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勇者アリスの異世界奮闘記  作者: 壱宮 なごみ
第1章:Road of the Drop
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帽子屋の魔力講義 ―研究室にて―

 ***


 同じ頃、アヴァロンにて。ロビン・フッド帰還の知らせは、作業用の研究室(ラボ)にいたマッド・ハッターと人狼サーヴにも伝えられた。ロビンがシャーウッドのことを思って飛び出したと聞いていたサーヴは、彼がリスティスの城から何も盗らずに帰って来たことを聞き、「情けねぇなぁ」と鼻で笑った。対してマッド・ハッターは「ふぅむ……」としばし考え、納得の素振りを見せる。


 アヴァロンの女王モルガンが「マレフィセントの涙」を欲していると知り、彼はあらゆる手段をもって様々な情報を集めた。勇者アリスが石と共に現れ、その位置情報を掴んでからは、どのような魔力であるのか、どのような「干渉」が「攻撃」として有効なのかを調査した。調査の手段はいたって単純、あらゆる刺客を向かわせたのである。

 キャメロット王都には6人組の刺客を数チーム送り、チームごとに別々のエンブレムを持たせた。「涙」を発動させた者と、その者が所属するチーム――同じエンブレムを持つチーム――には報酬を与える、という条件で。しかし結果はチェシャ猫とマーチ・ヘアに阻まれ、どのチームも勇者と石には到達しなかった。

 ただ、次に送り込んだ(というより情報を流し、アリスへの干渉を(うなが)した)マルーシカは、マッド・ハッターにとってかなり良質な情報を与えてくれた。自然現象の延長とされる魔法は「現状維持」の対象にならないということ。それでも木の根で首を絞めるといった「アリスの絶命」に直結する行為は「現状維持」の対象になるということ。本当はより多くの情報を引き出してもらいたかったが、あのランスロットに斬られてしまっては仕方ない。彼女の杖に搭載していた記録媒体だけ後日回収させ、感謝を込めて(とむら)った。


 モルガンには「向こうからいずれ近付いてくるのだから焦るな」と言われていたが、マッド・ハッターはいち早く「現状維持」の発動を見て、確かめたかった。だが、なかなか思った通りに事は進まない。

 先日もロビン・フッドがシャーウッドの面々と奇襲をしに行くとサーヴに聞いたので、自分の息がかかった者を義勇軍に同行させた。アリスの部屋に「矢の雨」を降らせたまでは良かったが、ここでも「涙」の発動は見られずに終わってしまう。


「我々が想定しているよりも、取り巻きの能力が高いのだろうさ」

「取り巻き? あー、そーいやランスロットが向こう戻ったとかなんとか? つーかアレはお前が逃がしちまったんじゃねーか」

「そうだったな。あのままでは自ら精神を病み、死んでしまうかと思ったのでね。あれほどの素材をそのような原因で死なせるのは惜しいだろう?」

「敵になったら意味ねぇっつの。それとハッター、今日こそきっちり教えてもらうぜ。モルガン様が直接『涙』をゲットできねぇ理由(ワケ)


 来るたび手伝いばっかさせやがって、とぼやくサーヴに、そんな依頼受けていただろうか、と首をかしげるマッド・ハッター。しかし考えてみれば、学問や研究の類に全く興味を示さないサーヴが、理由もなく自分の研究室(ラボ)に出向くことこそ妙だ。


「ではサーヴ、こちらに座りたまえ。紅茶でも入れるとしよう」

「は? 何でそーなんだよ」

「普段書物に興味を示さない君が私の所へ『学びに』来た、そんな『なんでもないこと』をお祝いしたくなったのだよ」


 先日ロビンが予想した通り、ハッターからサーヴへの「魔力に関する講義」は数時間コースに及ぶことになるのだが、知る(よし)もないサーヴは指定された場所に座り、紅茶を用意するハッターに「熱すぎんのは飲めねぇからな」と注文をつけた。


「了解だ。さて、君の疑問に最も短く答えると、次のようになる。『モルガン様の魔力は、マレフィセントの魔力に干渉できない系統であるから』だ」

「だーからその『系統』ってのがわかんねぇんだよ!」


 サーヴの乱暴な返しに少しも動じず、ハッターは「あくまで最も短く答えた場合さ」と微笑する。その手にはティースプーンを取り、サーヴに入れた紅茶を冷ますためにクルクルとかき混ぜ始めた。


「そもそも『魔力』というものはギフトであり、端的(たんてき)に説明すると、『足が速いか否か』と等しいレベルにある。『泳ぎが得意か否か』『動物に懐かれやすいか否か』と同様に、『魔力を使えるか否か』というバロメーターに個体差があると考えればいい」

「ってこたぁ、魔力系統ってのは、何の泳ぎが得意なのかってのと同じか?」

「大変高い理解力だ、結構。現在までに確認されている系統は4種。今でこそ魔力保持者は多いが、最も古い記録は、1枚目の石碑とほぼ同時期に記された『創世記』という文献にあり、4種の魔力系統に1名ずつしか存在していなかった、とある。……ああ、クッキーはいるかね?」


 紅茶の湯気の具合からだいぶ冷めてきたと判断したハッターは、角砂糖を添えてサーヴに出す。「食う」というサーヴの返答に頷き、小皿に十枚程度のクッキーを乗せてテーブルに置いた。

 また、だいぶ気分がノッてきたのか、いつも自分の研究に使っているであろう黒板とチョークを使い始める。


「4つの系統は2(つい)から成っている。フェアリー・ゴッド・マザーを始祖に持つ『無限と調停の系統』、マレフィセントを始祖に持つ『有限と保全の系統』、ゴーテルを始祖に持つ『革新の系統』、そして……ロットバルトを始祖に持つ『破壊の系統』だ。基本的に、どの魔法使いもいずれかの系統に属し、扱える魔力もその系統のものに限られる」

「んー……モルガン様は『破壊の系統』か?」

「いやはや、君の直感力には舌を巻くね。その通りだとも。(つい)を成すのは『革新の系統』。よってあのお方の魔力は『マレフィセントの涙』への干渉が不可能となる」

「対じゃねーと無効化されちまうのかよ。んじゃ、対じゃねー系統(モン)同士でバトルになったらどーなんだ?」

「いかなる場合でも、『有限と保全の系統』もしくは『無限と調停の系統』が勝る。そちらの対がより稀少であり、優位であるのだよ」

 なるほどなー、と背伸びをしてからクッキーをかじるサーヴを前に、ハッターも自分に入れた紅茶を少し飲み進める。


 そこからの「講義」は長かった。ハッターがこれまで調査し尽した有名な魔力保持者がどの系統に属し、どのような魔法を得意として来たか、一人ひとりについて(細かい分析を含め)語りつくしていく。サーブの方は半ばボーッとしながら彼の言葉を耳に通していき、時折「クッキー追加くれ」と皿をコンコンとつついた。

 2時間以上に及ぶハッターの話をまとめると、4つの系統にはそれぞれ使える力に方向性があるらしい。「無限と調停の系統」は「予知」、「有限と保全の系統」は「記録」、「革新の系統」は「創造」、「破壊の系統」は「支配」をベースにした魔法を使うそうだ。


「……ただ、この時代にはこれらの原則を凌駕している存在がいてね」

「凌駕? 何だソレ」

「元キャメロット政務官にして、現ハートキングダム宰相・マーリン……かの大魔法使いは、『記録』『創造』『予知』と3系統の魔力を扱うことができる」


 ただし、ハッターの分析によればマーリンがメインとして使うのは「記録」魔法であり、今では時折「創造」魔法を使う程度、「予知」魔法については全くと言っていいほど使用していないという。その真偽がどうであれ、マーリンはかなり厄介な存在だと感じたサーヴは、それまでより少し乱暴にクッキーをかじった。


「ちなみに言っておくと、君の能力は『有限と保全の系統』にあるのだよ。後天性でその系統の恩恵おんけいにあやかれるのは大変珍しく、とても興味がそそられるのだがね」

「冗談じゃねぇ、解剖は遠慮しとくぜ。恩恵っつーか貰いモンだしよ。カーミラってのをぶっ飛ばしたかったんだが、俺が()りに行く前に死にやがった」

「ほう。それでは貰い損になったということかね」

「いんや……重宝してんぜ」


 指についたクッキーの粉まで1つ残らず舐めとり、サーヴは席を立った。ロビンが帰還して数時間経つ。モルガンが次の指示を出すなら、そろそろであるはずだ。


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