第12話 試験開始
「流石に緊張するなぁ」
昨日来たはずなのに今は別の建物に見えるのは気のせいだろうか。
完全フル装備とはいえ、この先何が起こるか分からない。
〈ご主人、肩を揉みましょうか?〉
ゼナはナビゲーターだ。ご主人をサポートしてこそ探索機の鏡である。
「大丈夫。ゼナに心配されるほどヤワじゃないよ」
ここまで来てしまったんだからやるだけやってみよう。
それに旅人さんも通った道と思えば少し気が楽になるはず……
「よし! 行くぞ!」
両頬を叩き、じーんと痛みがありつつもいざ入店。他の客から見たら気合い十分に探索機を厳選する客にも見えるだろう。
〈いらっしゃいませ。お一人様ですか?〉
接客ドローンはいつも通り接客する。特に怪しい挙動はなく、何も言わなければ普通に去ってしまうだろう。
「一人です」
シトラはありのまま答える。
〈ご見学ですか? ご購入をご希望ですか?〉
前は見学と言ってしまい、ただの客として扱われた。だが、今の私はただの客じゃない。
「コスモス製の探索機メテオル三台。拡張機能オールロックと深度測定を二台につけて、視覚拡張とモジュールバッテリーを一台にお願いできる?」
一見、小難しい注文をする客に見えるが、これはある場所に案内してもらう合言葉だ。
〈期限はいつまででしょうか?〉
「私の気分が変わる時まで」
〈分かりました。ではご案内します〉
接客ドローンについて行き、奥の方にある関係者が使うエレベーターに案内される。
〈ご健闘をお祈りします〉
エレベーターは固く締まり、淡い光が私とゼナを照らす。少し間をおいてガタンと自動で下に降りていく。
「本当に案内されるとは」
半信半疑だったけど、あのポスターに書かれていた合言葉が試験会場の鍵になっていた。
オルバスに教えてもらってなかったら辿り着けなかっただろう。
「ゼナも緊張してたりする?」
〈ご主人、ゼナは探索機です。感情という不安定要素は搭載されてません〉
「えーお喋り機能あるんだから感情豊かに喋ろよぉ」
〈……善処します。ですがゼナが探索機であることをお忘れなく〉
機械だから冷たいのも仕方ないのかな。でもせっかく喋るんだからその分喋ってやろう。
〈ご主人、そろそろ着きます〉
「おっけー。ゼナも準備してね」
キーンと音と共に扉が開く。外は暗闇に包まれており、一点の光すら届かない。シトラは足を踏み入れると扉が閉まり、奥から照明ライトが灯る。
「よくぞ来た。知恵ある突破者」
赤髪少女が背を向けて語りかける。
「しかし、驕るな。まだ本試験ですらない。お前が一次試験を受けるに値するか審査してやる」
くるりと振り返り幾度も練習してだろう厨二病全開の決めポーズでゆっくりと瞼を開く。
「このレッドアイがうぇぇええ??」
レッドアイことココナは思考回路に不具合が生じる。来ないだろうと思っていた少女が怪訝にこちらを見つめて顔パーツが熱暴走を起こした。
「な、な、なんでここに!?」
「なんでって、試験受けに来たんだけど」
「し、試験を受けに? 開拓者になりたくないって言ってたのに?」
「気が変わったんだよ」
嘘である。宇宙船が一秒でも早く欲しく、手っ取り早く入手できるのが開拓者になることであった。つまるところ欲望全開なのだ。
「それで試験はどんなの?」
困惑と嬉しさが混ざり合い表情が調整できず素が出てしまう。コホンとココナはわざと一息ついて必死に冷静を装うのが精一杯だった。
「え、えーと試験は……そう! 試験は私と戦って一度でもダメージ与えたら勝ち」
「……もしかして今思いついた?」
「そ、そんなことない、うん断じて」
嘘である。ただのヒューマン少女がどれほど実力があるのか気になって戦いたいバトルジャンキーである。つまるところこっちも欲望全開なのだ。
「まぁいいけど、間違っても殺さないでね?」
「殺したら師匠にお仕置される。だから心配しなくていい」
ココナはどこか嬉しそうだ。シトラと戦うのが楽しみなのか。はたまたお仕置されるのが嬉しいのか。どちらにせよ変態に変わりない。
「シトラはどんな武器も装備も使ってもいい。私は武器を使わない」
「凄い自信あるんだね。その鼻へし折ってあげようか?」
「フフフ、ああ、シトラが負けたら一つお願い聞いてほしい」
「いいけど、その代わり私が勝ったら頼みごと聞いてくれる?」
「いいよ。勝てたら」
試験なのに報酬を賭けた勝負だ。お互い譲らないことを肌で感じ、空気がピリピリと張り詰める。
ココナはポケットから金のコインを取り出すと親指に置いた。
「地面に落ちたら試験開始」
親指を上げて宙を舞うコイン。何度も回転して弧を描くとやがて思い出したように加速して落ちていく。砂埃が僅かに立ち上がり地面に当たる。するとコインはもう一度宙を舞って一丁の銃と一緒にどこかに飛んでいった。




