終戦(再集結)
一方のロビンは、言伝の内容に目を見開いたまま固まっていた。
「お伝えしないのかね、ロビン」
「どうして、今更……」
「……私見だが、アーサー王陛下同様、彼女もまた、優れた先導者である、ということではないだろうか。民が血を流すことを何よりも嫌い、自らの魔力をも、そのために使わんとするような」
ハッターの言葉を耳に入れながら、これまでのことを思い出すロビン。
強大な魔力を有する彼女ならば、周辺国家の一つや二つ、簡単に火の海に変えることだって出来ただろう。しかし、実際に全面戦争まで持ち込んだのはキャメロット王国のみ。
モルガンは言っていた。これは証明だ、と。アヴァロンがより優れた国家であることの証明だ、と。彼女は、私怨に憑りつかれてばかりいたのではなく……――
「……俺はまだ、許す気はねぇ」
「承知しているとも」
大きく頷くマッド・ハッターを一瞥し、ロビンは歩みを進める。先程のモルガンの詠唱により、腕の負傷を半分ほど回復させられたアーサー王の方へと。
チェシャ猫とアリスはやや警戒したが、アーサー王はロビンを真直ぐに見つめてから、頭を下げた。
「感謝する。長きに渡り、姉上を守ってくれたこと」
「……返したり、しねぇからな」
意味の取れない返答に、アーサー王が顔を上げると、ロビンは少し睨むような視線を送る。
「モルガンは和議に応じるっつったが、それはつまり、アヴァロンはアヴァロンとして国家を残させてもらうってことだ。お前が何を言ったって、キャメロットには戻らせねぇ。モルガンは、アヴァロンの頭だ」
「ああ、それが良い。これからも、姉上を支えてくれ」
***
その後、荒野での戦いを終えたランスロットとパーシヴァルが合流した。アーサー王は彼らに、ドラキュラ伯爵への伝言を託す。
命令を受けた騎士二人は、ドラキュラ伯爵と人狼サーヴの「終わらない戦い」を中断させ、アーサー王からの指示を伯爵に伝えた。
伝言の通りに眷属を使い、伯爵はハートキングダムにて待機していた宰相マーリンと連絡を取る。
そして、大魔法使いマーリンはアーサー王の意思を汲み取り、拡声魔法にてキャメロットおよびアヴァロン全域に「終戦宣言」を発布したのであった。
『キャメロット、アヴァロン、両国民は直ちに剣をおさめよ。キャメロット国王アーサー、アヴァロン女王モルガン、双方和議による終戦に合意した』
どこからともなく響き渡るマーリンの声に、アリスも思わず上空に目をやり、きょろきょろと見回した。まるで森の至る所にスピーカーが設置されているかのようだ。
モルガンが和議に応じたことで、ロビン・フッドも暴れなくなり、マーチ・ヘアの手当てを大人しく受けている。ラモラック卿は気絶した状態で近くの幹に縛られ、ペリノア王の遺体には弓兵たちのマントが被せられていた。
「ふむ……マーリンのおかげで争いは鎮静化しているようだが、現状両王とも重傷だ。急ぎ医療設備の整った場所へお運びせねばなるまい」
「手頃なのはリスティス城かな? 今あそこを仕切ってるのはアグロヴァル卿だけど、話の通じやすいトー卿もいることだし。ただ問題は、馬が一頭しかいない」
チェシャ猫の言う通り、この場にはペリノア王が乗ってきた馬しかなかった。さらに、運ばなければならないのはアーサー王とモルガンだけではない。ロビン・フッドの怪我も相当酷く、できれば歩かせずに運びたい。また、今は気絶しているがラモラック卿も捕縛したまま連行すべき対象であった。
「……いや、どうやら解消されそうだ」
マーチ・ヘアが山道の方に目を向ける。
と、そちらから聞き覚えのある声が複数、近付いて来た。
「だーかーら! 決着ついてねぇっつってんだよ!! ロープ外せ!!」
「聞こえたじゃないすか、さっきのマーリンさんの宣言」
「つーかいつまで吠えてんだよ、うるせぇな」
「与えられた魔力から派生した才能のようなものさ。サーヴの有り余る体力は」
現れた4人の姿に、目を見開くアリス。
ラモラック卿と同様ロープで捕縛された人狼サーヴ、それを馬上から引くパーシヴァル。そして、パーシヴァルとは別の馬に乗るランスロットと、また別の馬に気絶しているリトル・ジョンを乗せて引いてきたドラキュラ伯爵。
「無事で良かった、皆さん……」
ところどころ傷があったり、服が破れていたり、赤黒いシミがあったりと、激しい戦闘があったことは想像に難くないが、もう一度「御一行」の面々に、しかも誰一人欠けることなく会えたことが、アリスの目頭を熱くさせた。
「アリス嬢、君の方こそ、無事で何よりだ」
目を潤ませるアリスの手を取り、初めて会った時のように手の甲にキスを落とす伯爵。
「君のくれた血が、私を救ってくれた……本当に、怖い思いをさせてしまったね」
「いえ、そんな……あの時は、必死だったので」
「つーか何でモルガン様まで倒れてんだよ! おい、ロビン! どーなってんだ!! ああ!?」
「……和議に応じるってよ」
「は? マジで、んなこと言ったのか……?」
「ああ」
大人しくその場に座ったまま小さく答えたロビン・フッドに、サーヴも言葉を失った。
場が鎮まったことで、マッド・ハッターが状況整理を始める。
「これで使える馬は4頭になった。両王とロビン、リトル・ジョン君、ラモラック卿、皆揃ってリスティスに迎えそうかね? それと……ペリノア王のご遺体も運ばねばなるまいか」
「馬に二人乗せられなければ、私が運ぼう」
「体力はもつのか、伯爵」
「リスティスまでならば問題ないさ」
怪我人(と言っても、場にいるほとんどの者が怪我をしているので重傷の者達のみ)が、次々と馬に乗せられ運ばれていく。チェシャ猫の応急処置を受けたアーサー王も、マーリンによる終戦宣言の直後、安堵したように意識を失っていた。
「辛気臭ぇ顔してんじゃねーよ、小娘」
「ランスロット……その怪我、」
「あ? 大したことねーよ。こんぐらいでバカ弟子の洗脳も解けたんだ、安いモンだぜ」
彼の視線の先には、「バカ弟子」ことパーシヴァルの姿が。マーチ・ヘアにそれぞれの怪我の程度を聞き、馬に乗せている。
アリスはふと、パーシヴァル自身は大した傷を負っていないことに気付いた。もしや、と思い、ランスロットを見上げる。
「何だよ」
「……すごいね、ランスロット。ありがとう」
アリスが礼を言った意味を汲み取ったのだろう。ランスロットはそっぽを向いて、「誓ってやるっつったろ」と小さく返した。
「つーか、お前はどーすんだ? まだ終わってねーだろ」
「……うん」
胸元にあるマレフィセントの涙を握りしめる。そう、アリスの達成すべきミッションは、まだ残っている。そもそも目指していた「龍穴」の地点がフェイクだったのだ。
「そうか、君には改めて伝えるべきなのだな、アリス君」
「え?」
マッド・ハッターが思い出したように告げる。
「『龍穴』は確実にこの付近に存在している。だが、未だ私も直接その場所に辿り着いてはいないのだよ。私が実験で知り得たのは、このモンス・ダイダロスにおける魔力の効き具合……その散らばり方のみだ。よって、『龍穴』の位置情報は推定に留まっている」
「ハートキングダムの優秀な分析家である財務官サマでも掴めてないってことか……アリスちゃん、俺たちも一旦リスティスに戻って体力回復してから探索した方が賢明な気がするよ」
チェシャ猫もきっと、相当疲れたんだろう。それこそ、多くの弓兵相手に「専門外だ」と言っていた戦闘を秘密裏にこなしたのだから。




