第25話 ゲームしよう
大型宇宙船の航海が順調の中、シトラは残り少ない航海時間をゲームで暇を潰していた。
「チェックメイト。これで12勝0敗だね」
誇らしげに腕を組むシトラを対称にゼナは細いアームでチェスの駒を片付ける。
〈流石です。ゼナではご主人に敵いません〉
「へへん。ゼナは最適な盤面を作ろうとするからね。機械っぽくて読みやすいんだよ」
〈ゼナは機械です、ご主人〉
自己のある機械は限りなく少ない。なぜなら命令通りに動けば十分な働きができるからだ。
もちろん例外もある。元が人間だったり、蓄積されたプログラムの不具合から生まれたり、外部的要因で芽生えたりして、知的生命体として生まれ変わることもある。
ゼナにもその前兆らしき瞬間が訪れた。
〈……ご主人、もう一度対戦しませんか?〉
「いいよ。今度はどんな盤面を見せてくれるのかな」
完全に調子の乗ったシトラにゼナは駒を配置につける。いざ尋常に勝負……
「シトラ、いますか?」
それを遮るように部屋に一つしかない自動ドアの向こうからモルフの声が聞こえてくる。
「いるよ。何かあったの?」
「余分にクッキーを作り過ぎたのでいりませんか?」
「お、丁度小腹が空いてたところだよ」
シトラはウキウキにドアを開ける。大柄な体格に紙皿に乗ったクッキーが小さく見える。匂いを嗅ぐとほんのりと砂糖が漂っている。
「美味しそうだね」
「フリュルさんに許可を貰って厨房で作ったんです。もちろん毛や毒など体に悪い物は入ってません」
それを証明するようにシトラにクッキーを二三枚選ばせ、選んだクッキーをゴクリと飲み込む。
あまりに美味しそうな匂いで、シトラは受け取る前に一口つまみ食いする。
「サクサクで甘くて美味しい」
「お口にあって何よりです」
流石にタダで受け取るのはモルフに失礼と思い、私はモルフを部屋に上げようとする。
「いいんですか?」
「いいよ。ゲームしてただけだし」
「でも女子の部屋に入るのは不粋だと聞きますが」
「今は私の部屋だけど、二時間後には他人の部屋になるから別にいいよ。それに……私は女子部屋っぽくないからね」
どちらかと言うなら男部屋に近い気もする。必要最低限の物と惑星に関する本しか置いてないからね私は。
「し、失礼します」
ソワソワするモルフを背に私は常備ケトルに水を入れる。沸騰したら私の中で一番オシャレなアイテムのハーブティーを入れて、お湯と一緒にカップに注ぐ。
「どうぞ」
テーブル近くで正座するモルフにハーブティーを置く。我ながら客人に最高のおもてなしを出来たのではないかと思う。
「気を遣わせてすみません」
私は「いえいえ」と返してハーブティーと一緒にクッキーを楽しむ。しかし、モルフは一向にハーブティーに手をつけない。まさか毒を入れてると思っているのだろうか。
「シトラ、このハーブティー冷ましていいですか?」
「いいけど、熱い方が美味しいよ?」
「すみません。僕、猫舌なもので熱いのは苦手なんです」
その体格で熱いの苦手なのか。最低のおもてなしになってしまったのは否めない。
「美味しいですね、このハーブティー。爽やかなのにコクがあって飲み心地がクセになります」
「ほほう。モルフもこえた舌持ってるね」
「宇宙を放浪していた時に色々と飲み食べしてきましたからね。多少は自信があります」
「へぇー。ちなみにモルフが一番美味しいと思った食べ物ってなに?」
「そうですね。個人的に料理の星で食べたチャーシュートリプルメンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシが美味しかったですね」
「…………ごめん、なんて?」
「チャーシュートリプルメンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシです。野菜と肉と細く成形した小麦粉の料理ですよ」
「全く分かんない。けどヤバそうな食べ物なのは間違いないね、うん」
とりあえず私の中で食べたいランキング上位にくい込んだのは間違いない。
「まぁ僕が食べたのは本家ではないんですけどね」
「本家じゃない?」
「はい。ある星の食文化に感激を受けた料理人がノリと勢いで作ったらしいです」
「ノリと勢いだけで?」
「みたいです。でも本家と比べたら全く届かないと料理人は言っていましたね」
「ふむふむ、料理人を唸らせたその星に行ってみたいね」
「僕もいつか行ってみたいです」
ふとモルフはハーブティーを楽しんでいるとゼナが持っていたゲームの駒に視線を移す。
「ゼナさん、チェスやってたんですね」
〈ご主人に頼まれて相手をしていました〉
「あんまりゼナ強くなくて飽きちゃったけどね」
「なら僕が相手しましょうか? プロまでとはいきませんがそれなりに出来ます」
「私はいいけど、ゼナがヤキモチ妬いちゃうかも?」
〈ゼナはご主人が負けるところ見てみたいです〉
「逆だった。逆恨みされてた」
ゼナは機械。そのため感情がない……ないはずなのにコアの部分が少し熱を上げる。ゼナは最適な言葉を選び、答えやそれっぽい質問を投げかけるだけの機能。
だから本来機械ではありえない自己主張したことを理解するにもまだ気づいてすらいないのだから。




