第20話 金髪少女再び
あれから随分と時間が過ぎて日が少しずつ傾き始めた。残り数時間といったところか。
「にしても宝箱見つからないね」
私は携帯食を口にしつつ辺りを見回す。ちなみに携帯食は栄養重視の四角いブロックのため味は無味だ。
〈ミミナキなら何度か見掛けましたが〉
「開けたら襲われからね。にしても他の人あまり見掛けなくなったなぁ」
長時間歩いて最後に会ったのはあの狼の獣人。迷宮のトラップに飲み込まれたのか、それともリタイアしてもうこの迷宮にいないのか。
「リタイアしたらどうやって回収するんだろう」
空からじゃ回収無理だし、ただでさえ広い迷宮を走り回るのは骨が折れる。いくら開拓者でも特別な機械でもない限り不可能だ。
「壁に穴開ける機械でもあるのかな?」
〈それだったら一度くらい見掛けるでしょう。それにこの壁、最硬金属オレイカルコス並に硬いですよ〉
ゼナはダイヤ並の強度を誇るドリルで穴を開けようとするが、カキーンと弾かれる。
「レーザー光線とかで」
〈オレイカルコスの融点は2000万℃になります。専用のプラズマ光線でもない限り不可能です〉
「うへぇ……ずるは許さない意志を感じるよ」
壁を伝い、時折マークを描いて探索を続ける。
同じ光景に気がおかしくなりそうだが、怒っても泣いても狂っても現状解決にならない。
地道にマーキングして出口と宝箱を見つけなければこの迷宮から脱出は不可能だ。
「うん?」
ふと通路の遠くに黒い物体が浮いている。
「ゼナ、生体反応ある?」
〈ないですね。あれは何かの装置か、機械か、或いは宝箱なのかもしれません〉
「了解。宝箱なら嬉しいんだけどね」
慎重に一歩ずつ忍び寄る。輪郭が近づくたびはっきりなっていき、一定の距離まで近づいてシトラは歩みを止めた。
「……目玉のでかい機械?」
くるりとした目と漆黒の装甲に包まれた謎の機械。でもこの形状どこかで見たことがある。確かフクロウだっけ。旅人さんの絵日記に描かれていて、気になって聞いてみたら夜目がきく鳥だとか。
見た目が美しいから密売が横行して宇宙法律がうんたらかんたらなって、代わりにフクロウに似たロボットが作られたらしい。
「でもこれロボットじゃないよね」
愛玩用ロボならこんな危険地帯に放置するはずがない。多分これは探索機だ。あと……周りは若干湿ってるし、このフクロウの装甲が妙に歪だし、誰かがずっとこっちを見てるような感じで……
〈対象ガ範囲内ニ入リマシタ〉
カチッと一つの装甲が地面に落ちる。シトラが警戒を緩めた一瞬を狙ったようにタイミングが完璧だった。
〈ご主人! 目を瞑ってください!〉
ゼナは気づいた。その装甲が何なのかを、探索機と同じ周波数を持ったフクロウの正体を、突如として生体反応が現れたことを。
「っ! ゼナ隠れて!」
僅かに遅れてシトラも気づき、後退する。しかし、コンマ数秒にも満たない遅れが彼女の運命を決めた。
「ううっ!?」
強烈な閃光と爆裂音がシトラの視覚と聴覚を奪う。迷宮のトラップならシトラは容易に回避できただろう。しかし、人が作った罠なら話は別になる。
「まずは両手」
プスプスと音と共に手に冷たい感触が襲う。
「次に足を凍らせて差し上げますわ」
視界が真っ白になりながらも必死に気配のする方に足を蹴る。すると硬い何かに当たり小さな悲鳴が僅かに聞こえた。
「誰!? そこにいるやつ!」
必死に銃を構えようとしたが、まるで壁に固定されたように両手は動かない。早めに瞼を閉じたおかげで視界が徐々に回復していく。
そして視界が明けた瞬間、痛そうに腕を抑えてこちらを睨む金髪のあの女がいた。
「なんであんたがここにいるの!?」
「それはこっちのセリフですわ! 芋女!」
「い、いも!? ぱ、パスタ女がここにいるだけで不愉快極まりないね! バーカ!」
「は! それを言うなら今の自分を見てから言ってくださいまし」
何をと思ったが、手に目をやると壁に氷漬けされていた。つまるところ油断してパスタ女に壁に貼り付けにされているのだ私は。
「卑怯最低パスタ女! 正々堂々タイマンはれぇ!」
「あいにく私はパスタ女ではありませんの。タイマンは張れませんわ」
「はぁ? その髪見てからいえ。というか今すぐ氷を溶かせ」
「嫌ですわ。コケにした分やり返さないと気がすまない性分ですので」
金髪少女は銃を拾い上げてシトラに向ける。
引き金を引いて全身氷漬けにしようとするが、カチカチと鳴るだけで露骨に眉を寄せる。
「銃口がダメになりましたわ。まぁ捕らえた時点で私の勝ちですが」
シトラは「グギギギ」と唸るが金髪少女は目もくれず腰にかけていたもう一丁の銃を取り出す。
「実弾は使わないつもりでしたが」
弾倉を装填し、カチリと鳴って銃口をシトラに向ける。
「安心してくださいまし。私の質問に答えてくれるなら殺しはしませんわ」
「それって答えなきゃ殺すってこと?」
「どう受け取るかあなた次第ですわ」
立場が完全に上と下に分かれる。こうなってしまえばシトラは答えざるを得ない。
「それと嘘をついたら即脳天に弾丸が撃ち込みますわ。言葉には気おつけて下さいまし」
「ふん。誰が答え……」
私の頬に弾丸が掠めた。
「二度はないですわ」
「……分かった早く質問して。そして今すぐ氷溶かせ」
一言「嫌ですわ」と添えて質問を口にする。
「あなたは宝箱の中身を持ってるかしら?」
「ないけど。まぁ宝箱自体、見つけれてないんだけどね」
「ふーん、では迷宮の出口を見つけたかしら?」
「見つけてない。というか目星すらない」
「はぁ、田舎育ちは思慮に欠けていますこと」
「はぁ? 私に聞く時点であんたも見つけれてないってことじゃん。思慮に欠けているならそっちも同じだよ」
バンと怒りの弾丸がシトラの髪を掠める。
「私が絶対ですわ。口答えするなら次は胴体に風穴開けますわよ」
「はいはい。どうぞ質問してくださいませ、女王様」
怒りメーターが宇宙の果てまで振り上がりそうだったが、こめかみ部分に怒りマークをつけて必死に抑える。
「最後に他の人と会ったのは何時間前かしら?」
「うーん、二時間前くらいに狼の獣人と会ってそれっきりだったよ」
「……嘘ではないですわね?」
「嘘ついて風穴空くより正直に答えた方がマシでしょ」
「あら芋女にしては賢明な判断ですこと」
堪忍袋の緒が劣化ゴム並に切れそうになるもシトラは胃袋に押し込んだ。
「あんた、私以外で人に会ってないの?」
「質問する立場かしら」
「質問しちゃダメって言ってないでしょ。それにあれだけの人数がいて突然会わなくなったの不自然だと思わない?」
パスタ女は唇に手を当てる。
「それに情報共有して何かきっかけが見つかるかもしれないじゃん」
「……口車には乗せられませんわ。でも、私も二時間前に人とぱったり会わなくなりましたの」
シトラは目を見開いた。二時間前にあれだけの人が忽然と姿を消した。仮にトラップで引っかかったとしても万を超える人数が突然いなくなるとは思えない。
となれば考えられるのは三つだ。
「迷宮で彷徨っているか、ゴールしたのか、或いは何かに連れていかれたか」
二人は背筋がゾクッと震える。
「リタイアして開拓者に連れていかれたんじゃないですの?」
「そうだといいんだけど。でもそうなるとどうやって開拓者はリタイアした人を救出したんだろうね」
「……」
「……」
未知という恐怖が二人を襲う。金髪少女はそれを跳ね除けるように金髪を手で靡かせて鼻息をついた。
「ふん。何が来ようと私は進むだけですわ」
〈流石オ嬢サマ。私ニ出来ナイコト平然トヤッテノケル〉
「当たり前ですわ」
フクロウ探索機が片言で褒め称える。というか普通に会話できるのかその探索機。
「あ、待って! この氷溶かしてから行ってよ」
私は必死に訴えるがパスタ女は嘲笑うように手を手を口に当てる。
「自分の身は自分で何とかしなければいけませんわよ」
「あんたがやったんだよこれ!」
「私は先を急ぐので無理ですわ」
パスタ女は背中越しに顔を横に振り向く。
「それと光学迷彩で隠れている相棒が何をしようと関知はしませんわ」
そう言ってパスタ女は私の視界から消えた。




