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星々の旅々ーThe stars of Shitoraー  作者: レモンパンチ
第1章 旅の始まり
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第23話 機転と合格

「宝箱の中身空っぽだぁ」


隅から隅まで宝石が挟まってないか探す。

あれからモルフが歩けるまで回復したのを皮切りに宝箱のあった中央に戻ってきた。けど中身は小さな木片だけだった。


「この木片が宝箱の中身だったことに出来ないかな?」


「無理だろう」〈無理です〉


二人の辛辣な言葉に一周まわって清々しく感じる。


「審査員は分かっているはずだ。それに宝箱はこれ以外見掛けてない」


〈ミミナキなら沢山いましたが〉


「……今更だがシトラの探索機って会話できるんだな」


ゼナと当たり前に喋っていたせいでシトラは首を傾げる。


「そうだけど。それがどうかしたの?」


「いや、会話できる探索機に驚いただけだ」


「そう。モルフは探索機持ってないの?」


「持っていない。というより獣人は五感に優れているから不要なんだ。まぁ携帯は必要だが」


確かにそうだ。故郷の星でさえ携帯を使っていたのだからその重要性が分かる。もっとも私の使っていた携帯は最新版の百世代前だったが。

ちなみに今は五十万の最新モデルを使っているけど。


「日もだいぶ落ちてきたな。あと数十分といったところか」


「うーん、かくなる上は宝石を半分にするとか」


「出来たとしても失格になりそうだ。ならせめて一人だけでも合格させる方が賢明だ」


モルフは宝石を私の前に差し出し、首を縦に振る。


「持っていけ。死ぬはずだった俺が持っていても仕方ない」


「要らないって。それと生きてるんだから持ってる意味あるからね」


強情な二人はどちらも譲らない。結局無駄な時間を過ごし、タイムリミットがちゃくちゃくと二人を追い込む。


「二人で合格になる方法ないかな」


「ない。諦めて受け取れ」


「やだ。絶対にぜーたいに受け取らない」


「強情だな。お前んとこのご主人は」


モルフはゼナに視線を向ける。もちろんゼナはシトラの性格をある程度分かっており、それに共感してゼナは頷いた。


〈強情で、お人好しで、欲望に忠実で、いいご主人です〉


「違いないな」


「二人とも。そんなこと言ってないで何かいい案考えて」


「そう言ってもな。宝石を見せなきゃ合格できないだろう」


〈モルフの言う通りです。フリュルは持っていなければ失格になると言っていました〉


二人に気圧されて低く唸ることしか出来ない。


「偽物とか持って……」


〈偽物を持ってくると失格になります〉


「じゃあ、宝箱にこれ入ってましたっ言えば」


〈宝箱に入ってないものは失格になります。というかすぐバレます〉


液体のように溶けるシトラに二人は呆れるばかりだ。決断の時が迫ってくる。もはや最善を選ばなければならなかった。


(宝箱の中身があればなぁ)


希望的観測にシトラは諦めを抱き始めた。


「宝箱が宝石に変わったら良かったんだがな」


〈そんな超常現象は起きません〉


何気ないモルフ達の会話に何かが引っかかる。

宝箱が宝石に変わる? なんともおかしな話だが、話を整理してみると不思議とある言葉とリンクする。


「ゼナ。フリュルが話した失格になる話を覚えてる?」


〈はい。一語一句覚えています。それと念のためと思って録音もしてあります〉


「うちの探索機、優秀すぎない?」


探索機の大会があったら間違いなく優勝する気がする。とりあえず時間もないので録音をやや早送りで聞いた。

すると点と点が繋がって思わず口元が緩んでしまう。


「よし。合格しよう」


「なんだ。宝石を受け取る気になったのか」


「うん、受け取るよ。でもそれでモルフが失格になることはないから安心して」


「……どういうことだ?」


訳の分からない発言にシトラはニヤリと髪を揺らす。そしてモルフに二人で合格する作戦を口にした。その馬鹿げた作戦にモルフは目を丸くして思わず額に手を当ててしまう。


「正気かお前」


「百パーセント正気だよ。大丈夫だって。出口も把握してるし、必ず合格できるから」


「……失敗しても一人は合格できるからそれでいいか」


発想、機転、頭の回転スピード、躊躇なく実行する胆力と判断力にモルフは畏怖する。だが、同時に賞賛した。彼女は必ず開拓者になると心の中で確信したのだった。



◆◆◆◆




「そろそろ時間だニャ」


残り数分に差し迫ったタイマーにフリュルは迷宮の出口から視線を外す。


「合格者は二十八人。例年より多い方かニャ」


毎年、コスモス社の創設者の意向によって試験内容は変わるものの一定人数より下回ることは滅多にない。もちろんその逆もまた然りだ。


「帰ってポテポテでも食べようかニャ」


フリュルは片付けに早速取り掛かろうとする。すると軽い地鳴りが聞こえて無意識に視線を音のする方に向ける。


「着いたぞ!」


狼獣人モルフが出口から飛び出してフリュルの近くに勢いよく着地する。


「派手な登場だニャ」


タイマーを覗くと残り数秒の寸前で狼獣人は辿り着いた。


「約束のもの持ってきたぞ」


モルフは息を巻いてそれを地面に置く。獣人は豪快で脳筋、そしてプライドが高い奴が多いのだが、この狼獣人は一際極まっていた。


「競争心が抑えられなかったのかニャ?」


「答える義理はない」


冷たい奴とフリュルは心の中で呟いてそれを隈無く確かめる。どうやら本物のそれでフリュルはニヤニヤと軽く笑う。


「まさか宝箱ごと持ってくるとはニャ。よっぽど合格したいみたいニャね」


「……」


モルフは言葉を返さない。フリュルもいい加減彼が冷たい一匹狼と思うのも無理はなかった。


「さ、とっとと合格者はあっちに行くニャ」


「待て。宝箱の中身は確かめないのか?」


「みゃはあっちこっち回って疲れたニャ。宝箱の中身見る元気ないニャ」


「それでも審査員か? いいから中身を確かめろ」


モルフの威圧に気圧されてフリュルは渋々宝箱を開けようと手を伸ばす。途端、宝箱が勢いよく開き、驚くフリュルは思わず尻もちをついた。


「ぷはぁ! 流石に酸欠で死にそうだったよ」


中から汗まみれの銀髪美少女ことシトラが飛び出す。予想外すぎる光景にフリュルは目を見開き、審査員であることを忘れて聞いてしまう。


「なんで宝箱の中にいるの!?」


「え? ああ、全員合格するためです」


キョトンと目を丸くし、思考が停止してしまう。少ししてフリュルは首を横に振り、大声で叫ぶ。


「いやいやいや! 合格のために宝箱の中にいる必要ある!?」


フリュルの言うことはもっともだ。宝箱の中にいても合格できない。宝箱の中にある宝石を持ってこなかったら失格になってしまうからだ。


「宝石は持ってるんだよね?」


「ありますよ。一つだけですけど」


シトラはポケットから宝石を取り出す。しかし、一つだけだ。結果として二人のうち一人だけしか合格できない。けれどシトラはゼナが録音した一部流す。


〈「でも何も持ってこなかったり、偽物や宝箱に入っていないものを持ってきたら即失格ニャ」〉


録音の声にフリュルは落ち着きを取り戻し、首を傾げる。


「みゃの声ニャね。それがどうしたニャ?」


「フリュルさん、言ってましたよね。宝箱に入っていないものは失格だって」


「そ、そうニャけど」


「なら宝箱に入っているものなら失格に出来ませんよね?」


「言ってる意味わかんないニャ」


横で見ていたモルフは頭を掻いて口を開く。


「宝箱の中身がシトラってことだ」


「それなら宝箱に入っていないものに含まれるニャよ?」


「そうか? ちゃんと宝箱に入っていたのをお前は見ただろう?」


フリュルはようやく理解する。シトラ達の奇想天外な企みにワナワナと震える唇で言葉にする。


「中身を見せるためにわざと宝箱ごと持ってきたニャね!? みゃは宝箱に入っていないものしか縛っていないことに気づいて!」


シトラ達は口の端を上げてこくりと頷いた。

するとフリュルは顔を手で押さえて視線を下に向ける。


「こんなことって……こんなことって」


フリュルの顔が暗くなるにつれてシトラ達は身構える。認めない、もしそれを口にしたら……


「にゃ、にゃはははは! いや〜久方ぶりに愉快に笑えたニャ。でもそれなら中身が君じゃなくて探索機とか入れてもよかったニャよ」


確かにそれもありだったと今さらながら私は気がつく。残り時間が少ないこともあって、焦って自分が宝石の代わりのなると息巻いてしまった。


「君達の名前は?」


シトラから順に名前を口にする。


「ヒューマンのシトラです。こっちは探索機のゼナ」


「俺は狼獣人のモルフだ」


うんうんと頷き、二本の尻尾を交互に動かる。フリュルは彼女達を認めた。意外すぎるその発想と知恵を。


「シトラ、モルフ。二人は私に斜め上の『知恵』と『能力』を示した。お見事だニャ」


喝采の拍手を送り、彼女は二人に告げた。


「二次試験合格だニャ」


それからシトラ達は嬉しすぎてフリュルの鼓膜を破るくらいに雄叫びを上げた。

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