第11話 挑む者
シトラは今日起こった出来事をオルバスに話した。一喝、愕然、唖然といったシトラに対する扱いが徐々にあの旅人のような振る舞いになる。
子は親に似るというがどうやら旅人は旅人に似るらしい。
「オルバス」
「……なんだ。まだあんのか」
机に突っ伏しているオルバスを他所にジャンボカニバーグを平らげるシトラ。
「開拓者ってどうやったらなれるの?」
「なりたいのか?」
「うーん、手っ取り早く宇宙船を手に入れるにはなるしかないっぽいんだよね」
なるつもりなかったけど自由に旅ができて宇宙船をタダでゲットできるならなってもいいかなと心変わりしたりしなかったり。
「確かに開拓者は夢のある資格だ。だが、俺個人の意見だがあまりおすすめしない」
首を傾げるとオルバスはむくりと顔を上げる。
「あれは地獄だった。俺も一度夢見て試験を受けたが二次試験が限界だった。まぁ異種族みたいに特殊能力ないヒューマンは一次試験を突破するのもやっとだが」
傭兵時代それも全盛期だった頃のオルバスが敗走したのだ。難易度は桁違いと言えよう。
「勇気も才能も知恵も能力も運も何もかも必要だ。少しでも劣っているものがあれば最悪死ぬことになる」
四股がもげようが首をちょん切られようが生きてさえいれば死ぬことはない。最先端技術が揃う惑星ジグマなら蘇生に近い治療ができるからだ。だが、蘇生に近いだけで死者を蘇らせるのはまだ不可能である。
「やめておけ。命を捨ててまでやるもんじゃない。それこそ賞金稼ぎがマシだって思うくらいにだ」
オルバスの言う通り長い時間を掛けてお金を集めれば旅ができる。けど本当にいいのだろうか。今の私は旅がしたいって思っていて十数年後の気持ちは変わっているかもしれない。
今の溢れる気持ちにフタをしたらきっと後悔すると私は思う。
「オルバスの言いたいこと分かったよ。でも今の自分に嘘をついて遠回りしたくない」
「はぁ……どこの誰に似たのやら」
つくづくオルバスは振り回される役回りだと嘆息をつく。けれどそこに不快はない。
「これを見ろ」
バンッとテーブルに一枚の紙を叩きつける。シトラは覗くように前のめりに出る。
「『開拓者募集! 会場はこちら』ってこれ募集のポスター?」
「ああ、毎年この時期になるとコスモス社が大量に印刷して銀河中にばら撒くんだ」
「それは……どうして?」
「年に一度コスモス社は開拓者を募集する。毎日募集していたら開拓者になろうとする輩がずっとひっきりなしに来るからな」
「あーなるほど。まとめた方が効率的か」
「そうだ。それに試験は開拓者が直々に審査するのも兼ねて年一がいいと思ったんだろう」
確かにロボでもない限り毎日は無理な話だ。私だったら絶対とんずらする。
「じゃあこの会場にいけばいいってことね」
「いいや、その会場はフェイクだ」
「フェイク? このポスターが偽物ってこと?」
「紛れもなく本物だぞ。一番右下にコスモス社のマークついてるだろ?」
煌めく星を囲うように複数の円が重なり合ったマーク。コスモス製の携帯についたコスモス社と同じマークだ。
「偽物作ったりしたらコスモス社が黙っちゃいないからな」
オルバスは親指で首をグイッと横を切る。
偽物を作ったそいつらの後がどうなるか容易に想像出来てしまった。
「つまりこのポスターは本物であり偽物でもある」
「オルバス、回りくどく言ってないで本題に入って」
「へいへい。これは仕掛けが施されたポスターだ。注意深く見てみろ」
言われた通り読んでみる。
『開拓者募集! 会場はこちら』とマップに記されたマークと集合時間。特にこれといって怪しい部分は見当たらない。
「紙の肌触りやにおいはどうだ?」
「ザラザラして紙やすりっぽい? においは柑橘系がちょっとする」
そういえばなんで紙なんだろう。今の時代は電子メールが主流なのに紙媒体で宣伝は非効率極まりない。でもこの紙質どこかで ...…
「燃えない紙?」
故郷の惑星にいた時、一度だけ見たことがある。確かお父さんが商人から貰った燃えない紙を自慢げにライターで火をつけたっけ。紙は全然燃えずちょっと黒焦げになるくらいで当時の私は思わず凄いと関心した。
けど誤ってライターを落とし、家が火事になりかけて、お母さんが鬼の形相を浮かべていたのを今でも忘れない。
「そうだ。特殊な加工が施されているから炙るに最適だ」
「どういうこと?」
ニヤリとオルバスは紙を奪い取る。
おもむろにポケットからライターを取り出して炙り始めた。なかったはずの文字が浮かび上がり真の試験会場を示す。
「見てみろ」
「『開拓者募集!試験会場はこちら』って全然場所違う!」
ほぼ別方向。しかもこの場所は訪れたことがあった。
「コスモス・ナビゲーター社の支店じゃん! あそこ探索機しかなかったのに」
「まぁそうだな。誰も探索機を売ってる店が試験会場だと思わない」
「えーと、木を隠すなら森の中ってやつだね」
「すまん、わからん。もしかしてあいつの入れ知恵か?」
「そうだよ。隠すなら同じ物がいいって旅人さんが言ってた」
「……まぁいい。俺が言えること全て教えた。あとはシトラがどうするか決めろ」
さっきまで忠告して止めようとしたのにあっさり引き下がる。
「行ってもいいの?」
「人の決意を踏みにじるほど落ちぶれていねぇよ」
走り続ける者の足を掴む訳にはいかない。未来に生きる星を止めてしまったら紛れもなく傲慢なのだから。
「ちなみに毎年の合格者は三人程度だ。悪い年はゼロってこともあるぜ?」
数千万、いや数億人もいる中でたったの三人だ。これなら宝くじで一等を当てる方がまだマシと言えるだろう。
それなのにシトラの顔は曇り一つない。
「行くよ私」
「そうか。あ、そうそう。シトラが憧れてるあいつも開拓者だ」
「え、旅人さん開拓者だったの!? オルバス、知ってること全部教えて!」
目を宝石のように輝かせるシトラを落ち着かせるのに二時間も掛かったオルバスであった。




