
「分けてあげるだけ感謝してくださいまし。それより白夜花を見つける手掛かり探しなさい」
「あったら話してるから。くそ不服だけど嫌いな奴でもね」
「あら意外。芋女なら抜け駆けすると思ってましたのに」
「抜け駆けして死んだら合格できないからね」
私も頭では理解しているつもりだ。
誰か一人死ねば不合格。嫌いな奴でも死なれたら困るし、自分が死んで迷惑をかけるなら一生パスタ女に笑われるだろう。ならせめて自分に出来ることを精一杯やって、パスタ女の鼻をへし折ってやる。
「そろそろ行こう。まだ時間はあるけど、探索時間増やした方が見つけれるかもしれないからね」
「ふん。無作為に探しても白夜花は見つけれないですわ」
「パスタ女は見つける算段でもあるの?」
「もちろん。しかもかなり確証のある物ですわ」
シトラ達は目を見開いた。虚言であっても一筋の細い光に見える。だからこそシトラはその希望に手を伸ばす。
「確証のある物ってなに?」
「白夜花は月明かりの浴びる場所に自生してますわ。それと湿気があって土の状態が常に程よく湿っているのも条件ですの」
「へぇーならそこに行けば万事解決ってことね」
「芋女はお気楽でいいですわね。まぁ私はそれよりも気になることがあるのですが」
ミラは地面の土を手で掬いあげて握る。
「ここの土は妙に状態が良好ですわ。まるで土に栄養を与えるよう仕組まれているみたいに」
「そんなの気にしなくて良くない?」
「あなたはよほど死にたいようですわね」
「やんのかコノヤロー」
「合格まで死なないなら生き埋めになっても構いませんわ」
「どういうこと?」
「芋女は脳みそも芋ですわね。でもあなたなら薄々この違和感に気づいているでしょう?」
モルフの方に視線を移すと少し間をおいて口をゆっくり開く。
「動物が見当たらないことでしょうか?」
「さすが狼獣人の鼻が利きますわね」
植物があるなら食物連鎖が形成されているはずだ。植物から草食動物から肉食動物というピラミッドの基盤がない。
「それがどうしたっていうの。私達が見つけてないだけかもじゃん」
「私は探索機の生体反応を常に見てましたの。それでこの近くに生体反応があって、その生命体を確認するためここに居座っていたのですが……」
彼女は真下の地面を指さす。シトラ達も思わずその指先の方向に視線を向けた。
「先ほどまでここに生体反応がありました。けど今は綺麗さっぱり消えていますわ」
三人の思考が同時に重なり合う。探索機の生体反応は単細胞生物から動物まで幅広いが、大体が動物の範囲で索敵している。もちろんミラの探索機も動物の範囲だ。
なのに一向に動物が見当たらず、不審に思ったミラは食事という観察時間を使って生体反応のある場所を眺めた。
上空や地上にはいない。なら地面の下のはずと思い、観察を続ける。今だ生体反応の点は微動だにしない。冬眠か長いトイレでもしてるとのかと思ったその時だ。点が突然消えたのだ。
食われたなら別の生体反応がある。しかし、別の生体反応はない。ならば心臓発作等で唐突に死んだのか。それならもがいて多少の反応があるはずだ。
困惑と好奇心がミラの脳内に混じり、一つの結論を導き出す。
未知の『なにか』によって殺された。
理解した瞬間、ミラは恐ろしく笑いが込み上げてくる。確かめなければならない。
フクロウ探索機からコンパクトシャベルを取り出し、地面を掘り出す。
「……なんであなた達も掘るんですの?」
ミラにとって予想外のことが起きた。それはシトラとモルフも同じように掘り出したのである。
「気になるから」
「私もです」
未知は恐怖だ。普通、人間は未知なるものに恐怖心を抱き、それに触れずに遠ざかる。けれど三人は恐怖心もなければ仲間意識もない。
単純な純粋な無邪気な好奇心という共通点が彼女達を動かしていた。
「あ、何か当たった」
カツンとシトラのシャベルに何かが当たる。ちなみにシトラとミラはシャベルだが、モルフはここ掘れワンワンである。
「ねぇこれって」
シトラが取り出した物は白い物体に腐肉が付いた物であった。それを見て理解してしまう。その生命体がどうなっていたのかを。
「直前まで消化されていた……?」
まるで土の中が胃袋だということに。この星が生物だと言わんばかりに。そしてシトラ達はグラハムの言葉を思い出す。
生きる星。この星は私達を喰らう巨大すぎる生物なのだと。




