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勇者アリスの異世界奮闘記  作者: 壱宮 なごみ
第1章:Road of the Drop
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意志と誓い ―勇者と騎士―

 混乱で言葉が出ないアリスを後目に、リトル・ジョンは再びペリノア王に歩み寄る。が、追撃を止めるように二人の間に身を入れる人物がいた。


「何? 退()きなよ」

「一発にしておいた方がいい。ご子息の前だ」

「関係ないね。あんただってカチンと来てるクセに」


 リトル・ジョンの身体が(背丈も含め)大きすぎて、間に入ったマーチ・ヘアの表情は、アリスの位置からでは見えなかった。聞いた感じ、声色もいつも通り。ハートの女王ならば何かしらの変化を汲み取れるのであろうが、やはりアリスにはさっぱりである。


「君の立場を考えてのことだ。仮にこれまでの窃盗が情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)の余地を得ても、領主への暴行により処罰を受けては意味がない」

「は? 俺の立場なんてどーだって……」

「どうでも良くないと、シャーウッドの彼らは思っている。昨晩の奇襲が、その証拠だ」


 あくまで冷静に淡々とリトル・ジョンを(さと)すマーチ・ヘアに、アリスはただ感心した。そしてようやく、頭の中が整理され、口を開く。


「ジョンさん、私は……誰の命も処分したくないです。それは変わらない」


 思わず振り向いたリトル・ジョンに、アリスは真直ぐ視線を返した。納得したわけではなさそうだったが、溜め息一つの後、「……お人好し」と呟いたリトル・ジョン。ホッと胸を撫で下ろしてから、アリスは場にいる全員に対して言う。


「あの、少し休ませてもらっていいですか? まだ、頭がうまく働かないみたいで」

「了解した。何かあれば呼んでくれ」

「ありがとうございます」


 気絶したペリノア王をマーチ・ヘアが担ぐ。腹部がまだ痛むのか、トー卿もよろよろと立ち上がり、「父がすみませんでした」とアリスに頭を下げてから退室した。チェシャ猫とリトル・ジョンもその部屋を去り、扉が閉められてから、アリスは両手で顔を(おお)った。


「ビックリしたぁー……」


 起こしていた半身を、ベッドにぐてんと横たわらせる。僅かに開いている窓の外から、鳥のさえずり。緑の匂いを運んでくる風。

 考えてみれば、あのような罵倒を「男からされる」というのが想定外すぎて、混乱したのかも知れない。というかそもそも、「そんな(女の武器を使って男を(はべ)らせている)つもり」はちっともないのに「そう(たぶらかしているように)見られる」可能性を、これまで全く認識していなかった。(普通の人間ではない比率が圧倒的に高いが)イケメンばかりに囲まれるのも考えものだ、とアリスは大きく息を吐いた。


 折角だから一眠りしてしまおうと目を閉じてから、数分。どうにも目が冴えてしまったようで、かと言って起き上がるのも億劫(おっくう)に感じ、無意味に寝返りを打つ。その時だった。


 ガチャ、


「えっ?」

「ああ、起きてたのか、小娘」

「ランスロット!? な、何で……」

「自分の客室戻って来て何が悪ぃ。つーか、他の連中は」

「た、多分、マーチさんの部屋に」


 自分の思考力は、思っていた以上に回復していないらしい。アリスは自分の客室が「矢の雨」で悲惨なことになったのだと、たった今思い出した。そしてこの客室の物の配置は、作戦会議をした時に見ていたのと同じ……つまり、ランスロットの部屋だということは明らかだった。


 昨晩の功労者であるランスロットは、どうやらまだ眠っていないらしい。くあ、と小さな欠伸をして、剣を壁に立てかけた。


「あ、あの! ごめん、私すぐに退くから…………うわっ!」


 慌てて起き上がり、ベッドから立ち上がろうとしたアリスは、焦るあまりバランスを崩した。筋力は戻ったといっても、突然立ち上がるのはさすがにまずかったらしい。前に倒れ込むアリスを、ドアの傍から咄嗟に反応したランスロットが、片腕で受け止めた。


「バカじゃねーの」


 なんて力強いのか、支えられながらアリスは一気に緊張する。


「どーせ起きたばっかなんだろ、寝てろ」

「うっ」


 肩を押し戻されベッドに座り込んだアリスは、「そっちこそ、寝てないんじゃないの」と尋ねた。


「俺は別にいんだよ」


 慣れてるしな、とソファに座り、ランスロットは肩や首をゆっくりと回す。彼が座ったのはアリスに対して背を向ける位置だったが、不思議なもので、後ろにも目があるような(威圧感に似た)オーラを感じる。もしかしたらソファに座った状態で仮眠をとるつもりなのかも知れないが、その前に伝えなければ。思い立ったアリスはベッドの上で正座をした。


「あのっ、昨日はありがとう!」

「賊の狐は仕留め損ねただろ」

「むしろ仕留めなかったこと。それって、ちゃんと判断してくれたってことだと思って。それと、部屋も貸してくれてありがとう」


 アリスの感謝に対し、ランスロットは返事もなく背を向けたまま。(すで)に彼の意識は夢の中なのかと、正座状態から少し体を傾け、覗き込もうとした、その時。


「結果はコレだ。その感謝は正しくねぇよ」


 ランスロットの返しが想定の斜め上をいっており、「コレ」というのが「どれ」のことなのか、アリスは正直瞬時に把握できなかった。(振り向きこそしなかったが)その様子を察したらしく、彼は続ける。


「俺が真っ先にロビンを斬り殺しとけば、毒矢なんつーモン吹かれなかった。お前の甘ったるい考えに乗じた俺も俺だが、面倒な判断して結果もマイナスならいよいよ意味がねぇ」


 ようやく気付く。ランスロットの胸中に、「反省」があることに。そして確かに、彼の言うことは正しい。

 もし宝物庫にやってきたその瞬間から、ランスロットがロビン・フッドを斬り殺すつもりだったのなら、もっと早く決着はつき、魔法石を捨てるミッションの難度も大幅に下がっていただろう。だが実際は、彼がロビンの利き腕のみ狙い戦闘不能に持ち込もうとしたために、ロビンにも余裕を与え、去り際にアリスは毒矢を食らった。リトル・ジョンの解毒剤がなければ命を落としていたとも聞いている。

 つまりアリスのランスロットに対する「ソフトな要求」が、アリス自身の命を危機に陥らせたのだ。


「それは……」


 構わない、と言いかけて、アリスは口を噤んだ。もしチェシャ猫がこの場にいたら、「構わない」と言った瞬間また膨大な嫌味を浴びせられるに違いない。しかし今回の結果に不満はない。だから考える。ランスロットが面倒な判断を(おこた)る彼に戻らないように、何を伝えればいいのか。


「……確かにそうなんだけど、今回は私、死ななかったし、セーフだよ。マイナスじゃない」

「能天気も大概にしろ」

「私のことを差し引いても、結果はマイナスじゃないよ。ジョンさんは解放されたし、シャーウッドの人たちも意識が変わった。侵入経路も見つかったみたいだから二度と盗みは行われないし、ロビン・フッドだって……これからジョンさんが説得すればアヴァロンから戻ってくるかも。ランスロットのおかげで、未来に繋がる結果を得られた」


 ランスロットに対して主張するときは、スポーツで対戦しているような気分になる。正座は崩さなかったが、アリスは若干前のめりになっていた。すると彼は大きなため息を一つついて、ソファから立ち上がる。コツコツとアリスの正面までやって来て、いつもの気だるそうな瞳でアリスを見下ろし、再び大きな溜め息をついた。


「な、何その溜め息……ひゃっ!」


 恐る恐る尋ねようとしたアリスの(あご)に、突如ランスロットの右手が添えられる。ぐっと上を向かされて、思わず変な声が出てしまった。真正面から見つめられるのはさすがに心臓がもちそうにないので、慌てて逸らそうとする。が、彼の右手の力にアリスの首の力は負けていた。顎から手を離させようと、両手で掴んでみるが、びくともしない。必死に今の体勢をどうにかしようとするアリスを前に、ランスロットは気だるげながらもどこか真剣な表情。


「未来に繋がったところで、お前がいなきゃ意味ねぇだろ」


 アリスの動きが止まる。ずるい人だ、と思った。こんな、面と向かってる位置でこちらの顔を固定して、そんな台詞を言うのだから。顔を逸らしたくても逸らせない。彼の水色の瞳に、自分の顔はどれだけ赤くなって映っているんだろう。


「えっと、ご、ごめんなさい……?」


 鈍い回転しかできない頭で、精一杯考えて、この結論に至った。ランスロットなりに、毒矢で倒れたアリスを心配してくれてたんじゃないかと。そしてどうやらこの想像は当たっていたらしく、ようやくランスロットの右手の力が弱まった。すかさず顎を引いて、俯きながら続ける。


「でも嬉しかったし、アレでいいと私は思った。あの時の貴方の剣、怖くなかったから」


 そっと見上げた先、ランスロットの目は、僅かに見開かれていて。おかしなことでも言っただろうかと自分の発言を(かえり)みようとしたアリスは、次の瞬間また思い切り顎を上げさせられた。


「なっ……今度は何、」

「お前のその強さは、一体何だ」

「つ、強くないよ! 私、ランスロットみたいに剣使えないし、この世界じゃ一人で何か出来た試しないしっ……知識も知恵も力も、借りてばっかりだから……」


 あたふたするアリスの言葉を遮るように、ランスロットは彼女を引き寄せ、抱きしめた。


「ら、ランスロット……!?」

「強ぇよ、充分」


 面白いおもちゃでも見つけたかのような、やや弾んだ声色。恥ずかしさで身体を強張らせながらも、「どうして?」と問いかける。


「大人しく守られてねぇだろ」

「それは……勇者だし?」


 直後、ランスロットが小さく笑ったのを、アリスは聞き逃さなかった。それはそうと、このハグ状態からは今すぐ解放して欲しい。


「あ、あの……」

「いーぜ、気に入った!」


 抱擁をやめた彼は、少年のように悪戯な笑みを見せ、アリスの右手をとる。


「よく聞け、勇者アリス。俺はこの先、誰の命も奪わねぇ。誓ってやるよ。他でもない、お前に」


 驚きと喜びで目を丸くするアリスの右手に、ランスロットから落とされるキス。驚きの追いうちをかけられ混乱するアリスを見て、「こんぐらいで赤くなってんじゃねーよ、小娘」と鼻で笑い、アリスの頭をぐしゃっと撫でた。



 この数時間後、アリスはいくつかの決断を迫られることとなる。当然知る(よし)もないのだが……それは、この旅の終わりと、戦いの始まり、そして歪みの目覚めへと繋がる、大きな選択。アリスを呼んだ声の主が発した、儚い願いへの「応答(こたえ)」となるのだった。

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