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星々の旅々ーThe stars of Shitoraー  作者: レモンパンチ
第1章 旅の始まり
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第21話 動く迷宮

「チキショ。絶対あとで泣かせてやる」


〈威勢はいいですが、そろそろ取れそうですか?〉


ドリルで氷を削るゼナを尻目にシトラは涙目で喚き散らす。ゼナにため息機能があったら間違いなく大きなため息をついていた。


〈まさか生体反応を騙す光学迷彩スーツを着ていたとは予想外でした〉


「ふーん、そんなのあるんだ」


〈はい。コスモスネットによると相場二千万する防護スーツだそうです〉


「私の十倍する値段じゃん。くそぉ金持ちパスタ女め。うらやまけしからん」


あのパスタ女め。今度会ったら身ぐるみ剥いで裸釣り(下着は残す)にしたあと「ごめんなさい、シトラ様」って言わせてやる。

……にしてもあれからどれくらい経ったっけ。軽く一時間くらいは過ぎていそうだけど、未だ氷が溶けないってどんな氷だよ。


「うん?」


対面の壁にゼナが描いた私の自画像が見える。

いつの間にか私の目を盗み絵をゼナは描いていたようだ。


「ちょっとゼナ。絵なんて描いてないで早く氷削って」


〈はい? ゼナは先ほどからずっと氷を削っていますが〉


「え? だってほら対面の壁ゼナの絵が」


それはそれは絶世の美少女の絵画が。そしてその横にイカのような惨めな落書きが……ってうん?


「何で私の描いた絵があるの?」


私が氷から解放されるか、分身するか、ゴムのように手が伸びなければ描けない。なのに最初のマーキングとそっくりな絵に違和感を覚えた。


「……まさか」


私は確かめるために下を向く。こうして氷漬けにされたのはある意味幸運だったと言えるかもしれない。しばらく観察して私の予想は当たった。


「やっぱりこの迷宮は動いてる」


人の目には捉えれない超低速で動いている。

迷宮は生きている、そう思うほど大規模に壁が動いていたのだ。つまり迷宮は随時形を変えている。


「うーん、分かっても意味ないんだよね」


動いてるからどうした。でも迷宮が絶え間なく通路を変えているなら最終的に人はどこに流れつくのだろう。


「迷宮が私にならどうするかな」


もし私が迷宮で宝箱を守るならどうするか。

まずはトラップを仕掛ける。でも一部の人は掻い潜るだろう。

モンスターを仕掛ける。でもいずれ倒されて足止めにしかならない。

迷宮を絶えず形を変える。でも時間を掛ければ辿り着くだろう。

ならどうする? 宝箱に辿り着かせない最適な方法は?


〈ご主人、そろそろ抜け出せませんか?〉


「無理だよ。自力脱出なんてまだ遠い。こうなるんだったら最初から食らわなければ……」


するとカチリと歯車が綺麗に嵌り、ゼナに慌てて指示を送る。


「ゼナ! 急いで氷を壊して!」


〈やってます。ですがあと一時間ほど掛かります〉


「それじゃあ間に合わない! 要所だけ削ってあとは私がゴリ押しするからお願い!」


〈了解しました。ご主人の手を傷つけたくありませんが、致し方ありません〉


ゼナはもう一つドリルを装着して超回転させる。


〈覚悟はよろしいですか?〉


「ドンと来い!」


当たらないギリギリのラインを攻めてドリルの刃を突き立てる。刻々と迫る時間にある場所に向かっていることに焦りを覚えた。


「ふん!」


渾身のフルパワーにミシッと氷に亀裂が走る。


〈その調子です、ご主人〉


ミシミシと亀裂が稲妻のように走り、泡が弾け飛んだように氷が粉々に吹き飛んだ。


〈流石です。ではもう片方を〉


「そんな時間ない」


私は電磁銃を氷に向けて出力を上げて撃ち込む。電磁銃は超高熱のプラズマのため近くで撃てば鉄すら溶かす温度になる。

最悪左手が使えなくなることを想定していたが、それは杞憂に終わり氷は溶けて軽い火傷で済んだ。


「よし。ゼナ、中央を目指すよ」


〈中央、ですか? この巨大迷宮の中央がどこにあるか分かるんですか?〉


「もちろん。それよりもここから早く逃げないと出口に着いて不合格になっちゃう」


ゼナの思考回路は混乱が生じて軽いショートを起こす。


「あとで説明するから今はこの通路から脱出するよ!」


訳も分からずシトラの背を付いていくゼナ。

先ほどゆっくり動いていた壁が今は目で捉えれる速度で動いている。


「あった! あの通路を通れば!」


壁を伝って今にも閉じそうになる道を指す。全速力で地面を蹴り、持てる最高速度で挑戦する。


「間に合え!」


ゼナを片手で掴みスライディングで僅かな隙間を通る。やがてバタンと道が閉じ、息を上げて空にガッツポーズする。


「はぁ、はぁ、間に合った。これで二次試験合格できるかも」


自信満々に告げるシトラとは反対にゼナはある疑問が残っていた。


〈ご主人、出口に着くとはどういうことですか?〉


「うん? ああそうだね」


シトラは起き上がり、壁にマーカーでそれっぽい図形を書く。


「この迷宮は侵入者をわざと出口に向かわせてるんだよ」


〈それはどうしてですか?〉


「えーと、たとえ話するね。ゼナ、すごろくって知ってる?」


〈確かサイコロを振ってゴールを目指すゲームでしたか〉


「そうそれ。必死にゴールを目指してサイコロの出目が大きい数字になるのを祈る、運試しには持ってこいのゲームだ」


〈ご主人、話の内容が見えないです〉


「ごめんごめん。まぁどのゲームにも言えるけど、やってるプレイヤーが一番嫌がるものってなんだと思う?」


〈すごろく……どのゲームにも言えること?〉


「答えは『振り出しに戻ること』。すごろくならゴール手前でスタート地点に戻ったら悔しいどころか無気力感にならない?」


〈……確かに努力していたものが水の泡になると喪失感に陥りますね〉


「まぁそんな感じ。つまりやる気を削がれるってわけ。で、何も持たず出口に着いたら試験は失格扱いになるから迷宮に戻って来れないんだよ」


謎は解けた。リタイア者の回収、いなくなった人は知らず出口に着いているはずだ。あとはトラップに引っかかった人だけど、多分出口付近に押し流さされているだろう。


「出口は分かった。宝箱の在り処も間違いなく中央近くにある」


〈そうでしょうか〉


「間違いない。だって一番手の届かない場所に財宝は眠ってるから」


そう。あれは私達に内緒でお母さんが大事に取っていた高級お菓子の在り処。手の届かない棚の奥深くに眠っていて、手に入れようと必死に策略を巡らせたのはいい思い出。

取る瞬間を見られて叱られたけどね。

まぁつまりは壁の起点となる中央にあるのだ。


「そうそう。中央がどこにあるかだけど、動く壁の方向の真逆にあるよ」


〈どうして分かるんですか?〉


「だって壁は外側に向かって動いてるから。出口付近の動かない壁を見て確信したよ」


〈なるほど。洞察力に優れていますね、ご主人〉


「えへへ、今日は冴えてるからね」


火傷した左手に傷薬を塗り、軽く包帯を巻く。銃のバッテリー弾倉をチェックして準備を整える。


「じゃあ、反撃に出よっか」


〈ゼナはご主人をサポートするまでです〉

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