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星々の旅々ーThe stars of Shitoraー  作者: レモンパンチ
第1章 旅の始まり
24/31

第24話 束の間のオアシス

二次試験が終わりシトラ達は次の三次試験会場に向かうため大型宇宙船に案内された。

着くまでに36時間ほど掛かるため、それまで部屋で休むか、食事するか、お風呂に入って心身を癒すといった試験のオアシスに合格者達は各々堪能していた。

もちろんシトラも食事がタダで食べれると知って食堂で限界ギリギリまで胃袋に詰めていた。


〈いつまで食べてるんですか〉


「全部弁当コンプするまでだよ」


テーブルに並べられた空の容器の山にゼナが呆れるのも無理はなかった。複数ある弁当販売機はどれも種類が異なっており、コンプリートするのに36時間では到底不可能だ。

なのにシトラは無謀な挑戦に挑む。底なしの食欲は果たしてその頂きに辿り着けるだろうか。


「いい食べっぷりですね」


聞き覚えのある声にシトラは振り返る。

そこにはモルフが弁当を持ち運んで嬉しそうにこちらを見ていた。


「相席いいですか?」


「構わないよ」


モルフは対面の椅子に座り、行儀よく弁当を開ける。


「シトラさん、二次試験の際、色々とありがとうございました」


試験中の荒い口調と今の優しげな口調に違和感が拭えないシトラ。


「さん付けはしなくていいって。あと何か口調違うね」


「ああ、すみません。これが普段の僕です。他の挑戦者に舐められないよう仮面を被っていたんです」


大柄な見た目とは裏腹に好青年のような言葉遣いに思わずシトラは手を止める。


「そうだったんだ。でもいいの? 敵である私にそれ教えちゃって」


「シトラさ……シトラは命の恩人ですので、問題ありません」


「命の恩人ね。それを利用してモルフをこき使うかもよ?」


「そうしたら恩を仇で返します。冗談です。シトラはそんなことする人ではないと思っています」


「本当にそうかな?」


「そうです。二人で合格する方法を必死に考えてくれたんですから」


まっすぐな瞳に私は照れくさくなって視線を遠くに向ける。


「ゼナさんもありがとうございます」


〈ゼナはご主人をサポートしたまでです〉


ゼナも似たようにテーブルの下に半分隠れる。

素直じゃないシトラとゼナにますます好感を抱くモルフであった。


「不躾な質問ですが、シトラはなぜ開拓者になろうと思ったんですか?」


「旅人になるためだよ。色んな惑星をこの目で見てみたいの」


「なるほど。旅人ですか」


「うん。旅をするのに宇宙船が必要なの。それで開拓者になればタダで宇宙船が貰えるんだ」


「確かにそれもありますね」


「うん。モルフも旅人なりたい感じ?」


「いいえ、僕は未知の惑星調査をするためです。考古学者とも言いますね」


考古学者……あまりピンとこないけど開拓者になる必要があるのかな。


「考古学者って開拓者になる決まりあるの?」


「そういうことありません。開拓者にならなくても考古学者になれます」


「それならどうして?」


「未知の惑星を調査するのに開拓者になる必要があるからです。宇宙法律はご存知ですか?」


「聞いたことあるけど内容は全く」


「では簡潔に。宇宙法律154899条、惑星登録されていない未知の惑星を調査する際、法治惑星の調査許可証を最低三つ有すること。違反した場合、五百年の懲役または死刑になるんですよ」


シトラは瞬時に理解する。あ、これ絶対分からないパターンのやつと。そして宇宙法律は私の旅路を阻むものだと。


「ごめん、全く分からない」


「つまるところ開拓者になればどこでも調査できるようになるんです」


「なるほどなるほど完全理解。つまり開拓者になれば万事解決ってことね」


〈ご主人、宇宙法律はある程度身につけた方が身のためだと思います〉


「うぐっ……そういうのゼナに任せるよ」


私の探索機はサポート機能は充実してるけど、最上位の探索機と比べたら一歩劣るんだよね。

でもゼナを選んだことに後悔してないから宇宙法律とやら全部任せて問題ない……はず。


「開拓者が万事解決なのはあながち間違いではありません。なにせ宇宙規模で影響力のあるコスモスフロンティアの象徴みたいな感じですからね」


「ふーん、開拓者ってエリート兵みたいな感じかな」


「いいえ、開拓者は宇宙を自由に放浪できる言わば憧れの存在。通行許可証が必要な惑星もフリーで入れますからね」


「そ、そうなんだ」


「はい。それに開拓者は────」


モルフの絶え間ない話にシトラは赤べこと化す。情報過多にシトラは半ば知恵熱を出し、モルフは慌てて話を切り上げてその日は終わった。結局、弁当コンプの道は遠のいてシトラは明日リベンジしてやると寝床に就いたのだった。



◇◇◇◇



「虫唾が走りますわ」


シトラ達が楽しそうに会話する最中、遠いテーブル席で一人の金髪少女が恨めしそうにシトラ達を見ていた。


「これは競争ですのよ。仲良しごっこしてる暇あったら相手を蹴落とすべきですわ」


〈オ嬢様、一人デ居ルノ寂シイ〉


「違いますわよ!?」


高飛車な金髪少女は率直なフクロウ型探索機を優しく掴む。


「あいつらは敵。他の奴らも同様ですわ」


孤独は常に敵をつくる。太古から変わらない不変のルールにフクロウ型探索機は心配していた。だが、同時に彼女の過去を知れば孤独になるも無理はないと思うだろう。


〈オ嬢様、寂シクナイ?〉


「そんなの端からありませんわ。それに……フォルがいてくれれば充分ですの」


名前を呼ばれたフクロウ型探索機のフォルは感情を表すように不規則に宙に浮かぶ。主従関係なのにまるで家族と会話する不思議な雰囲気だ。


「やあやあ、生意気なヒューマンのガキ」


が、それをぶち壊す一人の異種族が彼女の前に佇む。縦に長い顔に伸びる舌と尻尾、妖艶に輝く青黒い鱗が彼を蜥蜴人(リザードマン)と呼ぶに相応しい。彼女は露骨に不機嫌を顕にした。


「ゲス野郎がなんですの?」


「ゲス野郎とは心外だな。俺は君の恩人なんだぜ?」


「どこがですの? 宝石を分けたくらいでいい気にならないでほしいですわ」


シトラと別れたあと金髪少女は迷宮を彷徨い宝石のある中央に辿り着けなかった。いや、正確にはあと一歩のところで蜥蜴人に遭遇してしまい、交渉という形で邪魔されたのだ。


「相席いいかい?」


「嫌ですわ。他の空いている席に座ってくださいまし」


ガラーンと空いた食堂を見渡し、金髪少女は蜥蜴人を一瞥する。


「悪いが拒否権はないぜ。まあ、相棒が爆発してもいいなら断ってもいいが」


金髪少女は更に不機嫌さを増した。しかし、フォルに取り付けられた黒い球体を見て固い口をゆっくりと開ける。


「……いいですわ」


蜥蜴人はわざとらしく笑みを浮かべて対面に座る。


「自己紹介がまだだったな。俺は蜥蜴人のクロニスだ。で、お前の名前はなんだ?」


「あなたに名乗る名前はありませんわ」


「ほういいのか? 相棒が爆発しても」


「……っ」


金髪少女は拳を強く握り締める。沈黙が金髪少女の最後の抵抗だ。名前を知られたら最後、駒として扱われるだろう。利用されるなら名のないヒューマン少女として自身のプライドを守ろうとする。


「まぁいい。名前がなくても呼び出せるしな」


クロニスが名前に無頓着であったことが幸いし、金髪少女のプライドは折れずに済んだ。


「で、約束は忘れてないよな?」


宝石を貰う際、クロニスとの交渉で交わした約束。最初は金髪少女は死んでもやりたくないと拒んだが、フォルを人質に取られた時点で受けざるを得なくなってしまった。


「あなたに一度だけ協力する、それが終わったらフォルに付けた爆発を解除してくれるんでしたわね」


「ああ、そうだ。もちろん無理難題は押し付けないぜ」


「あら、ゲス野郎にしてはお優しいことで」


「ハハ、俺は出来ないことはやらせない主義なんでな」


食べ終わった弁当を持ってクロニスは立ち上がる。金髪少女は立ち去る彼にギリギリ触発しない程度に煽情する。


「他の合格者を摘みにいきますの?」


「そんなことしたら失格になる。まぁ試験中は話は別だがな」


クロニスは背を向けて去っていった。緊張が解けた金髪少女は椅子にぐったりと背を預ける。


〈スミマセン。私ガ不甲斐ナイセイデ、オ嬢様ニ多大ナ迷惑ヲ〉


「私が油断したせいですの。フォルに非は全くないですわ」


金髪少女はフォルを抱き締める。大事な宝物のように。思い出を守るように。最後の希望のように。


「必ず……必ず救いますから」

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